フラフラになったシヘンとケイは何とか自分の足で宿屋まで帰還する。
「ご飯にする? お風呂にする? それとも、追加特訓?」
「お風呂っす!! お風呂!!」
ラミッタがニコニコ笑顔で言うのでケイは即答した。
ギルドから提供されたいい宿なので、大浴場は完備されているらしい。
汗と汚れでベトベトになった体で浴場へと向かった。
「今度こそ覗いたら殺すわよ? 宿敵」
「の、覗くわけ無いだろ!!」
ラミッタ達が女湯に消えていくのを見送り、マルクエンも男湯へと向かう。
「それじゃさっさと入りましょうか」
ラミッタは服を脱ぎながら言う。
「うぅ、腕が上手く動かないっス……」
ずっと素振りをしていたケイは、腕がプルプルプルーっと震えていた。
「わ、わたしも、力が」
魔力を使い果たしたシヘンの体を疲労感が襲っている。
「情けないわね、しっかりしなさい!
「
そんな冗談を言っている内に、三人は一糸まとわぬ姿になり、タオルを手にとって浴場に向かった。
シャワーを浴びて、髪を洗う。流れ行く汗を感じ、気持ちがいい。
汗と皮脂で泡立たない事実にケイはちょっとショックを受けていた。
体もよく洗い、ラミッタとシヘンが髪を結い終えると、三人はお湯へとぷんと浸かる。
「あー、いい風呂!」
ケイは目を閉じて全身を包む心地よさに身を委ねていた。
「ほんと、気持ちいい……」
シヘンは胸の塊を浮かばせながら言っている。
「訓練を終えた後のお風呂は最高でしょ?」
クスクスと笑いながら言うラミッタ。
「もう最高っス!!」
「これで明日も頑張れるわね?」
そう言われ、ケイはうっと言葉に詰まる。
「お、お手柔らかにオネガシャス!!」
風呂から上がり、温風の出る装置で髪を乾かす。
女湯のドアを開けて休憩所に行くと、マルクエンが先に待っていた。
「すみません、マルクエンさん。お待たせしました!」
シヘンの言葉にマルクエンは笑顔を返す。
「いえ、大丈夫ですよ」
「それじゃ、サッパリした所で、ご飯の時間よ」
食堂へ向かい、ボーイに案内され、席に通される。
早速、本日のディナーの前菜である野菜のトマト煮が運ばれてきた。
「季節野菜のトマト煮でございます」
イタダキマスと言い、マルクエンはナスを口に運んだ。
油で揚げられてしっとりとした感触の中にも、トマトとナスの旨味が調和し、美味だった。
「うん、美味いな」
「ほんと、美味しいですね!」
シヘンも舌鼓を打つ中でラミッタが言う。
「私、こういう料理は慣れないのよね。テーブルマナーしかり、量が少ないのしかり」
「そうか? 美味しくて良いじゃないか?」
「はいはい、ボンボンの宿敵さんにはこういうお上品なお料理がお似合いのこと」
マルクエンにいちいち突っかかるラミッタを見てクスクスとケイとシヘンは笑っている。
「でも、今日はめちゃくちゃ腹減ったんで、ガッツリ食べたい気分はあるっスねー」
ケイの言葉にラミッタも頷く。
「量が足りなかった時は、追加で何か頼みましょうか」
そんな事を言っている内に、本日のスープがやって来た。
黄色く、甘いいい匂いのするコーンスープだ。
「ふわぁー、いい匂い」
思わず素直な感想が漏れるシヘン。
スプーンで
「んー、美味しい!!」
「美味い!! 美味いっスね!!」
ワイワイと料理の感想を言い合ったり、竜と戦った時の話をしたりしていたら、お次は魚料理だ。
「お待たせ致しました。ラタのムニエルでございます」
大きめのムニエルにされた白身魚を中心とし、カラフルなソースが皿に彩られている。
「おっ、食べごたえありそうッスね!!」
「冒険者用に大きめサイズの料理が提供されているのでしょうかね」
マルクエンはそう呟き、サカナにナイフを入れる。
淡白な身は、ふわりほろりと崩れ、付け合せのソースとも相性が良い。
「ンマーイ!! うまいっス!!!」
「中々、美味しいわね」
ラミッタも流石にシェフの腕を認めざるを得ない一品だった。
そして、4人の前に果実を加えた氷をふわふわに削った物が提供される。
「
「え、デザート? まだお腹いっぱいじゃないわよ?」
「あー、これはなラミッタ。恐らく口直し用で、この後メインディッシュが来るんだ。この国でもコース料理の出し方が同じであればだがな」
「あら、物を知らずゴメンあそばせ」
マルクエンに教えられるのは気に入らないのだろうか、ラミッタはそんな事を言う。
「なんつーか、さっぱりしてるッスね」
「うん、美味しいけどデザートとは違うんだね」
「えぇ、あくまで口直し用なので」
ケイは次の料理をワクワクして待っていた。店員がやって来ると、待っていましたとばかりにソワソワする。
「お待たせ致しました。本日のメインディッシュ。トーラ牛のロースステーキでございます」
その料理名を聞いてマルクエンがハッとする。確かトーラはシヘンの出身地だ。
「トーラ牛かぁ……」
思わずシヘンは独り言を呟く。
「トーラは畜産が盛んッスからね! 牛もブランド物なんスよ!!」
「へぇー、そうだったのですね」
マルクエンが感心して言うと、シヘンが話す。
「このお肉も、私と一緒にこの街まで旅してきたんですね」
「しみじみ言ってる場合じゃないわよ。熱いうちに食べましょう」
「そうですね、すみません」