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「あ、宣伝相閣下、御覧下さい」
モニター室に戻った彼を待ち受けていたのは、報告を手に手にした部下達の姿だった。
「どうした? 発信源は判ったか?」
気持ちの動揺はなかなか治まらなかったが、職務にそれを反映させてはいけない、というのはテルミンの信条だった。
「はい。ですが、これは移動しています」
「移動?」
「機材より、発信者が端末を持って移動していると考えた方が良いと思われます。ただ……」
「ただ?」
「結局は、発信位置が判った時には、相手は既に移動している、ということになりかねません。しかし、この端末は、未登録のものではないです」
「登録済みのものなのか?」
「いえ、未登録ではない、というだけです」
「となると……」
テルミンはち、と舌打ちをする。ゾフィーが普段持っているような、携帯型放送用端末は、残らず当局に登録されているはずだった。だとしたらそこから現在の持ち主を探すことは難しくはない、と……普通は思われる。だが。
「未登録ではない」と「登録されている」とは違うのだ。
もしや、と彼は思う。かつての閣僚の中に、未登録ではない端末を持っていた者が居ただろうか?
居たのかも、しれない。
『それでは夜の淋しいひとときをお過ごしの諸君、今宵はここまで』
*
「……ここまで」
ぴ、とボタンを押すと、そんな音が鳴った。
リタリットは、建物の屋上の、階段室の上にあたる部分へと上り、そこで明るく光る衛星を眺めていた。そしてポケットから煙草を取り出して、火をつける。ふう、と一息つくと、そのまま座り込んで、膝を抱えた。
そこから見るこの首府の景色が、一番いいのだ。
「森」を挟んで向こう側の官庁街、東にはこんな時間にも人がにぎわう水晶街、西には駅。工事中の幕がやや無粋だが、流れていく列車の窓の明かりがきらきらと輝く。そして南には、闇が広がっている。その向こうは郊外だった。そしてこの郊外に、首府のベッドタウンがある。
彼はしばらく目を細めて焦点をぼやけさせ、その明かりを眺めていた。
「ここが、一番眺めがいいんだ、か……」
リタリットは、つぶやいた。
そこは、中央大学の校舎の屋上だった。