6.
(考えたからって当たるものなのか……)
ハウス・スチュワードは考えたとは言ったが、それはあまり論理的に組み上げられた思考とは言えない――およそ、勘といって差し支えのないものだった。
とはいえ、『どうしてわかったのか?』という問いかけに『勘よ』と答えられていても、鳩原は納得していた。
勘というものは
経験や見聞きした
……少しだけ時間を巻き戻す。
鳩原がいつの間にこの別館の校舎内にやってきたのか。そして、どうやって別館の校舎内に侵入できたのか。それは鳩原が学生寮の窓から空を飛んでいるハウスを目撃したところまで戻る。
鳩原はすぐに行動した。
学生寮の階段を駆け下りて外に出て、すぐのところにある別館の出入り口に駆け寄った。扉の傍らには防犯魔法『アミュレット』がある。ネックレスのような形をしていて、
この『アミュレット』は『ある条件下』でも発動するようになっている。
ひとつは『この防犯魔法そのものに攻撃が加えられたとき』で、もうひとつは『この防犯対象としている出入り口が強引に破られたとき』に――である。
それにそっと手を伸ばした。
直接、『アミュレット』本体を触れてしまうと魔法が発動するかもしれないので、そっと手を
「……――」
鳩原がしたのは魔法の
基礎魔法の多くが魔法という現象を『引き起こすもの』だが、その中にはあらかじめ『組み上げられている術式に魔力を送り込むことで現象を引き起こすもの』と『魔力と術式が用意されていて条件が揃ったときに現象を引き起こすもの』がある。
これらの術式がどのように組み上げられているのかを読み解くのが『魔法の解読』で、中等教育の段階で学ぶことになる。
その魔法を組み上げる際に、編み込まれた魔力や魔法の跡を感覚で追いかけていく。それは絡まった糸を解くような作業である。
ただ、魔法の解読は解読する以上のことができない。
それとは別に魔法を解体する技術が求められるようになる。だが、それは魔法を使わずに行っている解読作業とは違って、魔法を使って解体することになる。
それをすると、この『アミュレット』に備わっている魔法が作動してしまう。『魔法を解体する』という行為を『攻撃である』と
とはいえ――だ。
鳩原には魔法の術式を解体するような魔法を使えない。
彼がやるのは解体ではない。
鳩原は魔法を使えないが、魔力がないというわけではない。彼の
その出力が弱い。
彼にできるのは、ちょっとした
『組み上げられた魔法』というのは絡まり合った糸みたいなものである。それをひとつずつ追いかけていくと、それを魔法として成立させている『結び目』みたいなものがある。
それを見つけたら、手に触れて――その一点のみを狙って魔力を放つ。
ばちんっ! という手応えのようなものがあった。
魔力が放出され、術式に危害が加わったことで防犯魔法は発動しようとする。魔力を
どれだけ簡単な魔法でも、どれだけ複雑な魔法でも――組み上げられている以上は、それを作動させるに必要不可欠な箇所がある。そこを一点集中の魔力放出で
別にこれは優れた手口でもなければ、魔法が使えるならばこんな手間のかかる小細工をする必要はない。なんて呼び名もない――だから、鳩原はこれを『
彼のやっているのは真っ黒に色を塗った紙を虫眼鏡と太陽で
(よし……)
これで防犯魔法は作用しない。
鳩原は外に出てくるときに持ってきた小さなバッグの中からドライバーのようなものを取り出した。よく見ると持ち手の部分はドライバーのままだが、その先の金属が違うものになっている。これは鳩原と友達が一緒になって作ったピッキングツールである。
扉の鍵穴に
かちゃかちゃ……と音が続いて、がちゃん――と鍵が開いた。
鳩原は別館の内部に
「はあっ、はあっ――」
と、鳩原は廊下を走って、もう片方の出入り口にやってきた。
そのまま手を――扉の取っ手に伸ばす。
防犯魔法『アミュレット』は『正規の手順を踏まずに開錠される』と発動するようになっているから、
扉を少しだけ開けて、傍らにぶら下がっている防犯魔法『アミュレット』に手を伸ばす。触れるか触れないかの距離で手を翳して、さっきと同じ手順で魔法を解読し、『結び目』の場所に検討をつける。
同じように触れて、その一点を狙って回路を焼く。
ばちん! と、同じような手応えがあった。
こうして、鳩原は二ヶ所の防犯魔法『アミュレット』を破壊したのだった。