本を読むのは、嫌いじゃない。
パパもママもお仕事で忙しかったし。
習い事とかお勉強とかはきっちりとあったから、もて余すほどの時間もなくて。
結果、手を伸ばしたのが本だった。
のめり込みはしたわ。
何でも手に取ったし、断念したものも含めなんでも読んだ。
―この本に書いてあることをやってみたいの!―
といえばみんな、
―いろんなものに興味をもってえらいね、莉世―
ってなんでも言うこと聞いてくれた。
……そんな経緯なので、どんな本が好きかとか答えられない。
だから「本を読むのは嫌いじゃない」し──。
「ねえリーズ、ほんとに読めてるの? それ」
「いわれると証明が難しいわね、さっき読んだ【オラとバクダン】のテキスト読み上げればいいかしら? ソラで」
ちょっとのテキスト程度ならしゅばばばっと流れるように読んでしまうのだ。
ちなみに【オラとバクダン】は爆弾の開発に生涯をささげた炭鉱夫の物語だ。
途中、威力と安全性の板挟みになった苦悩と【指向性爆弾】のヒントをつかむために王都まで飛び込んでいった熱意が見どころね。
アホらしく見えて、意外とよくできたお話だったわよ?
……閑話休題。
いま私たちがいるのは
【フクロウの一族】が集めたという本のなかに、大量のスライム素材をいっきに消費できるものがないかなあ、という
「ひたすら資料を読みふけってるのも退屈ね……」
図書館と見間違うばかりの蔵書数。
いくらサクサク読めるといっても、上から下へと読むばっかりじゃあ飽きてくる。
「リーズー、次の分持ってきたよー」
「ねえキュウ……ちょっとカラダ動かさない?」
「へ?」
というわけでちょっと体を動かすことにした。
もちろん、気分転換として当てもなくやろうってわけじゃない。
「──ノルマはそうね、レベル30。 ちょこっと軽く暴れちゃいましょ」
*
そうして始まったのが、【毛細地下水道】でのレベリング。
コウモリの群れがいるぶん火山の方がいいんだけど、もうあそこはファラの収録スタジオ。今の身分で出れば大パニックは必至だ。
それにこのダンジョンはアジトまでひといきに行ったっきり。
まだまだ知り尽くしたには程遠い。
「待て待てー!」
『ヒイィィィィ!』
例えばいま、私から逃げまどっているこのゴースト。
手にもってる鈴を鳴らすたび、近くのゴーストが寄ってくる!
リリリリリリリリン!
『ヒッヒヒヒヒヒ!!』
「きたきた……!」
呼び鈴を鳴らす幽霊、なればこその【アラームゴースト】。
せまい水路に響く鈴の音で壁から、曲がり角から、はては天井からゴーストたちを呼び寄せる。
そうやって仲間を呼ぶだけ呼んで、自分は逃げ回る……本来だったらとんでもなくイヤらしい敵。
だけどそういう敵こそ、レベリングにはうってつけだ!
「【スーサイド】・オン──ブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツ!!」
狭い道幅の局地戦は、マシンガンばりの手数がある私の独壇場!
そこへ仲間の呼び寄せ──戦場で『愚の骨頂』と言われる、戦力の逐次投入をするのだから目も当てられないことになる!
『ヒッ、ヒヒィーーッ!』
呼び寄せた仲間が一瞬で全滅したことに、最大級の危険を感じたか。
アラームゴーストは悲鳴をあげながら逃げだすけど──。
「ばあっ!」
「残念でした、通行止めでーす♪」
そっちにはキュウを先行させておいたんだな。
横道ナシの一直線で挟めば逃げ場はないもの、使わない手はない。
「……さあてキュウ、逃がしちゃイヤよ!」
「アイアイ!」
『ヒッ……ヒッ!?』
さて。
逃げるのに夢中なあまり、絶望の袋小路へ飛び込んでしまったアラームゴーストの心境は察するにあまりある。
「どうしてこんなにも追いかけてくるのか?」ってね。
ただレベリングしたいだけなら、こんなコトをする必要はない。
こいつを適度にイビり、寄ってきたゴーストたちだけ【ブリッツ】で倒せばいい。
じゃあなんでここまで執拗に狙ったかというと……
「その鈴、よこせーーーっ!!」
『ヒィーーーーーッ!?』
せっかく手に入るチャンスがあるのなら。
なんもかんも手に入れてしまいたいじゃない?
──もちろん、本来の目的も忘れちゃいない。
ドクターがあざ笑うようにあかし、資料室で読んだときに知ったとあるスキル。
レベル30は現状のイフオンのレベルキャップであると同時に、そのとあるスキルの習得条件でもある!
━━━━━━━YOU WIN!━━━━━━━
モンスターの討伐成功!
ノーダメージボーナス+50%!
EXPを10580獲得!
レベルが30にアップ!
ステータスポイント25を獲得!
リーズの中で新たな力が目覚めた!
錬金術【三の解・尸解】獲得!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おいでませ……錬金術スキル三つ目の解!」