「ミルっちはねー、WBOで一緒に旅芸人をしてる仲間なのよー」
「どうもーミルモでーす。ミルっちって呼んでね」
姉と同様にハイテンションに、自分のリズムを持っている。
曰く、WBOの賑やかし担当。
姉以外にも賑やかしが必要なのか? と思わなくもない。
どこか憎めない立ち回りをする少女であった。
きっと等身大であれば羨望の眼差しを受けること間違いない。
いや、だからあえてこの体格でいるのかもね。
目立ちすぎるプロポーションであると言うことは、同時にトラブルも招いてしまうものだ。
お母さんもそうだった。
地味である私ですら、容姿では姉に酷似する。
なぜか私に注がれる視線というのもひしひし感じていた。
まぁ、前世から同様の視線は感じてたので慣れっこだったけどね。
あんなのは下手に構ってやればつけあがるだけなので、無視でいいよ。
それが大人の対応。
今の私は子供だけど。
「ハヤテだよ、普段お姉ちゃんがお世話になってます」
「うわっ、礼儀正しっ! これ本当にトキっちの妹なの? 別人じゃん!」
「そりゃ妹だからね。別人だよ」
「なまじ顔が似てるから迷うわー」
「そう言うだろうと思ってヘアカラーで見た目をチェンジ! 赤があたしで、青が妹って覚えればおっけー」
「流石、学年一の秀才」
「でしょでしょ?」
姉は変わらず私の努力を自分のものにしているようだ。
もう世話は焼かないからね?
と言いつつも、ついつい出してしまう私なのだけど。
そろそろ自立してもらわなければ。
「むっふっふー、ミルっち。しかもうちのハヤテちゃんは優秀なだけではなく。お料理もプロ級だから期待してていいよ?」
「マジか! うちらもついにひもじい思いをしなくて済む時が!?」
一体なんの騒ぎだろうか?
ミルモから恐ろしいほどのプレッシャーが浴びせかけられる。
食事が作れるってだけでこの歓迎されよう。
女の子のパーティなら誰か一人ぐらいお料理ができる子はいるよね?
そう思っていたのだけど、今の世代で料理できるかどうかはあまり重要ではないことが発覚。
私はその中でも特に稀有な存在であったのだ。
故に。
「お姉ちゃん!? ミルちゃんからのプレッシャーがすごいんだけど」
「大丈夫、大丈夫。ミルっちはバカ舌だからなんでも美味しく食べてくれるよ。ね?」
「誰がバカ舌じゃー! がおー」
全然怖くない威嚇。
なんなら可愛いまである。
姉はそんな威嚇にも屈しないように大袈裟なポーズをして私の後ろに回り込んだ。
とても賑やかだ。
いいね、こんな感じも。
昔を懐かしむ。
「あれ、そういえばリノっちは?」
「リノっち?」
すっかり忘れていた、と姉さん。
「うん、もう一人合流する予定の子がいるの。リノって子なんだけどね」
「あたし達の戦闘担当だよ!」
「よかった、バッファーしかいないのかと思った」
「まさか~」
「そうそう、WBOでもバッファーしかいなくて詰みかけた時に出会った子だからね」
「やっぱりバッファーしかいなくて詰みかけてるんじゃない!」
姉曰く、当時はノリと勢いで行けると思った。
その当時を振り返り「現実は甘くなかったよ」とミルモちゃんと励まし合っていた。
計画性が全くないのかな?
その情景がありありと思い浮かぶようだ。
普段からそんな感じだからね、お姉ちゃん。
「リノちゃんとはどこで待ち合わせしてるとか聞いてない?」
「ああ、それなら親戚のおばさんのお店に寄ってからってくるって話がさっきフレンドチャットに来てたよ」
その時に座標をもらったとも話していた。
「なるほど。先に私ともフレンド登録いい?」
「もちろん☆」
夏休みの間だけのパーティといえど、今後ご一緒するのならフレンド登録は必須。
何せ今の私にはリアルで動かす体がスズキさん人形しかないからだ。
あの姿であっても仕方ないしね。
フレンド登録後、件のお店に赴く。
そこには臨時閉店している、行きつけのバイト先と、店の前で佇んでいる金髪猫耳侍ガールがいた。
属性のてんこ盛りである。
バトル担当と聞いた時から剣か双剣使いであると勝手に思い込んでいた。
まさか刀とはね。
まぁなくもないけどお値段が高いのだ。
そこは親のコネかな?
