街の外、私たちは早速雑魚モブであるボールの通常個体へ出会した。
私は慣れたものだけど、エンカウント表現はいまだに健在だ。
突如空間に亀裂が走り、ガラスが砕ける音と同時に戦闘フィールドに放り込まれる感覚は、今の女子中学生にはなかなか驚く仕掛けだったみたいだ。
「うわ、何今の!」
「バトルフィールド突入の合図かな」
「ハヤっちは随分落ち着いてるねー」
「私はお姉ちゃんよりちょっと早く来てるからね」
「なる」
前世での話である。
今世では初エンカウント。
ボールはサッカーボールくらいのサイズで、蹴っ飛ばすのにもってこいな姿形をしている。
早速記念にパシャリとスクリーンショット。
「ハヤっち、何してるのー?」
「モブのステータス看破」
「スクショで!?」
「そういう情報をお母さんに教えてもらったの」
「あ、そういえば、この前お母さんおんなじことしてたかも」
「それで何がわかるの?」
私を制作した時にも、似たような体験をしたことがある、と姉。
金髪猫耳サムライガールはステータス看破によって得られる情報に意味はあるか聞きたげだった。
「耐久の減り具合とか、相性悪い属性、相性のいい属性とか」
「斬撃には?」
「耐性ないよ、オッケー」
リノちゃんがござる口調じゃないからいまいち個性が掴めない。
サムライ=ござるなのは前世のキャラの受け売りだ。
思えばまぁまぁ個性の強い連中しか私の周りにいなかったものな。
「序盤は選んだスキルしか持ってないから、選択肢はどうしても限られちゃうからね」
「ちなみにこの中で戦闘スキルを持ってる人は?」
スゥーー
全員が過呼吸状態になる中、どうせそんなことだろうと思ったよ、とリノちゃんが白い目を向けてくる。
「頼みますよ、バトル大臣!」
「急にそんな高度な役職与えないで!」
担当から大臣への強制昇格!
つまりはまぁ、私たちは応援するからバトルは一人で頑張って! ということだ。
とんだ賑やかし共である。
「とはいえ、戦闘スキルがなくてもバトルには貢献できるんだよ」
「そうなの!? 詳しく教えてハヤっち」
「うん。大体三秒くらいこうやって対象を足で踏みつけると動きを止めるから、その間に他の人が踏んづけて動きを止める。これを繰り返すとチェインと呼ばれる動作にはいり、戦闘リザルトで報酬に色がつく。アイテムなんかのドロップ率もチェインに深く関わるみたいだね。ちなみに一人じゃチェインは組めない」
「そこであたしたちがリノっちのリキャスト時間を稼ぐわけだ?」
「リノちゃん、リキャストタイムあるの?」
「居合系は貯めれば貯めるほど威力を上昇させるスキル系統だよ。スキルそのものには威力はのらないけど、他のスキルが10ダメージ与えれるなら、居合でその効果を2倍~10倍まで上げられるみたいな?」
「すごいじゃん」
「誘ってくれた子がどいつもこいつも戦闘には参加しない賑やかしだからね。私としては苦肉の策」
「ごめんて」
私の質問に答えてくれたリノちゃんは、実行犯二人に冷ややかな瞳を送っている。
スキルが育つまで、実質お荷物だからね。
だからこそ、チェインで役立たずにならずに済んだとホッと一息。
「なるほど、必殺の一撃って感じなんだ」
「でも、チェインがあるならあたしたちはお荷物にならない?」
「そうだったらいいなって提案だけど、みんなはどうする?」
「もちろん、やる!」
とのことだ。みんな元気いっぱいでいいね。
で、結果は。
「うわ、脆い!」
「斬撃特攻ではないとはいえ、耐久は10しかないから」
「ちなみに、リノっちの攻撃は一度に5の耐久を削ってたよ」
スクショ係に準じていたミルちゃん。
チェインを組む前にバトルが終わってしまうので、自分から買って出た形だ。
常に飛行できるシルキーだからこその役得ってわけだね。
「うーん、このどうしようもない、やり場のない怒りをどこにぶつけたものか」
なお、本当に2回攻撃するだけで戦闘が終わるので、アイテムドロップも何もない。
当時の苦戦が嘘みたいに、拍子抜けだ。
特にリノちゃんみたいな連撃タイプとはすこぶる相性が悪いみたいで、まさに秒殺!
