「よいしょーっと!」
【細工道具】の中におさめられていたドライバーでネジを外すと、支えのなくなったダクトのフタは落ちていき……眼下の床でガランガランと音を立てた。
「…………」
そこから、羽交い絞めの形で背中に引っ付いてるキュウがゆっくりと上昇。
自力で這い上がれる程度まで持ち上げてから、縁にひっかけてくれた。
……無言で。
「あ、ありがと……」
「いーよ、それよりさっさと行こ」
そこから手早く離れたキュウは、そそくさ先へと向かってしまった。
……うーん、焚きつけたのはこっちであるけど少々効きすぎたらしい。
当然といえば当然だ。
たとえそう思うのが自分ひとりであったとしても、敬愛して、付き従って、あれやこれやと気をもんで。
そこまでしたのに、自分はドクターに信用されていないのかもとなってしまったら。
誰だって一刻も早く、真偽のほどを確かめたくなるだろう。
「ふつうはそういう見返りを求めないでやるものだけど……ま、納得はできないわよね」
言いながら、ほふく前進の要領でキュウの後を追う。
この先に答えが待っているのは私とて同じ。
今の今まで開かずの間だった、
「そう思えばダクトの中をはいずりまわるのなんかよゆーよゆー……よゆーよ」
やせ我慢的に言い聞かせながら進むとやがて、下から光が差し込んできている部分と、外に出ることができないからかこっちをニラんでいるキュウの姿をみとめる。
「おそい」
あんたがせっかちなのよって、言い返してやりたいところだけど……。
今はそんなくだらない口喧嘩より、状況の確認だ。
「ここが例の部屋の真上ってことで、いいのかしら?」
キュウが無言でこくりとうなずいたのを見届けつつ、ふところから取り出したのは……さっきフタを取り外すのに使ったドライバーだ。
アイテムボックスを操作してテキトーに糸を呼び出し、トライバーに括り付ける。
「ドライバーでどうするのさ、裏側からじゃネジの方に届かないよ?」
「まあ見てなさいって──ここで、さっきのレベリングが活きてくるのよ」
この世界のモノはなんでも素材になる。
草であったり、虫であったり、スライムのなれの果てであったり。
そんなものが職人の手でアイテムへ変貌する。
たいていの場合はすりつぶしたり溶かしたりしているのだけど、錬金術に限ってはそのままだ。
草も動物も、モンスターだってそのまま釜にドボン。
混ぜればモノを言わぬアイテムの出来上がり。
じゃあ──魂は?
生きているならば誰もが持っているはずのモノは、調合のさなかにどこへ行った?
その答えを握っているのがこのスキルなんだ。
アイテムに残った素材たちの魂を導きだす、なんともマジカルな方程式!
「【第三の解】・オン!」
そんな新スキルを唱えてみれば。
つながれていた糸を介し、ドライバーがひとりでに持ち上がっていく。
「お、おお?」
「おねがいね」
これをフタのスキマから垂らせば、あとは意思をもったドライバーくんが勝手にネジを取り外していってくれる。
これを都合4回繰り返せば──がらんがらん、と!
「はい、開通──!?」
いうが早いか。
フタが落ちていくのを眺めてから、ドヤ顔してやろうとしていたその時。
脇を何か小さいものがすり抜けていくのを感じた。
──キュウだ!
「ちょっとキュウ、気が早すぎない!?」
「ドクターが戻ってくるまでに、どうしても手に入れておきたいものがあるんだ──きっと、それがないとちゃんと話してくれないから……」
キュウは言いながらバーニアを使って器用に着地、そのまま窓付きの棚へと突貫しようとする。
ここからはこの部屋で探し物をするフェーズだ。
いつドクターが帰ってくるかもわからない今、ひとつずつ丁寧に探していくよりも……情報をできる限り集めてから考える、っていうのは悪い話じゃあないか。
……だったら、気にするべきはひとつだ。
「キュウ! ──それはちゃんと、ドクターの弱みになるような代物なんでしょうね?」
「うん」
「ならばよし! 私は私で情報を集めるから、あとで持ち寄って作戦会議よ!」
そこから私も部屋に飛び降り、キュウとは逆の方向へ向かう。
とりあえず第一目標は……あのデスクからかしら!