サツマの工房の前通りにある商店街へと、一行は歩いていた。
鍛冶屋の街というだけあり、武器や刃物、金物類が所狭しと並んで売られている。
「武器は竜を倒したら作ってもらうとして、ケイ。剣でも研いでもらったら?」
ラミッタは『刃物研ぎます!』という看板を指さして言った。
「そうっスね、そろそろ研いでもらうっすかねー」
ケイは肩の剣を降ろして研屋に預けに行く。
「1時間ぐらいで出来るらしいッス」
「それじゃ、それまでこの辺でもブラブラしてましょうかねー」
ラミッタはうーんと背伸びをする。
通りの武器を眺めながら歩くマルクエン達。
「お、あの剣。中々良いな」
「切れ味は良さそうね、魔剣士向けじゃないけど」
マルクエンとラミッタは武器を眺め、手に取り、盛り上がっていた。
「あの二人の会話、何ていうか軍人! って感じだよなー。男女二人で買い物ってのに色気が無いと言うか……」
「あはは、そうだね」
そんな二人の少し遠くでケイとシヘンが話をしている。
「何か面白い防具でも無いものかしら」
「防具か」
そんな事を呟きながら歩くと、ふとヘンテコな店が目に入った。
「な、何この店……」
ピンク色の看板を掲げているその店では、明らかに体を守る面積の少ない、水着のような鎧を店頭販売している。
「いらっしゃいませー」
その赤い水着のような鎧を身に纏う、美しい女性店員がマルクエンに向かって挨拶をした。
「あ、あぁ、どうも」
立派な谷間を前に、目のやり場に困るマルクエン。ラミッタは小声で「ド変態卑猥野郎」とボソッと言っていた。
「どうですか? この新作のアーマー!」
そんなマルクエンを更に困らせるかのように店員は前かがみになり胸を寄せる。
「い、いや。どうって……」
「この動きやすさ、機能美!! 最高のアーマーですよ!!!」
「アーマーって言うけど、体を全然守れてないじゃない……」
ラミッタが呆れながら言うと、店員はムッとした顔をして言う。
「急所は守れています! これは極限まで無駄を省いた素晴らしいアーマーなのです!」
「急所っていうか、見られたらまずい部分を守っているだけの間違いじゃない?」
「むむむー? それじゃ試着してみてください!!!」
「何でそうなるのよ!!!」
ラミッタは赤面しながら叫んだ。
「何ですか? 実際に試しもしないで偏見で私の作品を否定したのですかー?」
「ん? 私の作品というと……?」
「はい! これは私が作り上げたアーマーです!」
店員は胸を張って言う。
「鍛冶屋さんだったのか!」
「はい! それで、そこのお嬢さん!! 私の作品を着て頂けますよね!?」
「何か面白そうなことになってるッスねー?」
ケイがニヤニヤしながら近付いてきた。シヘンも騒ぎを聞いてオロオロしている。
「い、嫌よ!!」
「女は度胸! 何でもためしてみるのさ」
店員はラミッタの腕をガッチリ掴んでグイグイ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっとまっ」
ラミッタは試着室へと消えていった。
「えっ、本当にこれを!?」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!!」
「いや、いやぁ!!」
試着室からはラミッタの抵抗する声が聞こえてくる。
「はい、お似合いですよ!!」
「いや、分かったから、分かったから着替えさせ……」
「はい、オープン!!!」
バサッと開けられたカーテンの先には赤い水着のようなアーマーを身に纏ったラミッタが居た。
「ちょっ、キャー!!!」
胸元を隠し、うずくまるラミッタ。じっと見てくるマルクエンを罵倒する。
「こっち見んなド変態卑猥野郎!!」
「何を恥ずかしがるんだ? 鎧だろう?」
マルクエンは至って真顔で言っていた。
「こ、こんな鎧があるか!!」
「お似合いですよー? それで、動きやすさはどうですか?」
「動きやすさも何も無いわよ!!」
ラミッタはカーテンをバサッと閉めて急いで着替えを始める。
「あぁ……。えらい目にあったわ……」
赤面をしているのに、げっそりとしたラミッタがそんな事を言いながら店から出て来た。
「ラミッタ、防具は買わないのか?」
「買うわけ無いでしょうが!!!」
「似合っていたぞ?」
「馬鹿!! ド変態卑猥野郎!!!」
マルクエンとラミッタのやり取りにシヘンとケイは笑っている。
「お次は気に入って頂けるような作品を作りますので、またお立ち寄り下さい!!」
鍛冶屋の店員に見送られ、マルクエン達は商店街をまた歩き始めた。
しばらくウィンドウショッピングを楽しんだ一行は、研いでもらった剣を回収し、宿屋へと戻る。
十分に休んだマルクエン達。今日は鉱脈の竜を倒しに行く。
空はカラッと晴れた青空で気持ちが良かった。
サツマの工房に寄り、ハンマーを借りに行く。
「おう、マルクエンさん達!! おはよう!!」
「おはようございます」
ドワーフのサツマは朝から元気が良かった。
「それじゃ竜退治、良い報告を待ってるぜ!」
「はい」
150キロもあるハンマーを肩に担いでマルクエンは山道を登る。
「マルクエンさん大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですよー」
流石に疲れていないかとシヘンは心配するが、杞憂のようだった。
鉱脈の入り口まで辿り着く一行。シヘンとケイは緊張してそのトンネル内の暗闇を見ていた。