むしろ戦闘フィールドにいちいち入るのが煩わしくなるほどだった。
「ハヤちゃん、本当にこいつアイテムなんてドロップするの?」
「命のかけらってアイテムを落とすらしいんだけど、こういうの」
私は現物を見せつける。
「ちなみに、今マーケットに売り出せば、価格高騰によりアベレージ800で買い取ってもらえるよ。NPCショップへの販売はアベレージ30だね」
「めちゃくちゃ高いじゃん!」
「うん、まぁ本当にボールから落ちるかの信憑性は薄いけど、需要だけはあるから」
次に使い道を教える。
錬金術では畑に扱う肥料、栄養剤、料理用加工肉の製作、調味料の主原料などなど。
今の私には切っても切れないくらいの魅力がある。
その皺寄せで駆け出しには到底手が出せない値段で厳しい。
なので、もしここで量産できるならしたい。
余ればマーケットで売ればいいし、どうか? と提案。
みんなはやる気満々だ。
そして作戦会議。
「まず最初に私が攻撃する」
「うん、そこからあたしたち3人でチェインを繋いで、最後にリノっちがトドメで良い?」
「それが一番妥当だね。まさか違う意味でバトルで苦労するとは思わなかった」
「激しく同意ー」
「まぁ、これもゲームの醍醐味だから」
しかし、アイテム抽選は本当に運が絡む。
そこから2時間近くかけて、命のかけらがドロップしたのは実に数個。
価格高騰するわけである。
まさに皮算用をしたものだけが痛い目を見る仕掛けだなと思った。
その中でドロップ確定ラインも判明する。
30チェイン。
最効率化したって数分はかかる。
だが、タネさえ割れたらあとはガッポガッポだ。
「あともう少し頑張ろ! ランチはご馳走するから」
「よっし、餓死で教会のお世話になるエンドは免れた! みんな、あともう少し頑張ろ!」
「お姉ちゃんクタクタだよ、ハヤテー」
「居合はENの消費が激しいのでお昼にありつけるのはとてもありがたい」
リノちゃんの申告で居合のデメリットが早くも露見する。
全てのバトルを彼女に任せている都合上、私のような食事係は貴重であることを理解。
ちなみにこの数時間で稼げた命のかけらは数個。
売れてもアベレージ4000。
人数で割れば一人1000。
最低賃金など知ったことかと言わんばかりの労働体制。
まぁランチはさらに安いので、所詮はゲームである。
その結果、ENの消費をギリギリまで抑えてファストリアに戻った私たちは、シズラさんの屋台のテーブル席を借りてランチタイムとした。
「お口に合えば良いんだけど」
提供したのは甘辛く煮付けた鳥の唐揚げをフレッシュなレタスやトマト、タルタルソースなどを合わせたホットサンドだ。もちろんドリンクも各種用意してある。
「嘘、このレベルのランチが毎日!?」
「神!」
「こちら、命のかけら換算で3個となります」
「あれが三個か」
「いや、これは三個でも安いよ。味はまさに私たち好み! ドリンクに至ってはENの他にSPも回復してる!」
「バトルする人にはうってつけってわけだ?」
「ハヤちゃん、結婚しよ」
「え?」
「ちょっと、リノっちー」
突然の告白。
やたら突っかかってくるミルモ。
笑いのツボに入った姉。
そして私は。
「ご飯ぐらいで大袈裟だよ」
「いや、ここまで私の好みにピタリと合わせられる相手は今までいなかった。なので結婚を前提としたお付き合いを」
「女の子同士で?」
「真実の愛に性別は関係ない」
「あははー、おもろ」
「リノっち!」
と、こんな調子でランチひとつで簡単に女の子が釣れた。
料理スキル、侮りがたし。
なお、お返事の方は先延ばしにした。
何かの気の迷いであってくれ!
今日の今日出会ったばかりで告白は、流石に人生生き急いでるってレベルじゃないでしょ。