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第5話 金策をしよう

「さて、お金を貯めますか」



 姉との約束、といえど目標金額はまだ定まっていない。

 一体いくら貯めればいいのか。

 楽器がいくらするのか。


 姉の得意な楽器の種類すら。

 それすらもわからない。



「こういう時、そういう専門の人がいてくれたらいいんだけど」



 思えば、前世は人に頼りまくって生きてきた。

 こういう時、何かしらそういう人脈が役に立ってきたわけだけど。


 ちょっとリアルに戻って聞く、というのが今の私にはできない。



「問題はお金を入手する手段なんだよね」



 腹が減ってはなんとやら。

 遊ぶだけでもスタミナやらHP、SPが減るのがこのゲーム。


 ついさっき食べたのでお腹の方は大丈夫なのだが、計画性のない浪費が祟って今現在の所持金は1000を切っている。

 以前までは情報を抜くたびにお金がじゃぶじゃぶ入ってきたのだが……あれからもう20年。


 その手の情報はもう残っていないだろう。

 聖魔大戦やらで図書館を虱潰しに探したプレイヤーがごった返していたものなぁ。



「あれ、もしかしてこれ詰んでる?」



 嫌な予感を覚える。

 この格好、今の立場で木に登ったりは色々とその、恥ずかしさが勝る。


 今の私は女の子だからね。

 そして、そっくりな顔をしている姉に迷惑をかけてしまうのも憚られた。



「よし」



 私は人伝に聞きながら、アルバイトでいいのがないか見つけることにした。


 第五世代ならネット検索が基本?

 残念だが、私は生まれてこなかった人間だ。


 姉の中に入って生活はしてるが、所詮は一時的な活動。

 授業を頭から聞いてるわけでもないし、ネット検索に関する知識は姉に及ばない。


 なので足で稼ぐ。

 女は行動力。


 昔何かのゲームで聞いたことがある。

 至言だなと思ったものだ。



「よろしくお願いします」



 飛び込んだのは先ほどお茶した喫茶店。

 制服が可愛かったから、などという女子らしい動機で見事仕事を獲得した。

 私はお母さん(孫)から簡単な料理を習っているとはいえ、お金を取れるレベルには至ってない。


 なのでテーブルの片付け、配膳などを一生懸命やった。

 多少のトラブルもなんのその。

 前世の苦労に比べたら小さなものだ。



「助かったよ、ハヤテちゃん。これ、今日のバイト代ね」


「わぁ、ありがとうございます。私も楽しかったです」



 賄いまでいただいて、ちょっと得した気分になる。

 実は天職なのでは? と思わなくもない。


 私にこんな才能があったとはなぁ。

 何事もやってみなくてはわからないものだ。



「それで、ですね。少し相談があるんですけど」


「どうしたのかな?」


「私にお料理を教えてもらえませんか?」


「お、調理希望?」


「実は手料理を食べさせたい相手がいるんです」


「なるほど、任された。お姉さんはいつだって恋する乙女の味方だよ!」



 店長は何か勘違いしたまま、胸を叩いた。

 こちらとしては実の姉にご馳走するつもりで言ってるんだが、勝手に同年代の異性と思われてしまったらしい。

 調理中、相手がどういう人か根掘り葉掘り聞かれて困ってしまった。



「ハヤテちゃん、筋がいいよ」


「本当ですか?」


「調理スキルもなしでここまでやれたら一丁前だよ」


「そういえば、スキルってそこまで影響するもんなんです?」


「そりゃするでしょ。その道を極めるならスキルは絶対。あと、大量生産する上でその派生スキルは絶対あった方が便利。まぁお店を構えないんだったら、そこまで無理して取ることはないかな?」



 店長はリアルでも飲食チェーン店を任されていて、AWOには商品開発をしにきているとのことだった。

 知らなかったな、このゲームがそこまで食文化に力を入れていただなんて。

 私ときたらそんなところにはメモくれずに未知を解明することだけにかまけていたなと思い至る。



「このゲーム、そこまで食材が豊富なんですか?」


「若い子はあんまり興味向かないよねー。ハヤテちゃんぐらいの子だったら、もっとファンタジーや冒険! ドキドキ、ワクワクばかり追いかけるでしょ?」



 そんなことはない、とも言い切れない。

 実際姉はそればかりに夢中だし。



「このゲームは母さんの伝手で誘われたんです」


「へぇ、お母さんがね。今は親子3代で遊ぶのも珍しくないけど、そのお母さんテコのゲームで有名人だったりする?」


「うーん、どうなんでしょうか? おじいちゃんは確か、精錬の騎士ってクランのマスターをしてるって聞いてます」


「精錬の騎士の娘って、銀姫ちゃん!?」


「え、お母さん手そんなに有名人なんですか?」



 ちょっと白々しい感じが出てしまったかな?

 よもやマリンがオクトくん以上に有名人だとは思わなかった。



「はー、同世代だとは思ってたけど、もうこんなに大きな子がいたんだ。最近日々が過ぎ去るのも早いわけだ」


「店長はお母さんのことをよく知ってるんですね。うちでは教育ママなので、そんな風に噂が立つだなんて全然わからなくて」


「いやいや、でもそうか。今の世代は知らないわよね。彼女の所属しているクラン『アキカゼ・ハヤテを偲ぶ会』はAWOを代表する超人集団よ」



 ごめん、なんて?

 桜町町内会AWO部からそんな名前になってるの?


 不意打ちを喰らって赤面してしまいそうだ。



「しかしそっかー、銀姫ちゃんのねー。ハヤテちゃん。あれ、その名前って?」


「ひいおじいちゃんの名前からとったって聞きましたけど」


「あぁ、あの子おじいちゃん大好きっ子だからそうよね……待って、それもしかして本名なの?」


「えーと、はい」



 これだから最近の若者は!

 ネットリテラシーが低い!

 だなんて店長……シズラさんは嘆いている。


 文句があるんなら姉さんに言ってほしいな。

 アカウント制作に関して、私は一切関与していないのだ。



「シズラさん」


「何かな?」


「よかったらフレンドになってもらえますか? 今、所持金が大変なことになってて。とにかく手持ちを増やしたいというか」



 今後もここで世話になるくらいの覚悟でいる。



「スキル骨子は?」


「なぜか全てパッシブに」


「憧れは止まらないとはいえ、無茶しすぎよ」



 そこは本当にそう。

 私は前世をなぞる気はさらさらないというのに。


 知り合いは良かれと思ってその道をなぞらせたがる。

 本当に勘弁願いたいね。



「でもまぁ、有名人との顔を繋げられると思えば、こっちも損ではないと」



 おっと、腹に黒いものあり。

 でも無償で快諾する人よりは幾分か御し易いか。



「私からお母さんに掛け合うとか期待されても困りますよ?」



 一応フレンドにはなっているが、流石に大人の都合を無視できない。

 今のマリンは学生ではなく社会人だからね。



「流石にそこは頼らないわよ。ただね、お店のイベント告知を、ちょびっと教えるとか、そういうので全然構わないわよ。ハヤテちゃんの仕事風景を見にきてくれるとかそんなもので全然構わないし」



 その目撃者の口コミで稼ぎたいと、その目が言っていた。

 正直すぎるが、まぁそれくらいなら。



「それくらいでしたら」


「よし! 言質とったわよ! これからよろしくね、ハヤテちゃん」


「こちらこそ、お願いします」



 こうして私は資金の調達先を得た。

 飛び込みのバイトでも、案外なんとかなるものだなと思った。

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