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乾杯しておこう

「まだホテルに戻るには早いか?」


「そうかしら? 私は帰って休みたいけど」


 ラミッタは腕を上にあげて背伸びをし、あくびが出ていた。


「そうか? それじゃ戻って休むか」


 二人はホテルに戻ろうと、もと来た道を歩く。


 ロビーに入ると、剣士のゴーダが一人椅子に座っていた。


 二人に気が付くと、立ち上がって急ぎ足でやって来る。


「マルクエンさん、ラミッタさん!! ご無事でしたか!?」


「えっ?」


 キョトンとするマルクエン。


「外で魔人の襲撃があったと聞き、探していました」


「あっ、あぁ!! それはご心配おかけしました。ですが、この通り無事です」


「そうですか」


 ゴーダはふぅっとため息を吐く。


「私達、魔人に襲われすぎて慣れちゃったけど、普通に考えたら大事おおごとよね」


「確かにそうだな……」


「その通りです」


 もっと何か言いたげなゴーダだったが、短い言葉で済ます。


「すみません。本当はマスカルさん達に伝えた方が良かったのでしょうが、居場所が分からなくて……」


「それはこちらの落ち度です。私とアレラはギルドに、マスカル様は城に居ました」


「あら、意外と近くに居たのですね」


 ラミッタが言うとゴーダは頷く。


「はい。受付のスタッフから話を聞き、すぐに飛び出たのですが、お二人が居なかったものでして……」


「それはもう……。申し訳ない。昼を食べに行ってしまいました」


 マルクエンはバツが悪そうに頭をかいた。


「魔人と戦った後に……。流石というか、なんと言いますか」


 ゴーダは少し笑っていた。彼が笑う所を見るのは滅多にない。


「ともかく、魔人が近くまで来ているのでしたら、お二人だけで外を歩かせるわけにはいきません。アムールトの中で待機して頂きます」


「えぇ、そうですね」


 マルクエンは頷く。


「私も疲れたので、大人しく休んでいますよ」


 ラミッタも眠たげにしながら同意した。


「それでは、私はギルドでまだ仕事がありますので」


 ゴーダはホテルを出ていく。


「そう言えば、このホテル。バーもあったわよね?」


「そうか?」


「私は寝酒でもするわ。付き合いなさい宿敵」


「そうは言っても、私は酒を飲めんぞ」


 マルクエンが言うと、ラミッタは笑う。


「そんなの知ってるわよ。私はお酒。おこちゃまはホットミルクよ」


「ホットミルクか……。確かにアリだな!」


 皮肉が効いていなくてラミッタはつまらなそうだった。


「……着替えたら行くわよ」





「いらっしゃいませ」


 バーでは清潔感のある。中年のバーテンダーが迎えてくれる。


 ホテルの中だが、宿泊客でなくても利用できた。


 しかし、外の冒険者向けの酒場といった感じではなく。落ち着いた大人の雰囲気が漂う店内。


 客層も、上品な者ばかりだ。


「服、買っておいて良かったわね」


「あぁ、そうだな」


 マルクエンはグレーのジャケットに白いワイシャツとループタイ。茶色のスラックス。


 ラミッタは水色のワンピースを着ていた。


「さて、乾杯よ宿敵」


「あぁ、乾杯だ」


 氷の入ったウィスキーのグラスと、マグカップに入れられたホットミルクが届き、二人は手に持ってカチンと軽くぶつける。


「はぁー、良いわね昼間から飲むお酒は」


 ウィスキーを一口飲むと、焼けるような刺激が喉を通って胃まで流れてゆくのを感じた。


「あぁ」


 マルクエンはホットミルクの優しい温度と甘さを味わう。


 つまみのポテトフライをむしゃむしゃ食べながら会話をした。


「ねぇ、シヘンとケイ元気にしているかしら」


「シヘンさんとケイさんか」


 二人と別れて一週間も経っていないというのに、何だか遠い昔のようだ。


「お二人なら大丈夫だろう。上手くやって行けているさ」


「そうだと良いんだけどね」


 昔の思い出話に花を咲かせると、あっという間に時間が経っていた。


「そろそろ、いい頃合いね。私は部屋に戻って寝るわ」


 眠たそうなラミッタがそんな事を言い、二人は会計を済ませて部屋に戻る。


「それじゃ、おやすみラミッタ」


「えぇ、夕食まで寝るわ」


 マルクエンも部屋着に着替えて、ベッドに横になってボーっとしていたら、いつの間にか寝てしまっていた。





 部屋の呼び出しベルが鳴り、マルクエンは目が覚める。


 部屋の外にはマスカルが待っていた。


「マルクエンさん!! 魔人に襲われたと聞いた時には肝を冷やしましたよ」


「えぇ、ご心配をお掛けし、申し訳ない」


「お伝えしたい事がありますので、一緒に来ていただけますか?」


「はい」


 マスカルに連れられ、マルクエンはホテルの小さな一室へと案内された。


 そこでは、ゴーダとアレラ。ラミッタも既に待っていた。


 皆が席に座ると、マスカルは話し始める。


「えーっと、何から話したものですかね」


 うーんと目を閉じて考えた後に、また語りだす。


「とりあえず。こちらで決まったことからお伝えします。急ですが、明日、我々とともに国王陛下へ謁見して頂きます」


「国王陛下に……」


 マルクエンは少し緊張をした。


「そして、国王陛下の前で、お二人の実力を披露して頂きます」


「つまり、誰かと戦うと?」


 ラミッタが言うと、マスカルは頷く。


「ご明察です」


「もしかして、マスカルさんと……。ですか?」


 マルクエンが尋ねるが、マスカルは首を横に振る。


「いいえ、私よりももっと適任の方が居ます。詳細はご説明できませんが」


 ラミッタは、いまいちに落ちていなかったが、話は続く。

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