「シチ、ゆっくり休んでくれ。また縁があったら会えるだろう」
「そうね、私はあなたを下僕にすること諦めないから」
マルクエンは「迷惑をかけたな」と約束の金貨一枚と、余計に二枚置いて部屋を去った。
「ちょうど武器屋があったわよね。見ていきましょ」
「そうだな」
「マルクエンさんとラミッタさんの剣、残念だったッスねー……」
ケイの言葉にマルクエンは「えぇ」とあからさまにしょげた顔をする。
「あの剣は元の世界から持ってきた物ですから。何か繋がりを一つ失ってしまった気がしまして」
「マルクエンさん……」
シヘンも気の毒そうな顔で見つめた。
「気持ちはわかるけど、剣なんて消耗品なんだから。気持ち切り替えていきなさい」
「あぁ、分かっている」
ラミッタに
火事で物を失った時のラミッタもこんな気持ちだったのだろうかと、マルクエンはふと思った。
一行は近くの武器屋へと向かう。少し寂れた店構えであったが、品揃えはどんなものだろうか。
「いらっしゃい。竜殺しのパーティの皆さん」
少し無愛想な若い店主が出迎えてくれる。
「店主さん、大剣と魔剣士用の剣を見たいんだが」
「あいよ。……ってお兄さんとお姉さんは立派な剣持ってなかったっけ?」
「それが、魔人に襲われた際に剣を水の神様が居るという祠に投げ込まれてしまいまして」
店主はその話を聞いて目を丸くした。
「なんだって!? 魔人が現れただと!? それで、剣無しで無事だったのかい?」
「えぇ、なんとか」
腕組をして目を瞑る店主。命の恩人とは言え、とても信じ難い話だ。
「まぁ、事情はわかったよ。ウチもギリギリでやっているから、流石にタダでって訳にはいかないけど、仕入れ値でサービスするよ」
店主は正直な所、半信半疑ではあったが、恩人には変わりない。
「いえ、大丈夫ですよ」
マルクエンは提案を笑って断る。
「まぁ、ともかく見ていってよ」
広いとは言い切れない店内であったが、品揃えは悪くなかった。武器や防具も手入れが行き届いている。
マルクエンとラミッタは一本一本と剣を吟味し、シヘンとケイは店内をぼやーっと眺めていた。
しばらくすると、二人はそれぞれ剣を携えて店主の元へと行く。
「お、流石はお二人さん。それ、ウチで一番良い大剣と魔剣士の剣だよ」
マルクエンの大剣は、
元々使っていた剣より一回り小さいが、その点は仕方がないだろう。
ラミッタの方は魔力の伝導率が良く、剣に炎や電気を纏わせても問題が無い。
こちらも、元の剣よりは魔力の伝導率が低い。
「外で振り回して貰っても構わないよ」
「そうですか、では」
マルクエンは大剣を軽々と振り回し、縦に横にと素振りをする。
ラミッタも具合を確認するために、魔力を流しながら素振りした。
「私はこの剣で良いわ」
「あぁ、私もこれにしよう」
そう言って店に戻ると、店主に告げられる。
「俺の見立てだと、その剣は暫くの間なら大丈夫だろうけど、いずれお兄さんの力に耐えきれなくなるね」
「そうですか……」
マルクエンも薄々分かっていたが、どうしようかと悩む。
「ここから西に良い鍛冶屋の街がある。『ジャガ』って言うんだ。余裕があったら寄って行っても良いかもね」
「西へですか、わかりました。ありがとうございます」
何度か断ったのだが、料金はだいぶサービスしてもらい、マルクエン達は集落の人々に送り出されながら旅へと戻っていった。
「それで『ジャガ』って街には行くんスか?」
ケイに尋ねられてマルクエンはうーんと唸る。
「『ライオ』という大きな街で武器と魔人の情報を集めても良いのですが……」
「ライオまでは歩いて二日半かかるわ、ジャガは今日中に着ける。途中魔人と戦いになって剣が折れても困るわよ?」
「そうだな、寄るだけ寄ってみるか」
ラミッタに言われマルクエンは考えが
街道を歩き、しばらくすると分かれ道が現れ、看板によると、左の道へ行けばジャガらしい。
道中の魔物をシヘンとケイに任せ、四人は道を歩く。
日が暮れる前に街が見えてきた。鍛冶屋の街らしく、工房がそこら中にあり、
「おー、ジャガは初めて来ましたけど、まさに鍛冶屋の街って感じっスね」
「そうですね」
マルクエンも関心して周りを見渡した。
「この街にも冒険者ギルドってあるのかしら?」
ラミッタは案内用の看板を見て言う。
「あ、ありますね!」
シヘンがギルドの文字を見つけた。ラミッタも場所を確認するため覗き込む。
「えーっと、あっちの方ね。とりあえず向かってみましょう」
「あぁ、そうだな」
マルクエン達は案内通りにギルドを見つけ、中へと入っていった。
ギルドの中は人で賑わっている。何か情報を見つけようと、掲示板を眺めるが、特にこれといった物は無かった。
興味本位で依頼が貼られている掲示板も覗いてみる。
他の街でも見た薬草集めから、鉱山で日雇いの仕事まで幅広く募集されていた。
「この街には武器を探しに来たわけだし、お金も不自由していないから、依頼は受ける必要も無さそうね」
ラミッタの言う通りだと、マルクエンも同意し、早々に宿屋へ向かおうとした時だ。
「白い鎧の金髪高身長。茶髪にヘアバンド、左頬に傷、天使のような人……」
メガネを掛けたギルドの受付嬢がぶつぶつと言いながら目を凝らしてこちらを見ていた。
「あのー、もし間違っていたらすみません。あなた達、マルクエンさんとラミッタさんじゃありませんか?」