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タージュ

「シチ!! 大丈夫か!? シチ!!!」


 マルクエンが叫ぶも返事は無い。一刻も早く手当てをしなければと魔人に向き合う。


「ははっ、残念だったな。転生者よォ!!」


 タージュとラミッタは斬り合いをするが、ほぼ互角だった。


 装備があればラミッタのが格上だったはずだが、今は魔力で創った剣以外に武器も防具も無い。


「お前だけは……」


 マルクエンはそう言った後に目を見開く。


「お前だけは!! 許さない!!!」


 その瞬間だった。マルクエンの体に青いオーラが纏わりつく。


「げっ!! 覚醒しやがったか!?」


「宿敵!?」


 ラミッタも見たことがない光景に困惑をする。マルクエンは自分の体に力がみなぎるのを感じた。


「何だこれは……」


 マルクエンは自身の体の変化に驚きつつも、目の前の魔人を倒す為に走る。


 一瞬で間合いを詰め、タージュの剣さばきもい潜り、右ストレートのパンチを顔面にお見舞いした。


「ぐあばっ!!!」


 衝撃で吹き飛ぶタージュ。絶命したかに思えたが、ぷるぷると立ち上がった。


「くそっ、覚えてやがれ!!!」


「逃さん!!」


 空を飛び、逃走を図るタージュに、マルクエンは空中で一回転し、かかと落としを決める。


「ぐふっ!!」


 その落下地点にはラミッタが待ち構えており、天高く剣を掲げていた。


 落ちるタージュの腹を剣が勢いよくつらぬく。


「がああああ!!!!」


 ラミッタはトドメにありったけの魔力で電撃を流した。


 青白い光が辺りを包むと、タージュは煙となって消えていく。


 勝利に酔いしれる間もなく、マルクエンはシチの元へと走っていった。


「シチ!! 大丈夫か!? シチ!!!」


 シヘンがシチの近くにしゃがみこんで手当てをしているみたいだ。


「ふふっ、この高潔なる黒魔術師が死ぬわけ無いじゃない」


 血相を変えて見てくるマルクエンにシチは微笑んで言った。


「喋るな!! 傷が……」


 そう言ってシチの傷口を確認しようとするが、思ったより血は出ていない。


「斬られる瞬間、防御の魔法を使ったのよ。それに、治癒術師ほどでは無いにしろ、自分の体ぐらい治せるわ」


「そうか……。良かった……」


 安堵し、マルクエンは深い溜め息をついた。


「あら、心配してくれたの?」


「当然だ」


 マルクエンに真顔で言われ、シチは顔を赤らめて目を伏せる。


「そう、まぁ、ありがと……」


「姉御がアレぐらいでやられるもんか!!」


 手下が自分の事のように、ふんぞり返って言った。


「あら、やっぱり無事だったみたいね」


 全てを見透かしていたのか、ラミッタは心配する素振りもせずに軽く言うだけだ。


 シチは立ち上がろうとするが、うまく力が入らずに、フラフラとしていた。


「大丈夫か?」


 マルクエンは体を寄せてシチを支える。


「怪我はそうでもないけど、血が足りないみたいね」


 冷静を装いながらシチが言うと、マルクエンはシチの前でかがむ。


「良かったら背負っていくぞ」


「し、仕方ないわね。偉大なる黒魔術師を背負う栄誉を与えるわ!!!」


 いそいそとマルクエンに抱きつくシチ。ひんやりと冷たい体温が伝わる。





 洞窟の外で金属の装備を回収し、マルクエン達は集落まで戻った。


「おぉ、マルクエンさん!! 皆さん!! 祠の方はどうでしたか?」


 宿屋の主人が出迎えてくれ、マルクエンは先程の出来事を話す。


「結界は直りました。しかし、魔人の襲撃があり、シチが怪我をしてしまいました」


「なっ、魔人ですか!? 大変だ、避難と治安維持部隊へ連絡を……」


 焦る主人にラミッタが言う。


「いえ、奴なら倒しましたので」


「ま、魔人をですか!? し、信じられない……」


「ともかく、この集落に当面の危険は無いと思われます。シチを休ませてやりたいのですが、宿は取れますか?」


「そ、それはもちろんですが」


 宿屋の一室へ通され、マルクエンはシチをベッドに降ろした。


「運んでくれたことは褒めてあげるわ!!!」


「あぁ、そうか」


 マルクエンは笑顔で返す。


「宿敵、私達は早く次の大きな街へ向かったほうが良いと思うわ」


「どうしてだ、ラミッタ?」


 シチの怪我の心配もあり、治るまでは面倒を見ていたいと思っていたマルクエンだったが、ラミッタの意見が気になる。


「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」


 シチが突然、口を挟む。


「あなた達、何者なのかしら? その強さと、魔人は転生者って言っていたけど……」


 マルクエンとラミッタは顔を見合わせ、頷いた。


「シチ、巻き込んでしまったし、信じられない話だろうが信じて欲しい」


 マルクエン達はこの世界に来た生い立ちと、この世界での出来事をシチに説明する。


「お前達が転生者だと? それじゃ『伝説のゆーしゃ』みたいじゃねーか!!」


 話を聞いていた手下は、信じられないとばかりにそう言った。


 無理もない、こんな話は信じろと言う方が難しい。


「いや、私は信じるわ。その強さと、魔人が狙う理由に辻褄つじつまが合うもの」


「姉御ぉ……」


「信じてくれてありがとう」


 マルクエンはふっと笑う。


 そして、話を終えた所でラミッタが本題に入る。


「魔人達の狙いが私達だとしたら、この集落に居るのは危険ね。周りを巻き込むわ」


「あぁ、そうだな」


「武器を調達したら魔王の情報を集めて、こちらから叩いてやるわ」


 そう言うと、ラミッタは椅子から立ち上がり、部屋の外に出ていこうとする。


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