ドクターがひがな閉じこもり、ずっとそばにいたキュウにさえ見せなかった
「後で持ち寄って作戦会議よ!」
そこへ侵入した私たちは二手に分かれ目的のモノを探し始めた。
かたやキュウは『ドクターの弱みになるもの』を手にするために。
かたや私は『ドクターが何をしようとしているのか』を知るために。
キュウが何を探したいのか知らないけど、今そんなことを聞いているヒマはない。
とにかくそれらしいものをおさえて、精査は後だ!
「とりあえず第一目標はあのデスクかしら」
資料、研究記録、あるいは日誌。
そういうすぐ必要になるものを「とりあえず」で仮置きするのに、デスクは外せない。
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【設計図】 獲得!
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常に人を遠ざけているんだ、あえて裏をかく意味はない。
あんまり面倒なところに隠しちゃったら、使いたくなった時が面倒だものね。
「これが今作ってる兵器で間違いないわね……」
それぞれの項目についてるチェックは、『ここまで踏破済み』ってことだろう。
それに照らし合わせれば、主要なパーツはもうおおよそ出来上がってるようだ。
「もうほぼ完成間近って感じね……」
早くしないと【リヒターゼン】が危ない……となれば。
さっさと今後の方針を決めなきゃ!
「キュウ! そっちの用事は終わったー!?」
どんがらがっしゃん。
返事代わりに聞こえてきたのは、倒れた棚と盛大なキュウの悲鳴だった。
「ちょっとキュウ、何やってんの!」
「けほっ──ごめんごめん、探し物が見つからなくってさ! 小さくて赤い宝石……もしかしたらあっちかなあ?」
「あんまりめちゃくちゃにしちゃイヤよ、この部屋から出るときにはなにもかも元に戻さなきゃなんだから」
困ったなあ、あっちはだいぶ難儀してるらしい。
「あれ? あれれ……?」
しきりに見まわしながら、棚の周りを飛び回ってうろうろと。
あの調子じゃあ、ちっとも話が進まなさそうだ。
ある種のほほえましさはあるのだけど、今はちょっと急ぎたい。
明確に敵と確定したドクターがいつ帰ってくるかわからないもの。とっとと打ち切って部屋から出てしまいたいのだけど……。
「キュウ? その宝石って、倉庫にあったりしないの?」
「ドクターが言うには【フクロウの一族】に伝わる宝石で、
「なるほど」
万が一にもほかの素材と混ざったらまずいものね。
あれだけ大仰に動く機械工場を使っても作るのが難しい代物ならばなるほど、確かにドクターのウィークポイントになりそうなものだ。
彼との衝突が見えてる今、有利に立ち回れそうな物はなんでも欲しい。
たとえ手にした瞬間に見つかるリスクを負ってでも探しておく価値は、ある。
しかし、まあ。
「宝石かあ……」
もう滅多なことでは聞かなくなったワードを聞くと、少々思うところがある。
宝石とはすごいデリケートなものだ。
なんてったってごまかしがきかない……採掘地、加工、買った人の人間性その他もろもろを、その身をもってあぶりだしてしまう。
色味がよくなかったら無価値、加工がヘタだったら無価値、ヘンに触れれば酸化して無価値──結局あれのことを適切に扱う、なんてのはほんの一握りの人にしかできないことなのだ。
今日び私が【宝石】というワードを聞いてイマイチ心がときめかないのは、そういうところが原因であったりする。
かつて確かに価値があったのだろう宝石を見せびらかすエセセレブを何度も見てきたものだから、時々思ってしまうのだ。
いま私は、宝石を色褪せさせずに使える側の人間なんだろうか、って。
そんな恐れ多さみたいなものを感じている宝石なのだけれど──ドクターが後生大事に保管しているということになんだか違和感がある。
「なんというか、似合わないのよね」
ドクターはやんごとない身分でも何でもない。ただのマッドな研究者だ。
そんな彼が、特に理由もなく人工宝石なんかつくるだろうか?
「完全にカンだけど……たまさか【宝石】という形になっているだけで、実態は実験に使う、【触媒】かなにかの方が正しいんじゃ?」
となると、怪しいのは──デスクの引き出し!
「あった!」
がらりと勢いよく開いた中には赤い宝石の見える透明なケース!
それに研究記録だろうか、ちょうど手に収まるサイズの小さな本!
わかるわかる、私もなんでもかんでもベッドの近くとかデスクに置いちゃう──結局、自分の手の届く範囲に置けば管理は楽なのだ。
まあ……そのままゴミとかも近くにおいちゃって、流子ちゃんにいろいろ言われちゃうんだけどさ。
「あれ……? もしかして私、あのヒゲオヤジ以上に生活終わって……?」
──やめやめ!
余計なことを考えるのはやめよう、今はクエストが優先だ!
「とにかくキュウを呼ばないと──おーい、キュウー!」
たしか大きな棚の周りをくるくる飛び回っていたはず……そう思って顔を向ければ、棚のそばに立つキュウの姿が。
「キュウ? あんたの言ってた宝石、見つけたわよ? あっさり見つけたもんだからすねちゃった?」
軽口をたたいてみてもキュウは返事ひとつよこさない。
本当にどうしちゃったんだろう?
力なくぼーっと突っ立って、なんかずーっとうつむき加減でいて。
まるで、操る人のいない人形のような──。
「おーい、キュウやーい」
近寄って──声をかけたそれが、合図だったのか。
突如としてキュウは飛び上がり、振り向きざまの裏拳を浴びせてきた!?
「がっ──!?」
バランスを崩したところからさらにもう一発……今度はおなかに決まり、体制も何も作っていなかった私はそのまま突き飛ばされてしまう!
「キュウ! ねえキュウ! いきなりなにすんのよ!」
『コード0225──重要区域への侵入者を確認。マスター【ドクター・オウル】の命によりこれをせん滅します』
「……!」
ゆらりとした動き。
これまでの子供の声とは全く違う、機械で作られた音声。
それにドクターの名前!
ここまでくればもうわかる……今のキュウは、ドクターに操られてる!
「ドクター! ドクター、いるんでしょ!? キュウになにしたのよ!」
威勢良く叫んでみるけど、返事はない。
がっしゃがっしゃと歩く音が響くばかり。
━━━━━━━BOSS━━━━━━━━
キュービック
属性 雷
Lv 47
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おなじみのウィンドウも相まって、これじゃあ本当にボス戦だ……!
くっそう……やるしかないのか!
「……【スーサイド】・オン!」