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第二十八話 メリアタウン防衛戦 Ⅲ

「レイさん!」


 突如レイ達の後方から女性の声が聞こえてきた、聞き覚えのある声にレイはその正体がミトだと知る。


「駄目だミトさん、逃げて!」


 だがレイの声は届かなかった、地面と城壁が破壊される音でその声はミト達へ届くことは無かった。ミト達が彼らの元へと走ってやってくる、その手には各々の武器が握られている。


「姉さん、あそこ!」


 ミトの隣を走っていたミラが巨大な氷の塊を見つけて中に居るレイ達四人の姿を微かにだが捕らえた。だが彼女たちがそれ以上近づくことはできなかった。城壁が崩れて彼女たちの前に落ちてくる、道を塞がれた状態の彼女達は迂回を試みようとするが左右にも瓦礫が落ちてきて前に進むことが出来なくなってしまった。

 ちょうどその時、巨人から発せられる光が一段と大きさを増す。一回り大きくなった光の柱は容赦なくレイが作り出す氷の防壁を破壊し始める。その衝撃は奇しくもミト達の前に塞がっていた瓦礫を吹き飛ばす形になる。彼女達はギリギリの処で耐えているレイ達をその目ではっきりと目撃した。その瞬間――。


「あ……っ!」


 突如ミトの目の前が真っ白になった、そして次々と記憶にのない光景が浮かんでくる。それらは今目の前にしている情景と偶然にも酷似していた。またほぼ同時にミラとファリックも同じ景色が鮮明に浮かび上がってきていた。記憶を失っているはずの彼女達に一部の記憶が瞬間的に呼び起こされる。

 頭が割れそうなほどの痛みが彼女達を襲った、だが頭の中に浮かび上がるイメージは止めどなく湧いて出てくる。見知らぬ人、見知らぬ場所で彼女たちは戦っている。その相手こそが目の前に立ち塞がる巨人に見えた。


「思い出した、アレは――」


 確かに見た記憶がある巨人と、現状レイ達が置かれている場面。それらは以前彼女達三人が目撃した状況に酷似している。そして自分達もまた戦っていたのだと思い出す。それが一体何時で、何処で、何の目的で戦っていたのかは分からない。しかし、確実にそれは敵対していた。


「アレは、私達を追ってきた『ガーディアン』」


 無意識のうちに彼女の左手にエーテルが注ぎ込まれて光の球体を作り出していた。それを宙に放ると右手に持っている杖で叩く、衝撃が加わった瞬間光の球はいくつかの小さな光の弾丸へと姿を変えて拡散しながら巨人の顔へと飛んで行った。それと同時にミラがレイ達の元へと走った。槍を左手に持ち替えて右手にエーテルを集中する、作り上げられたのは風、それを地面に叩きつけるとミラの体がフワッと浮かび上がった。


「ファリック、ダイレクトサポート宜しく!」

「了解っ!」


 崩れていく瓦礫を走りながら無事に残っている城壁上部へとたどり着いた。ほぼ同時刻にミトの光の弾丸が巨人の顔に直撃し少しだけ後ろへとのけ反った。

 次にミトはもう一度エーテルを練り上げ始め光の球を作り出し、それを巨人が放った光の柱の中に居るレイ達目がけて放つ。氷の防壁に囲まられている彼らの元へ届くと光の球は弾けて彼等四人の傷を癒し始めた。高度な回復法術である。

 ぐらついた巨人が城壁に居るミラを発見すると右腕を振り上げてミラ目がけて薙ぎ払う。だがその腕はミラへと届くことは無かった。一発の銃声が聞こえたその時巨人の腕に弾丸が着弾すると軌道をずらしてミラの手前数センチの所を掠めていった。


「ナイスコントロール」


 ミラがニヤッと笑うと振り下ろされた腕に飛び乗った、そのまま巨人の上部へと走りだし頭部を目指す。

 二度の攻撃を受けた巨人は完全にバランスを崩しレイ達に向けて発射されていた光の柱が彼らの元からずれて直ぐ近くの城壁へと直撃し破壊していく。


「レイさん!」


 彼らへの攻撃がずれたのを確認したミトが四人に向かって走り出した。レイもまた攻撃が止んだことで展開していた氷の防壁を解除する。防壁の幅残量僅か数センチ、間一髪である。


「ミトさん、何で――」

「話は後! 今はアレを倒します」


 消耗しきったレイに彼女は自信のエーテルを分け与える、それを見たアデルが驚愕した。契約も無しにこんな高等法術が使える事に驚いたのだ。


「あんた、一体何者なんだ」

「だから話は後って言ってるでしょ!」

「あ、はい」


 ガズルとギズーもまた驚いた、先ほどまでのミトとは全く持って別人だったからだ。あの大人しそうだった彼女がアデルをも言い負かすほど強気で啖呵を切っているのだ、これにはレイもキョトンとしている。


「これで動けるはず、今はここから逃げて。巻き添えを喰らうわよ」


 レイの手を取って走り出した、それに続けてアデル達も急いでその場を後にする。全速力で城壁内へと向けて走る彼等。そこにアデルがまた口を開いた。


「なぁ、巻き添えってなんのだ?」


 アデルの質問に対してミトは振り向かずに開いている手で巨人の頭部を指さす。そこには登り切ったミラの姿があった。槍を巨人の頭上遥か上空へと投げるとすぐさま詠唱に入る。長い詠唱を唱えながらエーテル巨大に練り上げていく、その体からは剣聖結界時に放出される具現化されたエーテルのオーラが姿を現した。彼の頭上に上昇気流が発生し分厚い雲を形成していく、その雲の中では静電気が発生しそれが巨大な雷鳴をとどろかせる。長い詠唱を唱え終わったミラは目を開きその場を飛んで槍を掴みさらにその上空へと槍を投げ飛ばした。


雷帝魔槍撃ライトニング・ダッシャー


 放り投げた槍に雷が直撃した、避雷針の役割を槍が果たしそこから一直線に雷が巨人へと降り注いでくる。槍に直撃した時ミラがエーテルを槍に注いでいた為雷はその威力を増大し巨大な落雷となって巨人にぶつかった。


「これの巻き添え!」

「巻き添えって、あんたの弟巻き添えになってんじゃねぇか!」


 アデルは振り返り巨人を覆いつくすほどの巨大な落雷を目撃した、今までこれほどまで大きく巨大な雷を見たことなかった彼は思わず顔から血の気が引いた。もう少し逃げるのが遅かったら自分達もアレに巻き込まれていたのかもと思うとぞっとする。もう一度巨人の頭上に目をやるとあの雷の直撃を受けても平然としているミラが槍を回収して巨人の頭上に降り立っているのを見た。


「大丈夫、自分の攻撃位自分で防げるからあの子」


 その言葉通りミラは涼しい顔をしている。雷の直撃を受けた巨人は心臓部に巨大な電圧が掛かりその動きを止めている、ようやく安全な場所まで逃げてきたレイ達は振り返って巨人を見上げた。先ほどまで暴れまわっていた巨人が動かなくなったのをその目で見て終わったと感じ、肩の力を抜いた。しかし――


「まだよ、『アレ』にはもう一段階ある」


 勝った、そう確信している四人に対して水を差す様にミトが現実を告げる。その言葉通り巨人の目は再び赤く光りだして各接続部分から火花を散らしてもう一度動き始めた。

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