うちの姉さんやミルモちゃんもコネだって言ってたし。
「リノっち!」
「あ、ミルちゃん、トキちゃん」
「どしたの、店の前に立ち尽くして」
「なんかお店閉まってて、途方に暮れてた」
「もしかして、リノさんはシズラさんのお知り合いですか?」
「えっと?」
流石に初対面でプライベートにズカズカ割って入るのは失礼だったか。
しかしそこで姉さんがスーパーセーブ。
「あたしの妹。紹介するって言ったでしょ?」
「ハヤテです。普段お姉ちゃんがお世話になってます」
「礼儀正しっ、え、本当にトキちゃんの妹?」
「あはは、あたしとおんなじこと言ってる」
ウケる、とその場で腹を押さえて苦しそうにしてるミルモ。
対して姉さんは一人落ち込んでいた。
あまり落ち込むようなタイプではないと思っていたけど、同世代に突っ込まれると激しくショックを受けてしまうらしい。
「そんなにあたしって落ち着きないかな?」
「私は普段通りのお姉ちゃんしか知らないし」
「だよね? あたしはあたしだよね?」
泣いてたカラスがもう笑った。
やっぱりお姉ちゃんはこうでなきゃ。
ここでバッチリ姉妹宣言をしつつ。
リノともフレンド登録を交わす。
「それで、さっきの話なんだけど」
「うん」
「シズラおばちゃんとハヤテちゃんは知り合いなの?」
「ちょうどバイト先がそこで」
「あー、つまり今の店の状況を一番に理解してると?」
「まぁそういうことになるかな」
「もしかして、居場所も心当たりがある?」
「フレンドですから」
任せてくれ、と胸を叩く。
そんなこんなで若い子達を連れてファストリアの街道を練り歩き。
「シズラさん!」
「あれ、ハヤテちゃん?」
「おばちゃん!」
「え、莉乃?」
勢いに任せて抱きつくリノは普段クールぶってる表情を崩して泣いていた。
突然のことに驚いたシズラさんだったが、すぐに状況を察して抱き留めていた。
「つまり、リノちゃんは」
「ええ、姉さんの子供よ」
ひよりさんの子供だった。
AWO歴が長いとは聞いていたけど。
旦那さんがいるとは聞いていたけど。
私ぐらいの子供がいるとは全然思えなかったなぁ。
なんと言っても本人の精神年齢が子供くらいにやかましい感じだったし。
もしかして種族特性だったり?
だとしたらミルモがうるさいのも非常に理解できる。
「世間って狭いですねー」
「ハヤテちゃんこそ、まさか姪っ子の同世代とは思わなかったわよ。落ち着きがあるし、もっと大人かと思ってたわ」
「あはは」
そこは笑って誤魔化した。
迷子を無事に送り届けてミッションコンプリート。
私たちは改めてAWOでパーティを結成する。
「まずはここでの目的を決めようか」
「WBOと同様に吟遊詩人ロールで街の散策は?」
「やっぱそこに落ち着くか」
ミルモと姉さんの会話はそこに落ち着く。
なぜかといえば、それくらい目的が薄ければ、いつでも再開できるし、人数が揃わなくってもどうにでもなる。
変に先に行ったり、イベントとをこなしてしまうと次にメンバーを集めにくくなってしまったりと色々問題があるからだ。
「それでは、みんなのここでの役割を決めたいと思います」
「まずは賑やかし担当のミルっち」
「どーもー賑やかし担当です。いっぱい賑やかすから覚悟してね? 楽しい旅を提供するよー」
「次に賑やかし担当のあたし!」
「にぎやかし担当多くない?」
リノちゃんが二人へ鋭いツッコミを差し込む。
私も思ってた。
一人いれば良くないかって。
ちなみに私は料理担当で、リノちゃんはバトル担当だった。
完全についていく人を間違えた形である。
だが、そんな境遇が良かったのか。
私はすぐにリノちゃんと打ち解けることになった。
シズラさんやこよりさんと打ち解けているというのが大きかったのだろうか?
はたまた騒ぎたいだけの二人の介護役への労いか。
何はともあれ新しいメンバーを含めての旅が始まった。
まずは何をするにもお金が必要で、街の外で戦闘を始めることになった。
先行き不安なメンツなのは間違いなかった。