夜が明けて朝になる。目覚まし時計の魔石がジリリリと音を上げてラミッタは起き上がった。
「うーん、朝ね……」
隣を見るとマルクエンの姿が無い。先に起きたのかと周りを見渡すと、ソファで寝ているマルクエンが居た。
「宿敵、起きなさい」
頭を軽く引っ叩くと、マルクエンは目を覚ます。
「うーん、あぁ。おはようラミッタ」
「私の隣はよっぽど嫌だったみたいね」
何故か不機嫌なラミッタにマルクエンは言葉を返そた。
「いや、嫌では無かったが」
「なっ!! ド変態卑猥野郎!!」
「理不尽だ!! 昨日はラミッタがすぐ近くまで来てな。起こすのも悪いと思って……」
それを聞いてラミッタは顔を赤くする。
「う、嘘でしょ!?」
「いや、本当だ」
うーっと下を向くラミッタ。
「と、とにかく!! まぁいいわ、シヘンとケイには一緒のベッドで寝たって内緒ね!!」
「恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいって言うか……。色々勘違いされるでしょ!! 普通考えたらわかるでしょ!?」
そういうものかと、マルクエンは納得して身支度を済まし、部屋を出る。
「ゆうべはエンジョイでしたね」
宿屋の主人からこっそりマルクエンは耳打ちされた。
まぁ、確かに泡の風呂は面白かったと思い返事をする。
「えぇ、新鮮な体験でした」
「それは良かった!」
その後、シヘンとケイもロビーにやって来て賑やかになった。
「おまたせーッス!!」
「お待たせしました」
「よし、それじゃ昨日の祠に行って何か魔王の手掛かりを探すわよ」
外へ出ると、爽やかな朝に似つかわしくない高らかな笑い声が聞こえてくる。
「やっと足取りを掴んだわよ!! そろそろ私の下僕になりなさい!!」
「き、貴様はシチ・ヘプター!! っと、手下のちっこいの!!」
シチは名前を覚えていて、呼ばれたことに顔を赤くし、身震いする。手下のちっこいのは怒っていた。
「誰がちっこいのだ!!!」
「はいはい」
ラミッタが面倒くさそうに地面を踏むと、土壁が二人の足を拘束する。
「なっ、卑怯よ!!」
「そうだそうだ!!」
「アンタ達、死ぬか協力するか選びなさい」
そう言われ、シチは頭に疑問符が浮かぶ。
「協力って、なにかしら?」
ラミッタは手短に昨日の出来事を説明する。
「なるほど、多分その魚の魔物は
「造られた?」
ケイがそう口にすると、シチは頷いて話し始めた。
「魔物は、自然に生まれるものと、魔人や魔王が造ったものがいるのよ」
「そうか、それで祠に何か手掛かりがあるかもしれないんだ。そうでなくても、結界を修理したい。協力して貰えないだろうか?」
「条件次第ね」
シチの言葉を聞いて、ラミッタは呆れを通り越して感心ている。
「あんた、よくこんな状況で交渉できるわね」
「もちろん、報酬なら払う」
「ほ、報酬って何かしら?」
ソワソワするシチ。頭の中ではマルクエンにあんな事やこんな事をされている妄想が広まっていた。
「いや、金貨1枚でどうだろう?」
ラミッタと相談したマルクエンが言う。
「金貨1枚!? やりましょう姉御!! これで飯が食えますぜ!!」
「そうね、金貨1枚……。って金貨1枚!?」
別の報酬を期待していたシチは変な声を上げる。
「た、足りないか?」
「むしろ高すぎるぐらいよ。さぁ、土の中に埋まるか、協力して金貨1枚を得るか、選びなさい」
「わ、わかった。わかったわよ!!」
ラミッタはシチ達の拘束を解いた。
「でもちょっと待った!! 私からも報酬の交渉がある!!」
手下がそんな事を言って、全員がそちらを向く。
「朝ごはんを要求する!!!」
全員がポカンとしてから、あぁ、朝ごはんかと言ってる事を理解した。
「シチさん達、また食べていないんですか?」
シヘンが尋ねると手下は胸を張って言う。
「今度は三日食べてない!!」
「いや、それ偉そうに言うことじゃ無いっスから」
「恥ずかしいことを言うな!!」
シチは手下に向かって大声を出した。
「私達も食べに行く所だったわ。それぐらい恵んであげるわよ」
「し、仕方ないわね。食べてあげるわ」
「嫌なら無理しなくてもいいわよ」
虚勢を張るシチにラミッタはそう告げてスタスタ歩いて行ってしまう。
「シチ、良かったら食べて欲しい」
「し、仕方ないわね!!」
マルクエンの助け舟にシチは乗っかった。
料理店へ向かうと、シェフが朝食のパンケーキと目玉焼き、ベーコンを焼いてくれる。
「ヒャッハッハッ甘いもんと肉だー!!!」
シチの手下は待ちきれんばかりに身を乗り出す。
「恥ずかしいことを言うな!!」
シチは先程と同じセリフを言うが、待ちきれない気持ちは同じだった。
「それじゃイタダキマス!!」
朝食を済まし、シェフとお金は要りません受け取って下さいの押し問答を終え、半ば強引にお金を置いて祠へと向かう。
「思ったんだが、シチは冒険者をやるつもりはないのか?」
道中、疑問に思ったマルクエンがふと尋ねてみた。
「私は高潔なる黒魔術師!! 冒険者なんて汗臭い事はゴメンだわ」
「ろくに食べられもしないで何が高潔よ……」
ラミッタはシチの言葉を聞いて呆れる。
取り留めもない会話をしていると、川沿いまでたどり着き、そのまま上流へと向かう。