目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第二十九話 運命の日 Ⅱ

 左手でレイの上着を掴んで引き寄せる、レイがよろけると銃口の先に障害物が無くなり標準が完全に定まった。そして引き金を引いた。


「っ!?」


 完全に殺すつもりで居たのだろう、それだけに自分に起きた事が理解できなかった。確かに引き金は引いた。銃口から硝煙の匂いがする。弾丸が発射された反動も手に伝わっている。それだけに目の前でミトが無傷で立っていることが不思議でたまらない。だがそれは自分の腕の角度と残る痛みで理解した。

 引き金を引く直前、バランスを崩したレイによってギズーの腕を蹴り上げていたのだ。狙いを定めていた銃口はミトの遥か上空へと向けられて空に弾丸を射出していた。


「頭を冷やせギズー、まだ彼女たちの話を聞いてない」

「このお人よしが! こんな得体の知れない奴らを――」


 ギズーの言葉はそこで途切れた、正しくは悶絶して言葉にできなかったのだ。彼のみぞおちにはガズルの右手が突き刺さっている、一瞬だけ隙を見せたギズーに自身の動きを悟られないようにゆっくり、そして静かに動いていた。

 苦しさのあまり右手の力が抜けて地面にシフトパーソルを落とす、腹部を押さえて地面に倒れようとしたギズーをガズルが抱きかかえて押さえた。シフトーパーソルはアデルが拾い上げて腰のベルトに差し込んだ。


「有難うレイさん、助かりました」

「肝が据わってるねミトさん、ギズー相手にさっきの対応は流石に冷っとしたよ」

「あら? 確信はありましたよ。レイさんが多分何とかしてくれるって」


 悶絶しているギズーはゆっくりと呼吸を整えて今一度ミトを睨んだ、それでもミトはギズーから向けられる殺意と疑惑の視線から目を離さずじっと見つめたままでいた。その様子をアデルは交互に両者の顔を見て呆れる、そして彼らの後方で銃をこちらに構えているファリックに対して。


「もう大丈夫だ、すまねぇな」


 そう一言だけ詫びた。

 それを聞いたファリックは未だに拳銃を下さずギズーに狙いをつけたままでいた。そこにミラが歩み寄り方を叩いて拳銃を下すよう促す。


「前途多難だな全く」


 もう一度両者の顔を見てから機能を停止した巨人を見てアデルが呟いた。





 それからの事、レイは通信機を使って指令本部へと巨人は完全に沈黙した事を告げる。それを合図に傭兵部隊が一斉に瓦礫の影から出てきた。ここで彼等を攻めてはいけない。何故なら彼等は司令部の指示であえて動くなと指示されていたからだ。理由は単純明快、レイ達の足手まといになると判断されたからだ。

 数が物を言う対人戦争であれば彼等傭兵部隊も活躍の場はあるだろうが、司令部はアデル達の攻撃が一切通じない事を無線で聞き即座に判断したのだ。半分は住民の避難へと向かわせもう半分はいざという時の為に待機させていた。この判断は間違っていなかった。結果だけを見れば巨人を倒したのはミト達三人であるが。

 傭兵部隊は即座に行動を開始した、倒れた巨人の調査と街の復旧作業へと向かう。正直こればっかりはレイ達も感謝している。細かい雑務を全て押し付けているようで後ろめたい所は否めない。だがこれは彼等傭兵部隊からの申し出でもある。一度帝国兵が攻めてくれば彼等もまた前線へと出向く、それはこの街に駐在している民間兵や傭兵、またFOS軍も然りである。だがこの街最大の戦力であるFOS軍には普段大事を取って貰いたい。この戦いに勝つことが出来るのであれば彼等は喜んで雑務をこなすとレイ達に告げていた。


 彼等は自分達のアジトへ戻ると応接室に集まった、プリムラ達は怪我人の対応に追われているころだろう。しばらくは戻ってこないと思われる。ガズルの方に捕まりながらアジトに戻ってきたギズーは真っ先に椅子に座らせられた、ガズルは申し訳なさそうにギズーに治癒法術を唱えている。思いのほか良いのが入ってしまったようだ。

 他の面々もそれぞれ椅子に座って一息を付く。


「それで、あんたらは一体何者なんだ?」


 アデルが開口一番に質問する、先ほどミトの口からでた言葉を確認するかのように。

 ミト達三人は固まって座っている、その中央にミトが居て左右から挟むようにミラとファリックが座っている。三人は互いに顔を見合わせて少し困惑した表情をしていた。数秒沈黙が流れた後ミトが口を開く。


