今回は暗視の魔法を使わない。暗闇で目が見えるのは便利だが、照明弾を打ち上げた視界の良さには敵わないからだ。
音消しの魔法だけ使い、そろりそろりと竜の待つ場所まで歩みを進める。
「それじゃ。ど派手にやっちゃいなさいシヘン!!!」
「はい!!」
シヘンは十数発の照明弾を打ち上げ、それが戦いの合図となった。
昼間のように照らされたトンネル内では、銀色に光る鉱脈の竜が何事かと起き上がる。
ラミッタは右手から一気に冷気を噴出させ、竜の動きを鈍らせた。
マルクエンがハンマーを片手に一気に走り、飛び上がって竜の頭を力の限りぶっ叩く。
「ギョオオオオオオ!!!」
奇妙な叫び声を上げて首を振る竜。マルクエンの一撃を食らっても絶命しないのは流石と言った所だろうか。
だが、
マルクエンは縦に横にとハンマーを振り、竜の頭を集中攻撃する。
可哀想なぐらいに一方的に殴られ続ける竜。10回目を受ける頃には動かなくなっていた。
「あら。もう終わりかしら? 随分とあっけなかったわね」
ラミッタは竜に近付いて生死を確認する。ピクピクと動いているので虫の息だ。
「それじゃ。トドメといこうかしら?」
ラミッタは竜の近くで地面に手を置いて魔法を詠唱する。
1分ほど待っていると、巨大な断頭台が現れた。
「落ちろ!」
ダーンと地響きを鳴らして刃が落ちる。転がった竜の首。胴体からは鮮血が吹き出していた。
「いや、やっぱマルクエンさんとラミッタさんは強えっスね……」
改めてそう実感するケイ。竜の亡骸どころか、首でさえも大きくて運ぶのに苦労しそうなので、後はギルドに報告をして終わりだ。
山道を下って、ジャガの街へ戻る一行。サツマの工房にハンマーを返しに行く。
「どうした、マルクエンさん達!?」
あまりにも早い帰還にサツマは一瞬、嫌な予感がした。
「あぁ、申し訳ないサツマさん。お借りしていたハンマーをだいぶ汚してしまいまして」
「汚したって……?」
血まみれのハンマーをサツマは指差す。
「ってことは……、もうやったのか!? 竜を!?」
「えぇ、終わりましたが」
あっけらかんと話すマルクエン。サツマはとても信じられなかったが、信じるしか無さそうだ。
「嘘だろ!? さっき出ていったばかりじゃねぇか!?」
「案外弱かったわよ、竜」
ラミッタがそう言うので、サツマは否定をする。
「いやいやいや、十分強いはずだぞ……」
「このお二人、化け物じみてるんスよ」
ケイはニカッと笑って言った。
「いやまぁ、なんだ。竜が倒れたってならめでたいことだ!! 早速ギルドとウチの若い衆で鉱脈の竜を解体するぜ!!」
「そうね、ギルドにも報告しておかなくちゃね」
ラミッタの言葉にマルクエンも頷く。
「そうだな、行くか」
「俺も付いていくぜ!」
サツマも連れて、マルクエン達は冒険者ギルドへと向かう事となる。
ギルドの扉を開けると、相変わらず冒険者たちで賑わっていた。
受付嬢がマルクエン達を見ると、こちらへ駆け寄ってくる。
「皆さん達!? ど、どうしたんですか!? 何か竜でトラブルでも!?」
「いえ、倒し終えた所です」
「そうですか、倒し終え……。って倒し終えたあぁぁぁー!?」
その大声でギルド内の冒険者達が一斉にこちらを向く。
「こ、鉱脈の竜が倒れたのか!?」
「あぁ、そうだとも!!」
サツマがマルクエン達の代わりに言うと、ギルド内ではどよめきが広がった。
「騒がしいと思ったら、どうやら片付いたようですね」
冒険者ギルドのマスター、バレイが奥から出てくる。
「さっそく竜の回収クエストを出しましょう。特別手当付きで、ね」
ギルド内が「わあああ」っと盛り上がり、拍手喝采だった。
マルクエンやシヘン、ケイは照れ、ラミッタは片目を閉じてため息をつく。
急遽募集された竜の回収というクエストには、冒険者が殺到し、あっという間に回収隊が組めた。
マルクエン達も手を持て余していたので手伝うことになる。
「こいつが鉱脈の竜か……」
竜の亡骸を見てサツマがポツリと呟く。
「伝承通り、ガッチガチだな」
持っていた斧の背で頭の金属部を叩くと、カンカンと音が鳴った。
「いい武器は作れそうですか? サツマさん」
「おう、任せてくれ!!!」
鍛冶職人と冒険者達がせっせと竜の鱗を一枚一枚剥がしている。
マルクエンは力のいる場所を任され、ラミッタは先程の断頭台の魔法で竜を小分けにしていた。
「すげー魔法だ……」
魔法使いの冒険者は思わず見惚れ、そうでない者も作業の手を止めて見ている。
すっかり日が暮れると、残りの作業は明日に持ち越しとなる。
マルクエン達は竜との戦いよりも、解体作業の方に疲労を感じていた。
そして、ギルドの食堂では今日。特別メニューが振る舞われるとの事で夜だが賑わっている。
「お待たせ致しましたー。鉱脈の竜のステーキです!!」
運ばれてきたのはあの竜の肉だ。竜の肉は高級食材であり、食べると力を得られるとも言われている縁起物でもあった。
「これ、あの竜よね。本当に食べられるのかしら?」
香ばしい匂いを放っているが、ラミッタは怪訝そうな目で運ばれてきたそれを見る。