「むぎゅう……」
いやあ、キュウみたいな高機動&近接タイプと私ってものすごく相性が悪いのね。
おかげでこっぴどいくらいボコボコにされたわよ。
レベル差あるくせにこっちは本来非戦闘員で仲間ナシ、向こうはガチガチの前衛で手加減なし、さらに不意打ちから始まる鬼仕様……数分持ちこたえられただけでもほめてほしい!
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【無限工房のフォークロア Chapter.1】クリア
特殊条件
① 【NPC キュービックとともに
② 【管理人室で、赤い宝石と古ぼけた日誌を入手する】
の達成を確認。
イベントが発生します
条件『フォークロア・クエストのChapter.1をクリアする』を達成しました。
スキル【フラグメンツ・ドライブ】を獲得しました。
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とはいえだ。
起き抜けに現れたウィンドウを見るに、どうやら勝ち負け自体はクエスト進行にかかわらないようで、そこだけはラッキーだったといえるかも。
「そんで、ここはどこよっと──」
普通であれば今わの際の様子を見せられ、少々の暗転とローディングを挟んで、最後に休んだベッドからまた起き上がる……なんてプロセスを挟む。
状態異常を無視する【デスマーチ】の勝手がわからなかったころ、何度も調合のし過ぎで死んでいたからよく覚えている。
だからこそ、今置かれているこの状態が不思議でならないんだ。
見渡すかぎり真っ白い空間が伸びていくばかり。
まるで初めてログインしたときの謎空間だわ。
「まさか異常終了しちゃった、とか?」
いやいや、と首を振る。
我ながらアホなことを考えるもんだ。
異常終了してるんならさっき現れたウィンドウはなんなのよ。
「想定通りゲームはちゃんと動いてる……たぶんこれが特別なイベントってやつなんだわ」
なら。
カギを握るのは、このイベントのトリガーになった赤い石と古ぼけた日誌。
アイテムボックスから取り出してみれば──ビンゴ、赤く光り始めた。
石と手帳サイズの手記……どちらも小さなものだけれど、この殺風景な場所ではイヤでも目立つ。
ひとりでに浮かび上がり、私の手を離れた2つのアイテムは合わさり、どんどんその光を強くしていく。
そして……私の全身くらいに大きな本のカタチを成したとき。
童話の始まりを告げる決まり文句が、あたりに響いたんだ。
『むかしむかし、あるところに──』
それが合図か。
大きな本は開かれ、紡がれるお話に合わせた絵……というか映像を生み出していく。
むかしむかし、あるところに。
【キカイ】という不思議なアイテムをあつかう一族がおりました。
故郷を離れ、鳥のように各地をわたる賢者の一族……そんな彼らのことを知る人は【フクロウの一族】と呼んでおりました。
「【フクロウの一族】……!」
あるとき【フクロウの一族】は、王さまへ国の役に立つアイテムを作り献上するという条件のもと、大きな国のなかで暮らすことになりました。
こんこんと水を沸かせる魔法の玉、ちからもちのロボット、家すら運べる大きな車……【フクロウの一族】は滞在を許してくれた恩に報いるため、様々な【キカイ】のアイテムを作り出していきました。
「……キュウ」
しかしあるとき。
物珍しさに彼らの住むところへやってきた国の人が、初めて見る【キカイ】にびっくりしてこういってしまったのです。
『なんだこれは! 鉄製の子供に、鉄製のけもの……【フクロウの一族】というのは、モンスターを作る一族だったのか!』
「!!」
そこから始まった騒ぎは国中に広まり、騎士たちもやってくる事態に。
一族のリーダーがいくら必死に説明をしても、人々は聞く耳を持ちませんでした。
【フクロウの一族】は【キカイ】というモンスターを作る一族である。
やがて、そんなうわさが国王のもとにまで届き……。
『【フクロウの一族】……この私をだまそうとした不届きものどもめ! ひっ捕らえて処刑せよ!』
こうしてかわいそうな【フクロウの一族】はなにも知らない人々によって追い立てられることになり。
