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第41話 翌日

 翌日、エーデルワイスたちの姿はグノーシス本部の会議室にあった。


「……今日は何を?」


 雫の問いに、エーデルワイスは頷く。


「ここには訓練施設というものは存在しないのよね」

「まあ、実機を使ったものはないですけれどね。ただしパイロットの判断能力を養う、という意味では仮想現実を使ったシミュレーションによる訓練があります」

「それを受けさせてもらえないかしら?」

「訓練を?」

「そう。一緒に同じ訓練を受けて交流をするというのもまた良いことでしょう?」


 エーデルワイスの提案に瑞希は手を挙げる。


「はいはーい、それじゃあわたしもやりたいです」


 聡は何も言わぬまま、ただ状況を見ているだけだったが、


「何ぼうっとしているのよ。あんたも参加するの」


 瑞希に首根っこを掴まれる聡。


「ええ……? 訓練するのは別に構わないけれど、今じゃなくたって……」

「今こそやるべきでしょう! 平和な時こそ訓練するチャンスなんだから」


 瑞希はそう言うと、聡は観念したように——ゆっくりと頷いた。


「そういうことでしたら、どうぞ遠慮なく。施設のご案内もまだでしたね」


 雫はそう言うと、松山に声をかける。

 松山は直ぐに一礼すると、エーデルワイスの方に近寄った。


「簡単ではございますが、これよりご案内させていただきます。宜しいですか?」

「ええ、ありがとう」


 松山に連れられて、エーデルワイスたちは部屋を後にする。


「それじゃあ、わたしたちも向かいましょうか」


 瑞希の言葉に、聡は俯いた表情を浮かべた。


「アレ……冗談じゃなかったの? 本気でやるつもり?」

「そりゃあそうでしょう!」


 即答だった。


「アメリカのパイロットがどういう戦い方をしているのか、色々と見てみたいじゃない。それと研究もしておきたいしね。別にオーディール同士が戦うことはないだろうし、そんな未来は想像したとしても実現して欲しくはないのだけれど、しかし今後も襲撃者が来るんだとしたら……、少しでもバリエーションは増やしておきたいし」

「何の?」

「何の、って……。そりゃあ戦法のバリエーションに決まっているじゃない」

「いや、増やすというけれど、これから襲撃者がやってくるかどうかさえも分からないし……」

「アルファも最近は情報を提供してくれなくってね」


 会話に割り込んできたのは雫だ。


「そうなんですか? てっきり今でも協力関係を築いているものとばかり」

「うーん、築いてはいるのだろうけれど、何でもかんでもこっちに聞いても困る、とは言っていたらしいね。対策を講じることが出来るのは、如何なのだろうかと」

「とはいえ、相手は相手だからなあ……。この世界を滅ぼしたいのか占領したいのかさえも分からないんでしょう?」


 聡の質問に雫は頷く。


「そりゃあ腕しか生えてきていないのだしね。口でもあれば意思疎通ぐらい出来たのかもしれないけれど。……そういや襲撃者の欠片を解析しているとか言っていたけれど、如何なったのやら。あとで結果を聞いてみないとね……」

「呼んだ?」


 扉を開けて入ってきたのは梓だった。

 まるで自分が話題に上がるのを分かっていたかのような、そんな素振りを見せていた。


「……あんた、何か盗聴器でも仕込んでいるの? そうでないと反応出来ないスピードでしょう。それは」

「如何かしらね、それは。言うのも憚られることになってしまうのだけれど」

「要はそれぐらいヤバイことをしていると?」

「そんなわけはないでしょう。あくまでも法律には触れないことしかしていませんから。というか法律に触れることをしていたら、それはそれで大問題でしょう」

「……それもそうかもしれないけれど、さあ」

「襲撃者の欠片の解析結果、聞きたくないの?」


 梓が唐突に直球でぶち込んできたので、思わず雫は目を丸くする。吹き出しそうになってしまったぐらいだ。

 しかしながら、とにかく今は結果が知りたい。

 この世界に襲撃してきた謎の存在——襲撃者。

 その存在はいったいどんな存在であると言うのか、その全貌が解き明かされようとしているのだから——。


「そりゃあ、聞きたいですよ。教えてくれるの?」

「勿論。そうでなければグノーシスを使ってまで研究をしている意味がないでしょう。……襲撃者の欠片、その解析結果だけれど……正直面倒な結果が出たの。ちょうどアメリカのパイロットは居なくなっているし、耳貸して」

「何?」


 雫は梓に耳を近づける。

 彼女が耳打ちすると、雫は思わず絶句してしまった。


「……何ですって?」

「あくまでもわたしの推測だけれど、もしかして襲撃者というのは——」

「ちょっと待った。それはあまりにも解釈に思想が混ざり込みすぎ。こういうのは情報を一つ一つ精査していかないと。そうでしょう? 研究者たるあなたなら、それぐらい分かってくれそうなものだけれど」


 梓は雫の真意を理解して、


「……それもそうね。とにかく、あとでレポートは出すわ」

「ええ、それぐらいにしてちょうだい」

「?」

「ねえ、何が起きたのかさっぱり分からないのだけれど?」


 パイロットの二人は話題に一切ついてこれず、ただただ首を傾げることしかできないのであった。


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