「その通りでございます」
宙を飛ぶ男はニヤリと笑って二人に言った。
「どうして魔人がここに!?」
色々な思考がマルクエンの頭を飛び交う。ラミッタも同じく考えていた。
「私から説明させて頂きます」
そこでマスカルが声を上げる。
「この魔人『ヴィシソワ』は我々と同盟を結んでおります」
「ど、同盟ですか!?」
頭が回りきらないマルクエンは驚くことしか出来なかった。
「えぇ、詳しい話をすると長くなるので割愛させて頂きますが、我々の敵ではありません」
ラミッタは訝しげな目でマスカルを、国王を見る。
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「私は、そこにいらっしゃる王女様、ミヌエット様に忠誠を誓っているのですよ」
「王女様!?」
ヴィシソワの目線の先、国王の隣に居る高貴な女性をラミッタは見た。
「異世界からの勇者様、はじめまして。私はこの国の王女、ミヌエットと申します」
「あぁ、お美しいお声だ」
ラミッタは大体の事を察したが、マルクエンは何が何だか分からずにいる。
「初めてお会いした時から感じました。これは運命だと」
「宿敵、つまりあの魔人は王女様に惚れてんのよ」
「なっ!?」
ラミッタの言葉に驚くマルクエン。
「その通りでございます」
魔人はまた同じセリフを吐いて、フフッと笑う。
「し、しかし、そんな、信用できるのですか!? 魔人ですよ!?」
「人に
「ともかく。マルクエンさん、我々はヴィシソワを信用しています」
マスカルにも言われ、黙るマルクエン。
「そして、今回の試験では、ヴィシソワと戦って頂きます」
「なるほど、魔人と戦うなら、それこそ本物の魔人と戦って実力を見せた方が早いって訳ですか」
ラミッタが言いながらヴィシソワを見ると、マスカルが答える。
「えぇ、仰るとおりです」
「それでは始めましょうか」
ヴィシソワがそう言うと、マスカル達も観客席へと退避する。
国王と王女、マスカル達は分厚い魔法の防御壁の後ろで座っていた。
「いつでもどうぞ」
宙を飛びながらヴィシソワはマルクエンとラミッタに言い放つ。
「そうですか、それでは」
マルクエンは剣を強く握り、引き抜いた。それを見てラミッタも抜剣する。
「私が行くわ!!」
ラミッタが空を飛ぶと、国王と王女は目を丸くした。
「報告には聞いていたが、本当に人が空を飛ぶとはな」
国王は異世界からの勇者達が実力者であることに感心している。
ラミッタはミネス相手にやった事と同じ方法を使う。魔法の防御壁を空中に張り、それを蹴って勢いを付けた。
火炎弾を飛ばしながら剣を構えて突っ込む。ヴィシソワは避けようともしない。
片手で魔法の防御壁を貼ると、火炎弾は散り散りになった。その奥からやってくるラミッタの剣をも防御壁で弾く。
「硬っ!!」
マルクエンは青いオーラを纏い、地上から剣を振るう。その軌道は光となり、ヴィシソワの元へと飛んでいった。
「なっ!?」
国王は思わず短く声を上げた。魔法か何かは分からないが、初めて見る技だ。
「マスカルよ。あれは何だ!?」
「つい先日、出来るようになったとマルクエンさんは仰っていましたね。私も見るのは初めてですが……」
ヴィシソワは直感で防御壁で防げないことを感じ取ったので、そのままひらりひらりと避ける。
「なるほど、確かに強力な技だ」
そんなヴィシソワに休む暇も与えず、ラミッタが各種魔法を飛ばす。
「ほう、やりますねぇ」
そう言って両手を広げると、右手には剣、左手には巨大な盾が飛んできた。
「それでは、私も」
盾の後ろに身を潜め、ヴィシソワはラミッタに向かって突撃してくる。
ラミッタは、光の剣を数十本身の回りに出し、敵へと撃ち放った。
盾は全てを受け止め、弾き、ラミッタの元へとやって来る。一度、距離を置こうと下がるも、相手の速さが圧倒的に上だ。
マルクエンは牽制を入れようと、光の刃を飛ばした。
「ふっ」
ヴィシソワはニヤリと笑い、盾から魔法で作られた大きな半透明の腕を出した。
その腕はラミッタを掴み、ぐるんとマルクエンの方を向く。
「なっ、危ない!!」
マルクエンがそう叫ぶと同時に、ラミッタも目の前に来た光の刃を見て短く声を出す。
「あっ!!」
光の刃がラミッタを斬る
「ぐっ」
叩きつけられたラミッタは声を漏らす。叩きつけられる前に、宙を飛ぶように速度を和らげたが、背中から落ちたので息がうまく出来ない。
思わず駆け寄るマルクエン。
「ラミッタ!! ラミッタ無事か!?」
「あっ……はふ……」
喋ることが出来ないでいた。刃による外傷は見当たらないが、内臓にダメージがあるかもしれない。
「ラミッタ!! ラミッタしっかりしろ!!」
ラミッタの上体を起こそうとするマルクエンの元にヴィシソワがやって来た。
振り返って剣を付き出そうとしたが、軽く弾かれて目の前に剣を突きつけられる。
「弱い、弱すぎる」
マルクエンとラミッタは、魔人ヴィシソワに敗北した。