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第10話 失敗は成功の母

「え、こよりが数日ログインできないって、そう言ったの?」


「はい。旦那さんの仕事のトラブルとかで」


「あちゃー。MMOの運営やってるとは聞いたけど、それが悪い方向に出ちゃったか」


「へぇ、運営なんてすごいですね」


「別に大したことではないわよ。開発とプレイヤーからの板挟みで胃薬が手放せないとかよく愚痴をこぼしてたわ」



 とてもよくわかる。

 管理職って大変だよね。



「それで、担当されてるゲームとは?」


「私もよく知らないのだけれど。最近子供向けに流行ってるというやつらしいわ。むしろハヤテちゃんが知らないのはどうかと思うわよ?」


「実はこっちに流れてくるまでにやってたゲームにワンダーブリンクオンラインというのがありまして」


「ああ、それそれ。こっちと向かってガチファンタジー作品らしいわよね。もう向こうに住んでると言っても過言ではないくらいの造り込みらしいわ」


「あまりにのめり込みすぎて、勉学が危うくなった身内が一人います」



 姉である。



「じゃあ、そのゲームが一旦ログインできなくなったとして」


「メンテナンスになってる間? プレイヤーは他のゲームに移ってくるでしょうね」


「AWOには?」


「来ないんじゃないかしら。趣旨は全く異なるもの。こっちはファンタジーの皮を被ったホラーマシマシのSFよ。誰がくるのよ。若い子なんて見向きもしないわよ」


「なるほど」



 それもそうか。

 親が遊んでるとかでもない限り、なかなか来ないかもな。



「で、ハヤテちゃんがここにきた理由は?」


「友達からの勧めです」


「そういう事情でもない限りは来ないんじゃないかしら」



 確かにね。



「勧める相手が相当うまいこと誑かさない限りはって感じです?」


「難しい言葉知ってるわねー。でも、まぁそういうことなら無理にお店を開かなくてもいいかしら」



 おっと、今はあまり聞きたくない言葉。

 私の働き先が潰えてしまうぞ。

 借金はあわよくば踏み倒せるけど、活動資金はあればあるだけ欲しいのに。

 特にスキルチェンジで変更した『料理』と『錬金』が何気に金食い虫なのだ。



「お店、閉めるんですか?」


「素材の安定供給がない限り、開けてても旨みないもの。なので閉店中は屋台をやります!」


「屋台!」


「その日仕入れた食材のみを使ってお料理の販売をするのよ」


「おおー」



 パチパチと拍手をする。

 前世で全く触れてこなかったものだ。

 でもこれってクランに入ってる前提が必要じゃなかったっけ?

 出せるってことはクラン入りしてるのだろうね。

 あまり突っ込んで聞く話でもないか。



「材料はNPCから買ってもいいけど、なるべくならプレイヤーメイドのもので作りたいわね。そういうことで、ハヤテちゃん、任せたわ」


「え、いきなり大抜擢じゃないですか。私素人ですよ?」


「ただの素人になんてやらせないわよ。ハヤテちゃんならやり遂げてくれるっていう信頼があるからこその抜擢よ。別に品質をいきなりひよりに近づけろとまでは言わないから」


「そういうことでしたら引き受けますけど」


「ちなみに、引き受けてくれたら今まで通りお店の調理場は使わせてあげるし、自分で収穫したお野菜を使って新レシピの開拓をしてもいいわよ」


「良いことづくめすぎて気が引けますね」


「普通はこのくらいの条件で釣れる子なんてまるでいないのだけど」


「え、そうなんですか? 私にとっては好条件なんですけど」


「やれ給料あげろ、賄いつけろ、との要望ばかり大きくてね」



 稼ぎよりも待遇を上げろってことね。

 でも賄いの要求がくるあたり、味は美味しいと認められているんじゃない。

 素直になれない子供かな?



