「見えてきたな、あそこだ」
マルクエンが指差す先には件の祠があった。
「ふーん、あそこが水の神様が居る祠ってわけね」
シチが遠目に眺めて言う。祠の入り口までたどり着くと、シチは何やら辺りを見回し、壁に手を当てる。
「なるほどね、金属を急速に腐食させる……。水の神様と呼ばれるにふさわしい効果だわ」
「何か分かったか?」
マルクエンが尋ねるとシチは答えた。
「多分、条件付きダンジョンなのでしょうけど、金属を腐食させる結界は正常だわ」
「じゃあ、何で魔物が居たのよ」
ラミッタが片目を開けて言う。
「本来であれば、魔物除けの結界も作動しているはずだわ。その結界が書き換えられているみたいね」
シチの言葉にシヘンは少し考えてから発言した。
「やはり、魔人の仕業なのでしょうか?」
「恐らくはね、魔人か、その部下か」
「
マルクエンの言葉にシチは軽く答える。
「あるわ、この祠の中に入ってまた結界を作動させれば良いのよ」
「そうか、それじゃ早速行くか」
「また金属を脱ぐの? 面倒くさいわね……」
ラミッタは文句を言いながらも金属のプレートと剣を外した。マルクエン達も各々金属を手放し、祠の中へと入って行く。
今回は魔物もおらず、簡単に最深部へと辿り着くことができた。
「あぁ、この社の中だわ」
シチは祀られている社を開けて、中に手をかざす。
「5分もあれば書き直せるわ」
「流石だなシチ」
マルクエンに褒められ、顔を赤くするシチ。
「姉御なら、こんな事ぐらい朝飯前だぜ!!!」
シチの代わりに得意げにしていたのは手下だ。
しばらく沈黙が続き、シチがふぅっと息を吐く。
「終わったわ、これで低級の魔物は近寄れないはずよ」
「そうか、ありがとうシチ」
「べ、別に、金貨のためよ!!」
シチは赤い顔を悟られないようにそっぽを向いた。
「それじゃ、こんなジメジメした所からさっさと出ましょう」
ラミッタは罰当たりな事を言って出口へ向かおうとする。
その時だった。嫌な魔力を感じ取り、ラミッタの顔が険しくなる。
「お出迎えが来たようね」
「何っ!?」
駆け出すラミッタに続いてマルクエンも走り出す。
「ちょっ、待ってくださいよ!!」
ケイとシヘンも後を追いかけ、取り残されたシチと手下。
「なになに!? 何なのよ!!」
祠の出口に近付くと、眩しい日差しの中に人影が見える。
「来たな、転生者共!!!」
「アンタは!?」
短い銀髪で、浅黒い肌。筋肉質な体格をした男がそこには居た。
「俺は魔人『タージュ』様だ!! 冥土の土産に教えてやるよ」
タージュと名乗る男は大声で笑いながら言う。
「何だか知らないけど、死になさい!!」
ラミッタは手のひらから業火を射出し、タージュという魔人に浴びせようとした。
「おっと、危ねぇ」
タージュはさっと避けると、ラミッタを見てニヤニヤと笑っている。
「宿敵、魔人よ」
「あぁ!!」
一足遅れたマルクエンだが、状況は大体理解できた。
「おーっと、貴様はー? マルクエンだか
「お前みたいな奴なら大丈夫だ、問題ない」
マルクエンは
「でもなぁ、俺様は卑怯な戦いが嫌いなんだよ。フェアじゃねえとな? ほーら剣だ、受け取れー!!!」
タージュは二人の剣を祠の中へとぶん投げた。
慌てて剣を掴み取ろうとするマルクエンとラミッタだったが、祠の中へと入ってしまい、一気に錆びてボロボロになってしまう。
「貴様ァ!!!」
普段、怒りの感情を表に出すことのないマルクエンだったが、魔人の行動に激昂した。
そんな姿を見たことが無かったラミッタは少し驚き、やって来たシヘン達も大声にビクリとする。
「宿敵、落ち着いて!!」
「……、あぁ、大丈夫だ」
大丈夫とは言ったが、マルクエンは静かな怒りに支配されていた。
「ラミッタ、援護を頼む」
「援護って、丸腰で戦うつもり!?」
「あんなゲス野郎は拳で十分だ」
タージュは曲刀を取り出してくるくると回している。
「死ぬんじゃ無いわよ!!」
ラミッタは雷の魔法を飛ばし、それと同時にマルクエンが突っ走った。
「近寄れるかぁ?」
タージュは曲刀を縦横無尽に振り回し、マルクエンを牽制する。
「アンタもボサッとしてないで何かしなさい!!」
ラミッタがシチにそう言うと、ハッと我に返った。
シチも鋭い氷を連発で飛ばし、タージュの妨害をする。
シヘンはそんな二人に及ばないながらも、火の玉をタージュに飛ばし続けていた。
「私も行くわ!!」
ラミッタは魔力で創った雷の剣でタージュの元へと向かう。
そのまま斬り合うが、お互いに攻撃は通らなかった。
「面倒くせえなー!!!」
遠距離から来る魔法にイラついたタージュは、鉄の針を祠に向かってばら撒く。
「黒魔術師を甘く見ないことね!!!」
シチは魔法の防御壁を展開し、それらをすべて防ぐ。
「っち、黒魔術師が居たのは予想外だったな」
黒炎と稲妻を飛ばすシチはタージュにとって厄介だったのだろう。一気に祠に近付くと、防御壁を曲刀で斬り壊した。
「ちょっとねんねしてな」
タージュは袈裟斬りにシチを斬りつける。鮮血が飛び、シチの絶叫がこだました。
「ああああああああ!!!!!」
「姉御!!!」
「シチ!!!」
マルクエンは駆け寄ろうとするが、タージュが立ちはだかる。
ラミッタが魔法の剣で斬りかかるも、弾かれ間合いを取られた。