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第二十九話 運命の日 Ⅰ

 再び巨人の目が赤く光り、各接続部から火花を散らして再び動き始めた。巨人の頭上に槍を構えて立っているミラは突如動き出した巨人にバランスを崩してしゃがみ込む。どこか掴むところが無いかと必死に探すが頭部はつなぎ目どころか凹凸すら見えない。次第に巨人の前の方へ滑り、そして落ちた。

 だがミラは慌てなかった、落ちると直ぐに右手に持っている槍を口にくわえると両手にそれぞれ風の法術を別々に練り上げた、胸部まで落下した時、巨人目掛けて左手に圧縮した風を思いっきりぶつける。まるで大砲が発射されたような轟音が街全体に鳴り響きミラの体はその反動でまっすぐ後ろへと吹き飛ばされてしまう。圧縮された風をぶつけられた巨人はビクともしない。

 そこまではミラの予想通りであった、苦笑いを一つして勢いよく吹き飛ばされていく。途中体を捻って地面に誰もいないことを確認すると右手に作り出した風を地面に叩きつける。また轟音が一つなった。叩きつけられた風は地面にぶつかると周囲に強風を巻き起こし、少し離れた所に居るレイ達に容赦なく襲い掛かる。

 一瞬だけ体の動きが止まり滞空する、もう一度体を捻って口に銜えた槍を空に向けて放すと片膝をついて着地する。そのすぐ横、右手をいっぱいに伸ばすと手の平に槍が帰ってきた。


「あんたの弟すげぇな」

「えぇ、自慢の弟よ」


 その一部始終をアデルが見て素直に褒めた、姉のミトも自慢げに語る。当の本人は褒められたことなど知らず巨人がこちらへと動き出す前にもう一つ攻撃をする準備に入った。

 腰を深く落とし前傾姿勢を取ると折り曲げた右足に力を込める、そのまま地面を思い切り蹴って前へと走り出した。その傍で二丁の拳銃を構えているファリックの隣を通り過ぎ言葉を交わす。


「ファリック、再装填リロードは?」

「終わってるよ!」


 すれ違いざまに二人は互いの目を見た、よほどの信頼関係なのだと推測が付く。止まることなく駆け抜けるミラの走る速度は徐々に上がり始める。走りながら風の法術を詠唱し周りの空気抵抗を極限にまで下げていた。同時に自分の背中に風が流れるよう調整も入れその効果はミラ自身の走る速度を加速させる。炎帝剣聖結界ヴォルカニック・インストール自のアデル程とは言わないがそれに近い速度を最終的には叩きだした。巨人の足元まで走ると再び地面を蹴って飛び上がる。体を垂直に走り一気に腰の位置までと駆け上がった。そこには下半身と上半身を接続する部位が火花を散らしていた。ミラはソレ目がけて右手の槍で突き刺す。霊剣ですら歯が立たない巨人の装甲を他の武器で傷つける事が叶わない今直接刃を入れるにはこれしかない。槍が突き刺さった場所は一度小さく電気が走って爆発を起こす。そこに渾身のエーテルを叩きこんだ。


雷帝攻弾槍ライトニング・アーツ


 ミラの握る槍に猛烈な電圧が一気に掛かると突き刺さっている接続機関にその電流が一斉に流れ始めた。再び膨大な電流が流された巨人の体は動きを止める、大きなその体は細かく振動しながら体の細部にまで一斉に電流が走る。数万ボルトにも達する巨大な電気をまともに流された巨人は甚大なダメージを負った。散らしていた火花は一層激しくなり各部位で爆発が起こり始めた。

 槍を引き抜き巨人の体を蹴ってその場を離脱するミラだが、巨人の目はその姿を捉えていた。全身がしびれて動き辛いのだろうその体、しかしそれはきっと巨人にとって最後の攻撃になるはずだった。巨人の目が一段と輝きを増すとミラに目がけて先ほどの光線を発射しようとしていた。そう、今まさに発射しようとしたその時だった。

