目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

結界を直そう

「見えてきたな、あそこだ」


 マルクエンが指差す先には件の祠があった。


「ふーん、あそこが水の神様が居る祠ってわけね」


 シチが遠目に眺めて言う。祠の入り口までたどり着くと、シチは何やら辺りを見回し、壁に手を当てる。


「なるほどね、金属を急速に腐食させる……。水の神様と呼ばれるにふさわしい効果だわ」


「何か分かったか?」


 マルクエンが尋ねるとシチは答えた。


「多分、条件付きダンジョンなのでしょうけど、金属を腐食させる結界は正常だわ」


「じゃあ、何で魔物が居たのよ」


 ラミッタが片目を開けて言う。


「本来であれば、魔物除けの結界も作動しているはずだわ。その結界が書き換えられているみたいね」


 シチの言葉にシヘンは少し考えてから発言した。


「やはり、魔人の仕業なのでしょうか?」


「恐らくはね、魔人か、その部下か」


なおす方法は無いのか?」


 マルクエンの言葉にシチは軽く答える。


「あるわ、この祠の中に入ってまた結界を作動させれば良いのよ」


「そうか、それじゃ早速行くか」


「また金属を脱ぐの? 面倒くさいわね……」


 ラミッタは文句を言いながらも金属のプレートと剣を外した。マルクエン達も各々金属を手放し、祠の中へと入って行く。


 今回は魔物もおらず、簡単に最深部へと辿り着くことができた。


「あぁ、この社の中だわ」


 シチは祀られている社を開けて、中に手をかざす。


「5分もあれば書き直せるわ」


「流石だなシチ」


 マルクエンに褒められ、顔を赤くするシチ。


「姉御なら、こんな事ぐらい朝飯前だぜ!!!」


 シチの代わりに得意げにしていたのは手下だ。


 しばらく沈黙が続き、シチがふぅっと息を吐く。


「終わったわ、これで低級の魔物は近寄れないはずよ」


「そうか、ありがとうシチ」


「べ、別に、金貨のためよ!!」


 シチは赤い顔を悟られないようにそっぽを向いた。


「それじゃ、こんなジメジメした所からさっさと出ましょう」


 ラミッタは罰当たりな事を言って出口へ向かおうとする。


 その時だった。嫌な魔力を感じ取り、ラミッタの顔が険しくなる。


「お出迎えが来たようね」


「何っ!?」


 駆け出すラミッタに続いてマルクエンも走り出す。


「ちょっ、待ってくださいよ!!」


 ケイとシヘンも後を追いかけ、取り残されたシチと手下。


「なになに!? 何なのよ!!」





 祠の出口に近付くと、眩しい日差しの中に人影が見える。


「来たな、転生者共!!!」


「アンタは!?」


 短い銀髪で、浅黒い肌。筋肉質な体格をした男がそこには居た。


「俺は魔人『タージュ』様だ!! 冥土の土産に教えてやるよ」


 タージュと名乗る男は大声で笑いながら言う。


「何だか知らないけど、死になさい!!」


 ラミッタは手のひらから業火を射出し、タージュという魔人に浴びせようとした。


「おっと、危ねぇ」


 タージュはさっと避けると、ラミッタを見てニヤニヤと笑っている。


「宿敵、魔人よ」


「あぁ!!」


 一足遅れたマルクエンだが、状況は大体理解できた。


「おーっと、貴様はー? マルクエンだか丸腰まるごしエンだか知らねぇが、そんな装備で大丈夫かなぁ?」


「お前みたいな奴なら大丈夫だ、問題ない」


 マルクエンはこぶしを構えてタージュを見据える。


「でもなぁ、俺様は卑怯な戦いが嫌いなんだよ。フェアじゃねえとな? ほーら剣だ、受け取れー!!!」


 タージュは二人の剣を祠の中へとぶん投げた。


 慌てて剣を掴み取ろうとするマルクエンとラミッタだったが、祠の中へと入ってしまい、一気に錆びてボロボロになってしまう。


「貴様ァ!!!」


 普段、怒りの感情を表に出すことのないマルクエンだったが、魔人の行動に激昂した。


 そんな姿を見たことが無かったラミッタは少し驚き、やって来たシヘン達も大声にビクリとする。


「宿敵、落ち着いて!!」


「……、あぁ、大丈夫だ」


 大丈夫とは言ったが、マルクエンは静かな怒りに支配されていた。


「ラミッタ、援護を頼む」


「援護って、丸腰で戦うつもり!?」


「あんなゲス野郎は拳で十分だ」


 タージュは曲刀を取り出してくるくると回している。


「死ぬんじゃ無いわよ!!」


 ラミッタは雷の魔法を飛ばし、それと同時にマルクエンが突っ走った。


「近寄れるかぁ?」


 タージュは曲刀を縦横無尽に振り回し、マルクエンを牽制する。


「アンタもボサッとしてないで何かしなさい!!」


 ラミッタがシチにそう言うと、ハッと我に返った。


 シチも鋭い氷を連発で飛ばし、タージュの妨害をする。


 シヘンはそんな二人に及ばないながらも、火の玉をタージュに飛ばし続けていた。


「私も行くわ!!」


 ラミッタは魔力で創った雷の剣でタージュの元へと向かう。


 そのまま斬り合うが、お互いに攻撃は通らなかった。


「面倒くせえなー!!!」


 遠距離から来る魔法にイラついたタージュは、鉄の針を祠に向かってばら撒く。


「黒魔術師を甘く見ないことね!!!」


 シチは魔法の防御壁を展開し、それらをすべて防ぐ。


「っち、黒魔術師が居たのは予想外だったな」


 黒炎と稲妻を飛ばすシチはタージュにとって厄介だったのだろう。一気に祠に近付くと、防御壁を曲刀で斬り壊した。


「ちょっとねんねしてな」


 タージュは袈裟斬りにシチを斬りつける。鮮血が飛び、シチの絶叫がこだました。


「ああああああああ!!!!!」


「姉御!!!」


「シチ!!!」


 マルクエンは駆け寄ろうとするが、タージュが立ちはだかる。


 ラミッタが魔法の剣で斬りかかるも、弾かれ間合いを取られた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?