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第20話 没落令嬢と漁



意外な弱点だったなって思う。

【ブリッツ】の乱射は私のアイデンティティといっても過言ではなかったけど……。

それだけじゃあものをキズつけることしかできないんだ。


何かを捕まえることも、ワナにはめることもできない。

一芸に特化させるばかりだと、たとえそれがスライムだったとしても大きくつまづいてしまうんだ。


大事なことに気づかせてくれてありがとうスライム。

君のことは忘れないよ、だから遠慮なく私にとっつかまっておくれ!


「いたいた……! のんきに水なんか飲んじゃって!」


というわけで、さっそく戻ってきました【フロイス湖】。

いま私たちはそろって【イヴェイド】を起動、湖のほとりにやってきたスライムを待ち構えているって状況だ。


「ねえリーズ、スライムが来たよ? しかけないの?」


「まだよ、たったこれだけのためにずいぶんと苦労しちゃったもの」


そのためにできうる準備はした。

捕獲の道具も作って、スライムの習性も調べて……もう軽いスライム博士といっても過言じゃない。


スライムの習性、その1!

スライムは水が大好物だ。

彼らがたくさんいる地域は水が豊富にあるということで、開拓や開墾をする時参考になったらしい。


「でもぶっつけ本番だよ? ほんとうにうまくいくの?」


「いかないわけないでしょ、なんてったって私が作ったんだから」


『すら~』


「おっと、きたな~?」


ほんとかなぁとでも言いたげに肩をすくめるキュウをよそに、スライムの様子を見ていると……もういっぴき、違うスライムがやってきた。


スライムの習性、その2!

スライムはそんなに頭がよくない。

最初の1匹が周りと違う何かをしたとき、あとから同じことをしようと集まってくる。


「リーズ?」


「まだ!」


だから、まあ。

スライムを捕獲するときは、すぐに手を出すのは損なのだ。


ぴょんこぴょんこと3匹目。

周りの様子をうかがいながら4匹目。

どんどんスライムたちが湖岸に集まってくる。


けど手を出すのはまだまだ先。

集まって集まって……やがて、満腹になった最初の1匹目が離れるとき──!

それがこの、新兵器をぶちまける・ ・ ・ ・ ・時だ!


「こ、こ、だァーーーー!!」


『すらーっ!?』


特製【万能投網】!

私の乱入に驚くスライムたちの脳天を、細かな目の網が覆いつくす!


運動オンチで体が獲物に追いつかないのならば、1回で捕まえられる範囲の大きさでカバーしちゃえばいい!

【アイテムシューター】のおかげで正確にアイテムを投げられるようになったから、狙いを外すなんてミスもしないしね!


だからあとは、タイミングの問題だ。

満腹で動きの鈍った個体、食事を続ける個体……おおよそ異常事態に対応できないって状態に放てば──!


「いよーーーっし大量ゲットォ!!」


──放たれた一手は、最大の成果になってかえってくる!



「ほーっほっほっほ!」


ドクターにコトの子細を報告したら大笑いされた。


「つまるところアレか! スライムを捕まえられなくて、【タモ】を材料に錬金術をして! それで結果がコレか!」


ドクターのいうコレとはもちろん、スライムの詰め込まれた【万能投網】だ。

ほぼ満腹なスライムがこれでもかと入っているものだからパンッパンに膨らんでいて、もぞもぞとうごめいているのに合わせて、脈動してるかのような動きを見せる。

──にしても!


「それで、置く場所に困ったところをワシに見つかったと! ほーーっほっほっほ!」


「そこまで笑うことないじゃない! こちとら必死にやったのよ!」


こんなありさまなものだから【無限工房】アタノールに運び入れるのには苦労した。

キュウが押して私が引っ張って、ようやっとここまでこぎつけたんだ。

おかげさまでキュウは【スタミナ】を切らして、そこでへろへろになってる。


「いやいや、バカにしたつもりはないぞ! 面白くはあったがな」


「結局バカにしてるじゃないの!」


「……そんなことよりも、だ!」


私の文句を一蹴したドクターは網の中へ手を突っ込み、投げ捨てるように2匹、スライムをひっぱり出したのだった。


「品質の大切さについて、教えてやるというハナシ──だったな!」


『すらーっ!?』


いうが早いか。

ドクターはどこからかレンチを出し、片方を殴打!

