「ほれ、ルーペで見てみい……亀裂が見えるじゃろ?」
言われた通りに覗き込んでみると……。
確かに歯の間からひとつ、ちぢれ毛のような線が中心に向かって伸びていた。
「確かにあるけど、たったこれだけ?」
「たったとはなんじゃたったとは……この、ほンの隙間に砂とか塵とかが入って回転が狂い、しまいには壊れるんじゃ。 だからこそ別の機械に組み込む前に補修せにゃならん」
「えっ、これも部品なの!?」
大量の部品を使ってくみ上げる【ギアボックス】もまた、ひとつの部品でしかない。
だとしたらなんて手間のかかる……完成までどれだけかかるのよ?
「私、【錬金術師】でよかったかも……」
「あ~ほ~! 【生産職】なんて極めりゃどれもこんなもんじゃ、そのうちイヤでも極限を目指してアイテムを作るハメになるわい!」
げらげら笑うドクターにいい返してやりたいところだけど、一日の長は向こうにある。
きっとこれは、確かに存在する1つの真実なんだろう。
そこへ歯向かったところで何の意味もない。
……それよりも、気になるのは。
「その、極限を目指した部品を使って何を作るつもりなの?」
「……なに?」
「なにって、使い道よ使い道。 まさかたんに壊れたからって作り直してるわけじゃないでしょ? 部品なんだから、これを使ってくみ上げたいものがあるんじゃないの?」
「…………」
手が止まった。
顔は私を見たまま一切動かない。
「……【オートマチック】・オン」
時間が止まったかのような静寂で……先に動いたのはドクターだ。
推定、機械を動かすためのスキルで何をするかと思えば。
「ぎょわーーーーーっ!?」
突然、通路の向こうからジェットを起動させたキュウがつっこんできた!
飛び込んできたキュウはそのままアタマから床につっこんで、さらにバウンド。
そうしてずざーーっと、勢いそのままにドクターの前までヘッドスライディングして、ようやく止まったのである。
「ね、粘土見つけてきたよ〜……」
「粘土にいつまで時間をかけとるんじゃバカタレ、とっとと戻って来んか」
「え、えへへ……ごめんなさいドクター」
ぽかんとしてる間にドクターも離れちゃって、そのまま【生産道具】たちの並ぶ装置の方へ。
……って、こいつこのままはぐらかす気か!?
「さあて、いよいよ仕上げといくかのう……キュービック、コンソールを起動させてこい」
「アイアイ、ドクター」
「ちょっとまてーー!!」
遮るように声を張り上げてやると、敬礼ポーズを取ろうとしていたキュウは耳を塞いだ。
「どうしたのさ、いきなり大声出して?」
「気にせんでよいわ、とっとといけい」
肝心のドクターはというと……キュウをアゴで送り出してため息ひとつ。
そこから私の方へ向き直った。
「――貴様、ただの|居候≪いそうろう≫だということを忘れとりゃせんか?」
「わかってるわよそのくらい! それでも……どうせ手伝うんだったら、アイテムの最終的な行き先くらい知ってた方がいいじゃないって話を──」
「あ~ほ~! そんなもん【錬金術の三解】を使いこなせん未熟者に教えても何の意味もないわいー!」
「錬金術の、さんかい……?」
思わず聞き返してしまった私を、ドクターは盛大に笑い飛ばした。
「ほーらな、貴様とてしょせんその程度よ! 匿ってやってるのも、キュービックのやつがどーーーーしてもというからにすぎんのだ! そこのところをはき違えてもらっては困る!」
「ドクター、準備できたよー!! なんかお取込み中ー?」
「あーすまんすまん──というわけでな、さっきのは聞かなかったことにしておいてやる、次はないぞ」
「くっ……」
「まっ、完成するまでこの工房にいることができたら、その時は見せてやってもいいがな、ほーっほっほっほ!」
まだまだ、教えてもらうには信頼も実力も足りないか。
……まあいいわ、おおよそ見当はついてる。
いま、大量の素材を使ってまで完璧に作り上げたいもの──やっぱり【リヒターゼン】の南区域を半壊せしめたような兵器で間違いない!
正直に話してくれればよかったけど、そうやってダンマリしてくるなら。
遠慮なくドクターの私室へ侵入する方向で行きましょう!
……負け惜しみじゃないぞ!
「いずれにせよちんたらしてる暇はないわね、どうやって侵入すればいいもんか──」
密室の部屋をどうやって破ろうか。
それを考えていた時だ。
突如として、地面が揺れ始めた。
「えっ、地震!?」
ここはリアルじゃないもの、そんな突発的に地震なんか起きるはずはない。
そういう自然災害的なものではないとすれば……。
「いや……地震じゃない」
この部屋そのものが揺れているわけじゃなく、何かの振動が伝ってきてるんだ。
気づいた私は周りに目を向ける。
そこかしこから駆動音と共に動き出すコンベア。
ドルルンと震えるパイプ。
【生産道具】の方を見やれば。
かき混ぜ棒がひとりでに【錬金釜】をかき混ぜ、故障した歯車の修復を。
そしてその隣では、機械製の指【マニピュレーター】に装着された【工具】たちが、せっせと部品をくみ上げている……!
「これが動き出した
いつだったかテレビで見た、古い工場のラインを目の前にしているかのよう……。
「ほーっほっほっほ!」
「いいなあ……」
ともすれば見せつけてるんじゃあないかと錯覚するくらいに楽しそうに
けれど話は思ったように進んでくれない。
……思ったとおりの状況にするために頭を使うのがゲームって遊びの醍醐味なんだから当然なのだけどね。
ドクターは信用してくれないし、先に進むのに必要であろうピースは近づき方がわからない。
「こういうのをきっと、もどかしいっていうんでしょうね……」
1人ため息をつく私のほほを、生暖かい風が撫でるように通り過ぎた。
「ぬるっ……!? って、こんだけ機械を動かせばそりゃそうか」
……冬場とか困らなそうだなあ。
なんてのんきに思っていたところで、はっと脳裏によぎる。
「なんで地下なのに、風が出るんだ──?」
ここは地下も地下、空気なんかふつうは循環しない。
まさか──!
そう思った私は