彼らの作る【キカイ】は禁じられた存在として後世に伝わっていくことになってしまったのでした──。
*
「ゲームでまでムナクソ悪いハナシを見せないでよ、もう……」
むかしばなしが終わってからようやく暗転。
ようやっと
このゲームを作った人たちはほんっっっとーーーに性格悪いとおもう。
わざわざこんなお話を見せつけられて気分が盛り上がるわけないでしょ。
とはいえ、これで事のあらましはわかってきた。
「【フクロウの一族】……いやドクターたちは、それまでに作り上げた何もかもを、何も知らない人間たちに踏みにじられたんだ、だからこんなところに閉じこもって、復讐しようとしている」
特に何かをしたわけでもないのに迫害なんて。
そりゃあ厭世的になるのも納得だ。
「それになんだか、私たちみたいだ」
悪いことをしていたのは私たちじゃないのに、だれもかれもがパパを……会社を目の敵にして。
最終的にはヤクザめいた赤髪の大男の手によってなくなってしまった。
きっと、行く道が違ってたくらいで……あんがいドクターやキュウと私は似た者同士だったのかもね。
「……それでも、止めなきゃ」
気持ちはわかるんだ。
復讐とかやっちゃいけないなんてわかってるけど。
もしやれるなら? と聞かれたらYesと返したい。
けど。
ドクターに使命があるのと同じように、私にだって成し遂げたいことがある。
一族を背負う彼に比べたらちょっとこじんまりとしたものだけど……それでも誰かに道を譲ろうなんて気にはなれない。
私は前しか向かない。
それで、誰かを踏みつぶすことになっても。
「とりあえず状況を整理しましょう、ステータス」
スタイル【強欲】を装備していないときにやられて復帰した。
たぶんリスポーンのペナルティとしていくつか消えてるものがあるはずだ。
そうおもってステータスウィンドウにあるアイテムボックスを開いてみれば……なんてこと!
「……素材アイテム以外全部なくなってる! 石も手記もない!」
いくらなんでも取られ過ぎ……ドクターのしわざだな!?
本格的にここに閉じ込めておくつもりか!
「──お探しのものはこちらですかな、お嬢さん?」
私が起きるまで待っていたのか?
私のひとりごとを聞いていたらしいドクターが部屋に入ってきた。
さっき管理室で見つけた赤い石と手記を手ににまにまと……どうやら私に見せびらかすことができて相当ご機嫌らしい。
「目の付け所はよかったがのう、脇が甘い甘い……ワシが次善の策もなくキュービックを監視につけるわけがなかろうよ」
その傍らには虚ろな目をしたキュウ。
相変わらず無言で、とぼとぼとした足取りだ。
「ふんっ、得意げに言っちゃって……復讐計画とやらの首尾は上々なのかしら?」
どうやら私室に入り込んで荒らしまわったのが相当に”効いた”らしい。
ベッドに座る私に迫り、だんっと思い切り床を踏みしめた。
「貴様のせいで絶賛停滞中だよ困ったことに……あの部屋には誰も入らないよう細工をしたはずなんだがな!」
「……私は最初に言ったはずよドクター、【錬金術師】として好奇心に駆られてやってきたって──キュウのアタマをいじってまで、こそこそ隠すからこうなるのよ」
「はん、どこまで本当のことだか! これだから外様は信用ならんわい、まったくキュービックのやつを信じてバカを見たわ!」
「……あんた」
「おお、こわいこわい……威勢だけはいっちょ前じゃのう!」
キュウを愚弄するなと凄んで見せた私を鼻で笑いつつ、ドクターは部屋を後にする。
「キュービック、今度こそ目を離すなよ! 変な真似をしたらまた叩きのめしてやれ!」
『イエス、ドクター』
「とにもかくにも、貴様にもう好き勝手はさせん……新型兵器完成までの間、ここで指折りながら待っておるとよいわ!」
そして入り口付近に陣取るキュウへ指示をいいわたし、そのまま言い捨てるように離れていったのだった……。
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フォークロア・クエスト
【無限工房のフォークロア Chapter.2】
が発生しました。
このクエストは強制的に開始されます。
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