「私は、……きっと私はヴェルデ様のことを愛してしまった」
ローラの言葉を聞いたヴェルデは両目を見開き、息をのんだ。
「ヴェルデ様と一緒に過ごすうちに、ヴェルデ様の優しさや暖かさが本当に嬉しくてたまらなくなりました。私を見つめてくれるその眼差しも、優しく握ってくれるその手も、どれもが愛おしくて仕方ないのです」
「だ、だとしたらそれこそ何も問題ないじゃないですか!どうして」
ヴェルデがローラの両手を強く握りそう言うと、ローラは悲し気に首を振った。
「だからです。一緒にいればいるほど好きになってしまう。私は、百年も眠っていた人間です。実際であればヴェルデ様よりもずっと年上で、生きていた時代が違います。こんな古臭い人間など、今はよくてもいずれ邪魔になるかもしれない。一緒にいて私のことを知れば知るほど、がっかりしてしまうかもしれない。いつかヴェルデ様の前に素敵な女性が現れて、私など必要ないと言われてしまうかもしれない」
目を伏せながらぽつり、ぽつりと話すローラ。そんなローラを、ヴェルデは驚愕の眼差しで見つめる。
「私は、ズルいのです。私は、いつかヴェルデ様の元にいられなくなるかもしれないと、それならばいっそ今のうちに突き放されてしまえばいいと、そう思っているのです。ズルいでしょう?あなたを愛してしまったと言ったところで、それすらもあなたを縛る鎖になってしまうかもしれないのに。突き放されたいのに縛り付けるだなんて、本当に身勝手でズルい女なのです、私は」
両目に涙を浮かべてローラは静かに微笑んだ。その微笑に、ヴェルデの胸はギュッと潰されそうになる。
「……ズルくなんてないです。むしろ、ローラ様のその言葉が俺を縛る鎖になるのなら、喜んで縛られます。ずっとほどけなくていい。ずっと縛り付けていてほしい」
ジッとローラの目を見つめて静かにヴェルデは言った。
「いいですか。たとえ百年眠っていたとしても、今目の前にいるローラ様の実年齢は俺よりも年下です。なんなら世間一般では俺はもう三十近いおじさんですよ。生きてる時代は確かに違かったかもしれません、でも、今の時代の物事を知っていくあなたは純粋に楽しそうで嬉しそうで、そんなところも目が離せません。それに」
そう言って少し怒ったような顔でヴェルデはローラを見る。
「俺が、そんなことでローラ様を嫌いになるような男だと思っているんですか。そんなことでローラ様を捨てるような、軽薄な男だと思っているんですか?酷いです」
「そ、それは……」
ローラが戸惑い気味に目線を泳がせると、ヴェルデは大きくため息をついた。
「ローラ様は考えすぎです。仕方ないのかもしれませんが、もっと自分に自信を持ってください。どれだけ俺があなたに心を奪われて、翻弄されていると思っているんですか。それとも、もっとわかってもらうように手荒な真似をしないとだめですか?」
ヴェルデはローラの手の甲に静かに口づけをしてそのまま上目遣いでローラを見る。そんなヴェルデの仕草にローラの顔はすぐに真っ赤になってしまった。
「ほら、そうやってすぐに煽る」
(そ、そんなこと言ったって!ヴェルデ様にそんなことされてそんな顔されたら顔は赤くなってしまうし、どうしていいかわからないもの)
ただでさえヴェルデの顔は良いのだ、なおかつそれが好きな男となれば太刀打ちできるはずがない。
「いいですか、きっとこれからもことあるごとにローラ様は同じことで悩みそうなのではっきり言っておきますが、ズルいのは俺の方です。俺がローラ様を手放したくないんですよ。あなたをこの国に連れてきて居場所を作ると言いました。もちろんそれはローラ様のためです。でも、そうすればあなたは俺から離れられないでしょう。あなたの居場所が俺の側にしかないと思わせれば、あなたは永遠に俺の側から離れられない」
ローラを見つめながら、ヴェルデは少し低い声で静かに告げた。
「俺の方がずっと身勝手ですよ。俺はあなたを絶対に手放したくない。どんなことがあっても、誰にも渡したくないんです。そのためだったら俺はどんなことでもします。それほど、あなたのことが好きで仕方ないんですよ。あなたを幸せにするのは、一緒に幸せになるのは俺じゃなきゃ嫌なんですから」
ぎゅっとローラの両手を掴むヴェルデの手が強くなる。
「俺の気持ちはローラ様が思っているよりもずっと重くてやっかいです。逃げるなら今しかないですよ、と言いたいところですが、逃がす気ももうとうありません。……こんな俺だとわかって怖くなりましたか?」
自嘲気味にそう言ってヴェルデは首をかしげる。そんなヴェルデを見つめ返しながら、ローラは首をふった。
「いいえ、むしろ嬉しく思えてなりません。きっと、ヴェルデ様が思っているよりも、私の気持ちも重くて複雑なのかもしれません」
ふわっと微笑むローラに、ヴェルデの胸は今にも張り裂けんばかりだ。
そしていつの間にかヴェルデはローラを抱きしめていた。
「ずっと俺の片思いだと思っていました。でも、違かったんですね。よかった」
ぎゅううっとヴェルデが抱きしめる力を強くすると、すぐに体を離してローラの顔を覗き込む。ローラを見つめるその瞳は蕩けてしまいそうなほど甘くて優しかった。
そのまま、静かにヴェルデの顔が近づいてくる。ローラは一瞬ひるんだが、すぐに瞳を閉じる。
ヴェルデの唇が、そっとローラの唇に重なった。