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マルクエン・ハンマー

 岩の陰からマルクエン達は気配の主を見る。


 そこには、全身を金属らしきもので覆われた巨大な竜が一匹。翼を広げて気持ちよさそうに眠っていた。


「寝ているな、奇襲を掛けるか?」


「ダメ、今日は偵察だけよ」


 マルクエンとラミッタがそんなやり取りをしている後ろで、シヘンの心臓はバクバクと痛いぐらいに高鳴っている。


「あ、あれが鉱脈の竜……」


「あんなデカいんスか!?」


 身の丈は15メートルもあろうだろうか、見つかったら一巻の終わりだ。


 マルクエン達は鉱脈の竜を起こさないように、静かに後退りした。


 そんな時だった。突如、天井から岩が崩れ、カラリと竜の翼に破片が当たる。


「!! まずい」


 マルクエンが言うと同時に竜は目を覚まし、トンネル内いっぱいに翼を広げた。


 竜は眠りを妨げた曲者を、辺りを見渡し探している。


 とばっちりを食らわぬように、マルクエン達は岩陰でジッとしていた。


 そんな行為をあざ笑うかのように真っ直ぐこちらへと向かってくる竜。


「体温でバレたみたいね」


 竜は動物の体温を感知する事ができる。


「みんな、逃げて!!」


 ラミッタは氷の魔法で道を塞ぐ。その隙にマルクエン達は走り出した。


 何とか出口まで辿り着いた一行。シヘンはしゃがみこんではぁはぁと息を切らしている。


「あ、あんなでっかいの倒せるんスか!?」


 ケイが息を整えながらマルクエンとラミッタに尋ねた。


「多分倒せるわ、念の為の偵察よ」


 あっけらかんと言うラミッタに思わずケイとシヘンも目を丸くする。


「勝算はあるんスか……?」


「まぁ、どこかでお茶でも飲みながら話しましょう」


 早く聞きたい気持ちがあったが、そう言われてしまっては仕方がない。


 ラミッタの後に付いて街まで戻り、喫茶店へと入る。


「それじゃ、話しましょうか」


 紅茶とサンドイッチを口にしながらラミッタは話し始めた。


「まず、竜だけど。狭い空間に居る。これだけで相当こちらが有利よ」


「そこら中暴れまわる事が出来ないからッスか?」


「えぇ、そうね」


 軽く返すと、ラミッタは話し続ける。


「それに、こっちの世界の竜について調べたけど、生態は大体トカゲなんかと一緒だわ」


「と、トカゲですか?」


 えぇ、とラミッタは返事をした。


「トカゲは寒いと動きが鈍るの。氷の魔法でじわじわ痛めつけて、一気に叩けば行けるわ」


「ほ、ホントッスかぁ!?」


 あまりに単純な作戦にケイは流石に信じきれない気持ちがある。


「あの竜の厄介な所は刃物が効かなそうな所ぐらいね。宿敵にはハンマーでも持って戦ってもらうわ」


「そうか、任せろ」


「あの竜は夜行性みたいだから、明日の昼間にぶっ叩くわ」


 作戦も決まった所で、マルクエン達は「何かあったら頼ってくれ」と言っていた鍛冶屋のギルドマスター『サツマ』を尋ねることにした。


 立派な工房ではカンカンと金属を叩く音が外まで鳴り響いている。


「すみません、ギルドマスターのサツマさんに会いに来たのですが」


 マルクエンは近くに居た職人に声をかけた。


「あぁん? どちら様で?」


「私はマルクエンと言います」


 その名前を聞いて職人は目を大きく開いた。


「何だ、アンタが竜殺しか!! 親方!! マルクエンさんだー!!!」


 呼ばれて奥からのっしのっしと歩いてくるドワーフのサツマ。


「おう、どうしたんだ?」


「えぇ、実は先程、竜の偵察をしてきたのですが」


「何!? もう行ってきたのか!! それで、どうだった!?」


 食いつくサツマにマルクエンは話し続ける。


「それがどうも、金属の鱗で剣では厳しい戦いになるかもしれません。そこでハンマーをお借りできたらと思ったのですが……」


「おう、あるぜーハンマー!! 付いてきてくれ!!!」


 工房の横にある直売所へマルクエン達は連れて行かれた。


「ここいらの好きに持って行ってくれ!」


「では、お借りします」


 マルクエンは一番大きなハンマーを片手で軽々と持ち上げる。


「流石だな、50キロのハンマーだ!!! マルクエンさんにゃ軽すぎるかな?」


「えぇ、もっと重い物がアレば良いのですが」


 冗談を言ったはずのサツマは口を開けたまま固まったが、また大笑いした。


「ハッハッハ、すまねぇ、アンタを見くびっていたよ。付いてきな、とっておきがあるぜ!!!」


 今度は倉庫へと案内される。


「これぞ幻のロマン武器!! 持っていけるものなら持ってけドロボー150キロハンマーだ!!!」


 黒光りの巨大なハンマーを目の前に、ラミッタは呆れていた。


「こんなの使える奴なんて限られているじゃない。どうして男はこういうの作っちゃうのかしら」


「良いじゃないか、ロマンがあって!」


「ロマンですか……」


 マルクエンの言葉にシヘンも苦笑いをしている。


「さて、マルクエンさんのお手並み拝見……」


 サツマが言い終える前に、マルクエンはまた片手でハンマーを持ち上げ、肩に担いだ。


「筋肉強化の魔法使っているにしろ、凄すぎだろ!!! こりゃ竜なんて朝飯前かぁ!?」


「いえいえ、それほどでも……」


「そんなの持っていったら宿屋の床抜けちゃうわよ。明日また取りに来ましょう」


「おう、待っているぜ!!!」


 武器も決まり、マルクエン達は街を散策することにする。

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