「分かりません、あの巨人を見た瞬間戦い方とアレの倒し方を思い出しただけ。私達がどこから来たのかはまだ分かりません」

「テメェ! そんな話誰が信じると思ってやがる!」

「そう言っても分からない物は分からないの!」


 真っ先に噛みついたのはギズーだった、ようやく呼吸が整い苦しさから解放されたギズーがテーブルを右手で叩きつけながら吠えた。


「落ち着けよギズー、手から血が出てるじゃねぇか。それはテメェで直せよ?」

「うっせぇな。そんな事分かってら!」


 回復法術でギズーを癒しているガズルが彼の手の傷について文句をつける、先のダメージは自分がやったことだからと治癒しているが自業自得で出来た傷までは面倒見切れないと苦情を入れる。ギズー本人もそれは分かっているだろう事で反を返した。


「でもレイさんとアデルさん。あなた方二人は見覚えがあるわ、どこかでお会いしてます?」

「少なくとも俺は覚えてない、レイお前はどうだ?」

「申し訳ないけど僕も知らないかな、どこかで見かけただけじゃないのかい?」


 突然問われた二人は即答した。記憶力は良いこの二人だが揃って答えは「覚えていない」だった、各地を旅してまわってたこの二人であればどこかで見かけた事がある可能性は否定できない、しかしミトは首を横に振って否定した。


「見かけたのではなく、多分一緒に行動していたが近いと思うのよ。その辺は曖昧だから断言できないけど……でもあなた達二人の顔はなぜかよく知ってる、そんな気がする」


 そう語るミトの目に嘘をついてる様子は感じ取れなかった、それでもレイとアデルは過去にミトとあったことも無ければ一緒に行動を共にした事も無い。それは断言できる内容だった。思い出してほしい、グリーンズグリーンから東大陸へと出航した時に出会ったメルの事を。レイはギズーを探す旅の最中に出会いそれ以降女性と行動を共にすることは無かった。またアデル達は義賊として活動しておりそこには男しかいなかった。つまり彼らがミトと接触をし行動を共にした事など無いのは明白なのである。

 だが先にも触れた通りミトの目に嘘を付いている様子は感じ取れない。それはギズーにもはっきりと分かるほど真っすぐに四人を見つめていたからだ。


「っち、嘘はついてねぇみたいだな。だがそれでもお前たちはどこの誰だって話に戻るわけだが――」

「一つ質問させてくれないか?」


 これまたギズーの会話を遮るようにガズルが割って入る、舌打ちをしてからギズーは会話を遮った張本人を睨みつけてから椅子に深く座って足をテーブルの上に乱暴に乗せた。気が立っている、誰でも一瞬でそれが分かる程に。


「こう見えても学者の端くれだ、謎解きじゃないんだろうが俺達四人の中じゃ一番物を知ってると思う。医療に関してはギズーに負けるけどな」


 不貞腐れているギズーを一度ヨイショしてフォローする、でもギズーの虫の居所は悪いままである。回復法術を使いながら一度深呼吸をしてミト達に語り掛ける。


「ずっと気になってたんだが、何だそれ」


 ミラの首にぶら下がっている金属に指を刺した。同じものがミトとファリックの首にもぶら下げられている。色は銀、鎖に繋がれていて先端にプレートの様なものがぶら下がっている。ミトは服の中に入っていたが首には銀色の細い鎖が光っていた。ぶら下がっているのが目に映ったのは最初ミラの物だった。それから三人をじっくりと観察すると他の二人にも同じ鎖が見えた。


「え、なにこれ」


 指摘されて初めてミトがそのアクセサリーに気が付く。ミラは何か邪魔なものが在る程度にしか認識していなかったようで特に慌てることは無かった。隣で大慌てして服の中からそのアクセサリーを出すファリックに思わずミラが笑う。


「三人とも同じ物なら、何かアンタ達の手がかりになるじゃないかと思ったんだ。よかったら見せてくれ」


 言われて首からアクセサリーを外して一度ミトがマジマジと見つめ、そしてガズルに手渡した。受け取ったガズルは眼鏡を掛けなおして目を細めてじっくりと観察する。プレートの表にはミトの名前が刻まれていてその横にも文字が羅列している。


「タグ……か?」


 どこかの軍隊の様な名称が掛かれているがその名前は聞いた事の無い部隊だった。ひっくり返して裏面を見てガズルは思わず声を荒げる。


「は!?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?