スライムの心臓である【スライムの核】を一発で粉々にし、撲殺せしめた!

さらに。


「【オートマチック】・オン!」


指パッチンの音が響くやいなや飛んできたのは人並みのサイズはある容器だ。

卵にスタンドがついたような造形に、何かのハンドルがついたもの……その口ががぱっと開き、スライムを吸い込んでしまった!


「な、なにするつもり?」


「なあに、スライムから新鮮な素材を取るにはこうする必要があるのでな……見ておれ!」


言いながら指パッチンをもう一度鳴らす。

いわれるがままに容器の方を見やれば、【一の解】が反応。

このアイテムの正体を教えてくれた。



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【 遠心分離機 】


 Lv 37

 品質 93

 属性 なし

 カテゴリ オーパーツ

 入手方法 ???

 売値 12000エン


 【キカイ】製の生産道具のひとつ。

 特定の【カテゴリ】に所属するアイテムやモンスターを入れると、

 素材アイテムに変えることができる。

 稼働中はのぞき見厳禁。


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「まさか……!」


「そのまさかよ!」


……これから何が起きるかわかってしまったところで。

【遠心分離機】はひとりでに大・回・転!

ぎゅるぎゅるとすさまじい音が工房内に響き渡る!


「鬼! 悪魔! 犯罪者! マッドサイエンティスト! スライムだって生きてるんだぞーっ!」


「あ~ほ~、ワシらはとっくに無法者じゃろが」


詰め寄る私に、ドクターは肩をすくめるばかりだ。

やがて耳障りな音がやむとふたが開き、中に入れられた哀れなスライムの末路を見せつけてくるのだった……!



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スライムの粘液 獲得!

スライムの核 獲得!


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「スライムの核と体が完ッ全に分離してる……!」


「うむ……こっちのカスみたいな粘液と違う、純度100%のものである」


手ですくってどろりとたらしたのは、スライムを倒すことで手に入れた方の【スライムの粘液】だ。


ぱっと見は同じ素材アイテム、同じ粘液。

カス呼ばわりされるほどの違いがあるとしたら、とつぶさに見ていたところで……何か小さいつぶつぶが、浮いているように見えるのに気が付いた。


はて? こんなつぶつぶいつの間に入ったのやらと考えてると……そこではたと気が付いた。


「もしかして、割れた【スライムの核】がそのまま残ってるの?」


「ほーっほっほっほ、そのとーり! したらばわかるであろう──もしこんなもんを、調合の材料に使えばどうなるか?」


なるほど、言わんとするところがわかってきた。

つまりはコンタミネーション、試験薬にゴミが入ったのと同じ。

素材を合わせ違うものを作る【錬金術】、そこにゴミが入ったら──!


「正しく調合物が作れない……」


「そうだとも! それこそが高純度、高品質を目指さなければならん理由じゃ、わかったな?」


言いながらドクターはぐぃっと私の目前まで顔を寄せてきた。


「わ、わかった! わかったわよ!」


「……そうかい、したらばアレをとっとと片付けてもらおうかの」


「へ?」


ドクターが指さした先。

そこにはもちろん、いまだ座り込むキュービックと……もぞもぞ動く網。


「10匹も20匹も捕まえてきおって……あんなもん置くスペースなんぞどこにもないわ、なんでもいいから貴様の手で処理せい」


「あ、あはは……」


笑ってごまかしたところ、返事はため息と押しのける腕だった。

そのまま、とっとと起きんかとキュウを起こしつつドクターは工房の入口へ。

また自分の部屋に引きこもるのか……と思っていると。


「ワシはヤボ用でしばらく外に出る……戻ってくるまでおとなしく待っとれ、いいな?」


「……!」


……これは思ったより、早くチャンスが来たな?



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