「それで、今度はお二人にお伺いしたい。先程の魔人の襲撃についてです」
マスカルが言い、マルクエンが答えた。
「試練の塔でも出くわした、奇術師の格好をした女の魔人です。『ミネス』と名乗っています」
「マルクエンさんとラミッタさんとは因縁が深いみたいですね」
「えぇ、こちらの世界に来てからずっと狙われていますね」
それを聞いて、マスカルは、ふーむと考える。
「その魔人の目的は、何なのでしょうね」
「そうですね、奴は私達に『魔王軍の仲間になれ』と迫ってきていますね」
「魔王軍の仲間にですか……」
マスカルは腕を組んで更に考え込んだ。
「マスカル様、魔人の考えなど理解が出来ませんよー」
アレラに言われ、「それもそうだが」とマスカルは言う。
「まぁ、アレラの言う通りですね。ともかく、お二人は明日、戦いに備えてください」
「わかりました」
マルクエンとラミッタは返事をし、その日は夕食を摂り、眠った。
翌日、ホテルのロビーで落ち合うマスカル達とマルクエン達。
「それでは、城へと向かいましょう」
礼服でなく、戦う用の武器防具を身につけて、マルクエンとラミッタは城へ行く。
一番大きな道路を歩き、城までは一本道だ。
城門へ着く。衛兵はマスカルの顔を見ると、敬礼をし、中に通される。
元の世界でも、よく城には通っていたマルクエンはさほど緊張をしなかったが、ラミッタは借りてきた猫のようだ。
「緊張しているのか? ラミッタ」
「はぁ!? 別に?」
マルクエンに悪態をつく以外はだが。
このアムールトの城は、イーヌ王国の城に負けず劣らず大きい。
階段を登り、大きな扉の前までやって来た。
「それでは、これより国王陛下の御前です」
マスカルに言われて、マルクエンは大きく頷く。
近衛兵が扉を開けると、長く赤い絨毯の敷かれた立派な玉座が広がる。
その先には椅子に座る人物が居た。おそらく国王陛下だろう。
マスカルが先頭だって歩き、その後ろを皆が付いていく。
部屋の半ばより少し先まで歩くと、勇者パーティーが
「国王陛下、異世界からの勇者をお連れしました」
「うむ」
国王は白髪と立派なヒゲを生やした人物だった。
「異世界からの勇者よ、よくおいでなさった。私は『コニヤン』の王、メイクーン。あなた方の名を教えて欲しい」
「はっ、イーヌ王国より参りました。マルクエン・クライスと申します」
マルクエンは顔を上げて挨拶をする。ラミッタも同じ様に顔を上げた。
「ルーサより参りました。ラミッタ・ピラと申します」
「マルクエン殿にラミッタ殿か」
国王は笑顔を作り、二人の名を口にする。
「お二人の活躍は耳にしております。この国の民を助けて頂き、なんと感謝を述べて良いのやら」
「いえ、恐れ多い。身に余る光栄でございます」
マルクエンは再び頭を下げてそう言った。
「さて、もっとゆっくりとお話をしたいのですが、時間がない。早速で申し訳ないが、お二人を真の勇者として認める為に、試験を受けて貰いたい」
「はっ、かしこまりました」
マルクエンは柔和な印象を持った国王だったが、急に威厳のある真面目な顔をして語りかける。
「この試験。いかなる結果になったとしても、他言無用でお願いしたい」
「はっ。肝に銘じます」
マルクエンが言ったのを見届け、国王が命じた。
「それでは、勇者マスカルよ、お連れしなさい」
「はっ。それでは失礼します」
マスカルは立ち上がり、一礼すると、玉座を後にする。
マルクエンとラミッタもその後を付いて行った。
「お優しそうな国王陛下でしたね」
扉を出てマルクエンがマスカルに話しかける。
「えぇ、民からの信頼も厚い立派なお方です」
「それで、この後は……」
「私に付いてきて下さい」
少し素っ気なくマスカルが答えたのが気になったが、マルクエン達は黙って後を歩く。
連れられたのは城の端、頑丈に施錠された扉の前だ。
鍵を取り出し、マスカルは扉を開くと、真っ暗な空間がずっと続いていた。
燭台に一斉に火が灯り、ゆらゆらと炎が道を照らす。
「ここは……」
「この先です」
ラミッタは強大な魔力を感じ取っていた。嫌な予感がする。
少し進むと階段になっていた。どんどん降りていくが、長い階段だ。
やがて、出口が見える。そこは明るい光が差し込んでいた。
「お疲れ様です。こちらです」
出た先は地下だというのに魔法の照明で照らされ、昼のように明るい。
そして、周りを見渡すと、そこはまるで。
「闘技場……ですか?」
「えぇ」
マルクエンがポツリと言うと、マスカルが答える。
観客席には国王と近衛兵、そしてドレスに身を包んだ、身分の高そうな女性が一人。
「これは……」
「試験はここで行います」
国王が拡声魔法を使い、大きな声で言った。
「それでは、ヴィシソワよ。参れ!!」
「かしこまりました。親愛なる国王陛下」
そう言いながら対になる出口から出てきた人物は。
低空を滑空しながらやってきて、そのまま宙に舞い上がった。
「なっ!?」
マルクエンは驚いて。
「魔人!?」
ラミッタも叫んだ。