 地上から銃声が聞こえる、そこにはファリックが両手に銃を構えて巨人の目を狙ってトリガーを引いていた。聞こえた銃声は一発、だが巨人の目に着弾した弾丸の数は全部で十二発だった。ミラはそれを確認すると口をいっぱいに広げて。


「ざまぁみろ!」


 笑顔で叫んだ。

 後方でそれらを見ていたレイ達には一瞬何が起きたのかが理解できなかった。彼等も聞いたその銃声、確かに一発だけのはずだった。しかし巨人の顔に残された弾痕は全てで十二発。それは間違いなかった。ギズーはその異常な光景を目にして咄嗟にファリックへと視線を落とす。

 ファリックの体は少しだけ後ろへと押され出したかのように下がっていた、それを見たギズーが今この少年が何をしたのかを咄嗟に悟った。


「まさか……今の一瞬でシリンダーの弾丸全部を打ち出したのか」


 驚異的、まさに驚異的な早打ちである。そう、答えは簡単だが決して真似をすることなどできないその技術。ファリックはあの一瞬で片方六発の弾丸を二丁全て打ち切っていたのだ。銃声が一発しか聞こえなかったのではない。全ての銃声が一発に聞こえてしまうほどの速度で早打ちを行っていたのだ。一発の弾丸の威力で足りなければそのすべてを一度にぶつけてしまえばいい。言うことは簡単だが、いざヤレと言われれば誰もが首を横に振るだろう。シフトパーソルの扱いに長けているギズーですらそんな芸当不可能なのだ。


 光線の発射部分を潰された巨人はついに抵抗することができなくなり、次第に痙攣をおこしていた巨大な体はその機能を停止し始める。ゆっくりと動かなくなった巨人をミラはその目で確かに確認した。巨人はゆっくりと後ろへと倒れ始め、木々を倒しながら森へと倒れた。

 決着がついた、突如として出現した謎の巨人は結果としてこれもまた突如現れた少年少女三人の手で終息を迎えた。レイ達の攻撃は一切通用しなかったあの巨人をたったの三人で止めてしまったのだ。それは同時に脅威でもあった。


「っ!」


 ギズーの後ろに居たミトに対してギズーは何の躊躇もなくシフトパーソルの銃口を向けた。


「てめぇら……一体何モンだぁ?」

「ギズー!?」


 二人の間に割って入るレイ、だがギズーはその銃口をレイの顔越しにミトを狙っていた。表情は険しく眉間にしわが寄っている。レイは同時に恐怖の感情も読み取っていた。


「俺達が四人がかりでも倒せなかったアレをたったの三人で倒したんだ、しかもあのミラって餓鬼――同時にいくつもの法術を使ったみてぇじゃねぇか? そんなことが可能なのは極稀なんだろレイ」

「確かに、多重属性使いは希少だ。だけど僕や先生だってそうだ、稀に生まれてくるしそれだけで危険だと決めつけるのは不十分だろう? アデルとガズルも見てないで止めてよ」


 殺意を剥き出しに喋るギズーに対してレイは横で見ている二人に助けを求める、しかし二人ともギズーの気迫に押されていて動くことを躊躇しているように思える。それはきっと今動けばギズーは引き金を引いてしまうかも知れないという恐怖でもある。元よりレイの言葉はギズーに届いていなかった。


「答えろ女!」


 今まで見た事の無いその気迫にレイも一歩後ろへと下がってしまった。付き合いがそれほど長い訳ではないがここまで感情を露にしている親友の姿を見るのは初めて、いや、一度だけ……たった一度だけ見た事のある表情だった。


「テメェらは一体何者で何が目的だ、あのデカブツは何だ? 何故あの餓鬼がいろんな法術を使える、ファリックとかって餓鬼もあの技術は一体何だ!」


 捲し立てる様にミトへと一歩迫る、間に割って入っているレイ越しに銃口を突き付けたまま決して目標を外すまいと狙いを定めている。ミトはその表情と浴びせられた幾つ物質問に対してため息をついた。それがギズーの逆鱗に触れる。


「このアマぁ!」

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