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第43話 オーディール対オーディール

「……成程」


 聡は少女からの説明を聞いて、納得していた。

 オーディールもといあのような巨大ロボットは、少なくとも現代の科学技術では実現することが不可能な技術が使われている。

 即ち、それを仮想空間で再現しようとしても、どのように再現すれば良いのか——それは科学者たちには分かりようのないことだったのだ。

 しかし、そこにそもそもその技術をもたらした存在が関わっているのなら、これ程までに早く実装出来るのも納得であった。


「……ってことは、敵も再現出来ているのか?」

「それはどうなのやら」


 少女は首を横に振った。

 流石に開発には携わっていないだろうから、そこまでの情報は仕入れられないらしい。


「……ともかく、戦わないと」


 聡はそう思って、砂場を見る。

 何回か襲撃者との戦闘を経験し、ようやく彼もこの場所のことを理解し始めた。

 とはいえ、この空間が実際に何故公園として定義されているのかは——未だ曖昧なところがあるのだが。

 公園の中心には、聡の乗るオーディールがある。

 そして、それと対面して置かれているのもまた——オーディールだった。

 やがて、何かに気づいた聡はポツリと呟いた。


「これは……オーディール同士の戦い、ってことか?」



 ◇◇◇



 シミュレートマシンで実施される戦闘の内容は、リアルタイムでモニタリングすることが出来る。


「凄いわね、いくらコンピュータ上とはいえ、こうまでオーディールを忠実に再現出来るだなんて……」

「研究チームはとても苦労したらしいわよ?」


 雫の問いに、梓は答える。


「何でも、オーディールはパイロットが思い描く通りの行動を実行することが出来る。そのためなら、この世界における物理法則を捻じ曲げることさえ容易である——ってね。アドバイスを受けた時はなんて代物だ、とか話していたらしいし。仮想空間でしか実現出来ないような、そんなロボットが現実に存在していることが有り得ない、って」

「成程ねえ……」


 雫はふとイキマ島で出会った謎の存在——コンタクターのことを思い出していた。

 彼女もまた、この世界では永遠に生み出せるはずのない技術を提供し、国産のロボット兵器スタンダロンの開発に寄与していた。

 人間の進化に興味があるのではなく、ただ監視しているだけ——そんなニュアンスの発言もしていたような気がしたが。


「オーディールをもし解析出来る機会が訪れて、量産なんて出来てしまったならば……この世界は直ぐに第三次世界大戦に突入するでしょうね。今でさえも、いつ突入してもおかしくない状況だっていうのに」


 梓は深い溜息を吐いたのち、そう言った。


「如何してそうなると確信が持てるの?」

「今、この世界情勢が不安定だからよ。世界では今でもどこかで紛争が起きている。そこに大国が介入して何とか紛争を終わらせようとしている。ここまで聞けば慈善事業に見えるかもしれないけれど、そんなわけはない。周りに良い顔したいだけにそんな行動をする国家はあるはずもないからね。普通は、自国側に何かしらのメリットがあると確信しているから、手を出すのが自然だから。そういう思惑も相まって、なかなか紛争は終わらないこともある。紛争が続くと、その影響は徐々に世界全体に広がっていき——鬱屈とした雰囲気となる。それを乗り越えようとする国が出てくる中で、その手段を武力行使と位置付けてしまったなら……如何なると思う?」

「新たな戦争が……始まる?」

「第一次世界大戦も第二次世界大戦も、大国が世界を牛耳ろうとしたから、自国だけではままならなくなったから戦争を仕掛けたと言う分析がなされることもある。まあ、戦争を仕掛けた方が悪いのは事実だし、歴史は勝者が作り上げるもの。いつだって、勝者の都合の良いように歴史は書き換えられるのが常だけれど」

「……難しいものね」

「特にこの国は、前回の戦争で兵器を持つことに対して異常な程に嫌う勢力が出てきているからね。何かあったときに、他の国を頼ると? 他の国がきちんと守り切れるか如何かの保証もない。何なら、その国がきちんとした助けを施す前に、この国は名前としては滅んでしまうかもしれない。そんな危険を孕んでいる可能性だってあると言うのにね」


 難しい問題だ、と雫は思った。

 戦争が起きるかもしれないから兵力を増強するべきだ、という考えは間違っていないとしても、この国は戦争を起こさないようにと働く勢力も出てくる。それに、若者においてはそれが薄れつつあるが、まだまだ上の存在にとっては戦争という概念に拒絶反応を示すことも珍しくないはずだ。

 そうなると簡単には兵力増強なんて出来るはずもないし、仮にそうするとしても政府が半ば強引に進める他ないだろう。


「……オーディールを狙う国が出てきても、何らおかしくはないでしょうね」

「すでに海を超えた大陸の国は、スパイを忍ばせているという噂だ。……何処まで本当なのかは、分からないけれどね」


 あっけらかんと梓は言った。

 割と重要な情報を言ったはずなのに、シリアスな態度を見せないのもまた彼女らしいと言えるだろう。

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