「大変ですね」


「そういうわけで、そんな条件で喜んでくれるハヤテちゃんは貴重なの」


「扱いやすいという意味ですか?」


「伸び代が見込めるという意味でよ!」



 シズラさんは上手いこと言ったって顔してる。

 まぁ、こちらも望ましい条件なので了承。

 私は農家と屋台手伝いのアルバイトの二足の草鞋を履いた。


 以前と何も変わってないのは内緒である。



 そして……

 掲示板からの情報で『骨粉』なるアイテムの調達から始めることになったのだが、そんなものはマーケットのどこにも売っていなかった。


 早速オクトお爺ちゃんに相談。

 このためのフレンドシステム。

 早速相談に対する返答があった。

 その内容は、


 <オクト:骨粉はね、錬金術『加工肉製作』スキルの失敗アイテムなんだ>


 なるほど。

 ずっと成功してるから全く見かけないわけである。

 本来ならアイテムバッグに溜まり続ける不良在庫なのだが、ここで肥料として生きてくるというわけだ。


 そしてマーケットにもないのは、売っても価値がない上に誰でも入手可能という現実にあった。


 私は早速掲示板で『加工肉製作』の手順を踏んで、派生先に出した。

 そして素材の入手条件に再び頭を悩ませた。



「高い」



 基礎素材である『命のかけら』が高騰し続けている。

 基本的にマーケットである程度揃えられる素材アイテムだが、需要が高い商品は元の素材から高騰していて。


 ある程度バイトで貯めたお金はあるが、数個買うだけで残高はマイナスに突入する状況下にあった。

 素材が一般メニューより高いってどういうことなの?


 私はトボトボと屋台に帰った。

 そんな話を店長にすれば。



「その素材ならストックあるわよ?」


「どこで入手できるか教えてもらっても?」


「街の外の雑魚モブの泥人形が低確率で落とすのよね」


「ああ」



 戦闘スキルを一切持ってない私の天敵であることが判明。

 いや、倒せるには倒せるけど確率アイテムは複数人でのスキルチェインが必須。

 ただ倒しただけでは入手不能という、ゲームならではのギミックである。



「在庫分くらいは融通してあげても良いけど」


「その分は借金にしても良いので」


「その分お給料を下げるのは?」


「なしでお願いします!」



 現物には現物で返すのが筋である。

 と、いうより。

 AWOのトレードシステムがアイテムの相場で成り立つアベレージ平均値を採用しているのがそもそもの問題で。

 いまだにゲーム内マネーの価値が高騰し続けている理由でもあった。


 お給料はゲーム内マネーのゴールドで頂ける。

 しかし今は高いが、いつ暴落するかわからない素材で換算してあとで損をしてしまうのは明白。

 私は現物の借金をするだけして錬金に挑み、見事『骨粉A』を製作。


 それまでに『加工肉(鶏)B』をおよそ30は作ったか。

 まさか失敗素材にここまで苦労するとは思わなかった。



「ハヤテちゃんって、あれよね。普通に天才肌よね」


「このお肉で骨粉って買えますかね?」


「絶対にやらないでよ?」



 やったらやったで、骨粉を余らせてるプレイヤーが無理な条件をつけてくるとのこと。

 欲の皮が突っ張ったプレイヤーは前世でも星の数ほど見てきた。

 世代が変わっても本質は変わらないと言われてるみたいだ。

 だがトレード先が骨粉の材料であるならば?



「じゃあ店長、この『加工肉(鶏)B』1個で『命のかけらC』を10個買います」


「毎度ありー」



 早速借金をチャラにし、錬金術で加工肉を作り続けた。

 その結果、手元には50の『骨粉』と200の『加工肉(鶏)』がどっさり。

 本来なら『骨粉』を作り続けた先に手に入るアイテムなのだが、どうやら私には逆に入手が難しい筆頭となってしまった。


 仕方ないので余った『加工肉(鶏)』は調理用の素材としてバッグの中に眠らせた。

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