「正直に言いなさいよ?」
ラミッタに見据えられて、マルクエンはうーんと目を瞑った後に答えた。
「そうだな、二人共センスは良いと思う。だが、これから魔人との戦いになるとして、自分の身は自分で守れるぐらいになって貰わないといけないな」
「えぇ、シヘンは魔法の
「ケイさんも根性があるし、教えた事を素直に守って実践してくれる」
マルクエンの言葉にラミッタはうんうんと頷いた。
「それ、大事よねー。基礎や基本を守らずに最初からアレンジして必殺技やら高等魔法を使おうとする初心者の多いこと多いこと」
「それは私も、かつて軍で手を焼いていた」
教わる方も大変だが、教える方にももちろん苦労はある。
「まぁ、大抵は次の戦で死ぬか、才能がないって言って辞めていくかなんだけどね」
「あぁ、わかる」
型を破るには、まず型を覚えなければならない。それを知っているか知らないかで、成長の速さは驚くほど変わる。
「まぁ、話が
「それは……。否定できない」
届いたポテトフライに手を伸ばし、マルクエンはもしゃもしゃ食べながら答えた。
「あの二人、このまま私達と一緒に居たら命を落とすかもしれないわ」
「……」
マルクエンは返答に詰まる。
「優しいんだな。ラミッタ」
ふと言うと、ラミッタは目を見開いて顔が赤くなっていく。
「や、いや、何言ってんのよ!! 真面目な話よ!?」
「わかったわかった」
少し笑ってマルクエンも真面目に話す。
「だが、ラミッタの言う通りだ。あのお二人に魔人はまだ危険すぎる」
「私、キザな勇者との話が終わったら、シヘンを故郷に帰そうと思っているの」
ラミッタが少し視線を
「トーラの村にか?」
「えぇ、ケイの出身地は遠いらしいけど、シヘンはまだ近いわ」
「ケイさんはどうするんだ?」
「別の冒険者とパーティを組んでもらうわ」
マルクエンはテーブルを見つめて悲しげに言った。
「そうか、寂しくなるな……」
だが、ラミッタの仲間を本当に思ってこその提案なので無下には出来ない。
「今は何も言わないでおいて、勇者と会った日に伝えるわ」
「そうか、わかった」
少しばかり出掛けるはずが、こんな事を話すだなんてマルクエンは思いもしていなかった。
ホテルに帰り、ラミッタは二人を起こさないようにそっと部屋へ入る。
シヘンもケイもよほど疲れているのだろうか、ぐっすりと眠っていた。
「よし、揃ったわね! それじゃ今日も楽しい特訓よ!」
ホテルのロビーでマルクエンと合流すると、開口一番にラミッタが言う。
「が、頑張るっす!!」
「私もやります!!」
やる気はあるみたいだが、二人共顔から疲労が隠せていない。
「うむ、やる気はよしだけどー……」
ラミッタは真面目な顔をする。
「無理な時は無理って言う事、そうしないと命を落とすわよ?」
そこまで言って笑顔を作った。
「まぁ、たまには無理しないといけない時もあるけどね?」
「それは置いといてだな。お二人共どうです? 昨日の今日で辛くはありませんか?」
マルクエンに尋ねられると、ケイは情けなさそうに話す。
「うー……。正直、腕は痛いしプルップルっスー」
「私も、ちょっと疲れてて……」
シヘンも正直に今の体調を答える。それを聞いてラミッタは頷いた。
「正直でよろしい! それじゃ今日は座学をやっていきましょうか」
ラミッタはシヘンとケイを座らせ、火、水、雷、風、光に闇とありとあらゆる魔法を披露する。
まるで曲芸の様に披露されるそれを非現実が起きているように眺めていた。
途中、いつの間にか野次馬の見物人まで現れだす始末だ。
「ざっとこんなもんよ、魔法ってのはここまで出来るってわけ」
「何か凄すぎて、実感が湧かないですね」
「私もっス……」
ラミッタはそんな二人を見て笑っていた。
「いずれ、出来る様になるわ。っていうか、なって貰わなくちゃ困るわよ?」
「が、頑張ります!!」
「さて、宿敵は何を面白いもの見せてくれるのかしらね?」
そう言われマルクエンはうーむと悩む。
「演舞だったら見せられるが、実戦向きかと言うとそうではないぞ?」
「まぁいいからやってみなさい」
マルクエンは「わかった」と言い、十分に距離を取ると、一礼し目にも留まらぬ速さで抜剣する。
大剣を棒切れのように軽々と回し、見えない敵を斬り伏せるマルクエン。
一通り終えると、また一礼し、シヘンとケイだけでなく、見物人からも拍手が起こった。
「いつの間にか見物人が増えているな」
マルクエンは照れながら言う。
「まぁ良いわ。それじゃ二人に質問でもしましょうかしら?」
「な、何スか!?」
ケイは何を聞かれるのだろうと身構える。
「戦いにおいて、大事なことって何かしら?」
「戦い……。っスか?」
ラミッタは二人に考えさせる。先に答えたのはシヘンだった。
「相手の弱点を突く……。みたいな?」
「それも正しくはあるわ」