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二十八話「再会、そして絶望」



「ご主人さま!!」



 全てが終わった。

 中央広場だった場所は石の道から砂浜に変わり。

 ここで圧倒的な迫力を持っていた魔物は一瞬にして消えていった。


「無事だったか?サヤカ」

「はい!少し疲れましたけど、大丈夫です」


 だが、俺は知っている。

 ここで戦ったのは、ほんの数匹だと言うことに。

 まだ前線で、命をかけた戦いをしている先人を知っている。

 あの二人は無事なのだろうか。


「おいどんくさ野郎」

「モールス?どうしてサヤカと一緒に」


 いや、モールスだけじゃないな。

 サーラもいるし、モーリーさんもいる。なんならヨアンもいるじゃないか。

 なんだこの大集合は。

 なんだかこの絵、新鮮だな。

 すると、モールスが考えるように。


「お前、なんかかっこよくなったか?」


 ん?何を言ってるんだ。

 こんな事を言うやつだっけ……?


「……そう言えば、トニーは?」

「トニーは怪我をしたので、仮拠点で少し休ませてます」


 代表でサヤカがそう答える。

 やはりみんなは戦っていたのか。

 ヨアンやモーリーさんがいることは予想してなかったけど。

 あ、あの男は誰だ?


「よぉ、ケニーの旦那」

「……お前だれ?」

「あ?俺だよ。ロンドン」


 え、

 うっそつけ。

 こんな筋骨隆々でイケメンな男なわけ……。


「………」


 あれ、でもなんか雰囲気はロンドンだ。

 喋り方もそうだし、モーリーに似た鼻筋も……。

 うそやん。

 お前人見知りだっただろ。

 ……まぁなんか理由があるんだろう。

 とにかく。


「とにかく、お前らが無事なら良かった」


 こんな緊急事態で全員無事というのは奇跡だ。

 正直心のなかで喜んでいる。

 もしかしたら誰が重症だとか考えたりもしてしまったが。トニー以外は特に大丈夫そうだ。

 トニーは多分大丈夫だろ。

 サヤカが休ませていると言った。

 つまり、治療は終わっているのだ。


「……?」


 サヤカが疑問を抱いたように顔をかしげた。


「どうしてご主人さまは、そんなに浮かない顔を?」


 そうか?そんな浮かない顔をしてたのかな。

 まぁそうだろ。

 だって。


「まだ前線で戦っている奴らがいる。

 俺もサヤカも知っている奴らだから……少し、心配なんだ」

「……そうなんですね。それは心配です」


 サヤカもそう小さく告げる。

 ヘルクとサリー、大丈夫なのだろうか。

 あの二人、なんだかんだ言って生きてそうな気がするが。

 人が死ぬのは突然だ。

 だから、正直怖い。

 このまま魔物の侵略が終わってくれれば……。



――――。



 戦い終わった中央広場。

 そこで全員の無事を確認し、色々話していた時だった。

 前線と連絡が取れないと言う理由でカールが馬を走らせた。

 カールが馬を走らせて数分後。

 その報告が届いた。


「第三防衛ラインはもう持たないらしい」


 そう告げてきたのはゾニーだった。

 なんだか落ち着きがなかった。

 それはそうだ。

 魔物の勢いは止むこと無く、街への侵略を目的に進み続けている。

 一匹でも苦戦したのに、それが百、千といれば……。


「今、この場にいる戦えるものを集っている。

 第四防衛ラインが突破されれば、この街は終わりだ」

「……俺は行くぞ」


 そう即答した。

 すると、すぐさまサヤカが口を開いた。


「ならボクも」

「お前はダメだ」

「どうしてですか?」

「お前は子供だからだ」

「ボクは子供でも、魔法使いです」


 あ、これ面倒くさいやつだ。

 サヤカが我儘を言うなんて珍しいな。

 でも、ダメなものはダメだ。

 「魔法使いでも実戦経験が……」「それはご主人さまも同じでは?」

 と言う、不毛な口論を数分続けた。

 そして唐突に、サヤカは言った。


「じゃあ。どうしてご主人さまは戦場に行きたいのですか?」


 ……確かに、どうしてだろう。

 普通にヘルクやサリーに死んでほしくないってのもあるし。

 カール兄さんやゾニーが戦うなら、兄妹として参戦したいと言う思いもある。

 だけど、一番は。

 俺が大好きな街を、他人に守らせてばかりなのは嫌だ。

 どうせ俺は……長生きは出来ない。

 数ヶ月も経てば死ぬ。


「俺が、俺である為に。戦場に行くんだ」


 俺が身勝手な事を言っているのは知っている。

 サヤカやトニー、他の知り合いの気持ちを無視しているのも知っている。

 だが、男には戦わなければ行けない時があるのだ。

 俺が死んだ後、サヤカの居場所が無かったら。

 俺は俺をゆるせない。

 まぁ、要するに。


 俺はサヤカの生きる世界を、守りたいんだ。


 大丈夫。負けはしない。

 ヘルクやサリー、カールやゾニー。

 他の騎士だっている。

 戦力はある。

 俺も魔法を使える。

 戦える。

 戦えるんだ。

 足手まといにはならない。


「――俺も行くぜ」


 すると、サヤカの背後からそんな声が聞こえた。


「トニー?」

「トニー!?」


 サヤカが驚きの声を上げ、ヨアンがトニーに駆け寄った。

 やはり父親として心配だったのだろう。

 包帯姿でヨアンに抱きしめられるトニー。

 こいつら、こんなに仲が良かっただろうか。


「もう大丈夫だ、しっかり休んだ」


 とはトニーの言だ。

 トニーの片腕には包帯が巻かれていた。

 痛々しい感じではあったが、なんだか白い包帯のせいでトニーが戦場で戦い終わった兵士みたいだ。

 普通に似合ってるのはらたつ。

 男の傷は勲章とか言うが、納得しちまうぜ。

 元々のルックスの良さが響いてやがる。


「怪我してたんだから、ダメだ」


 とは、ヨアンの言葉だ。

 そう言うと、ヨアンは口を強く噛みながら。


「お前に何かあったら、私は……」


 どこか苦しそうに、そう胸を抑えた。

 ん、ヨアンってこんなキャラだっけ。

 そんな事を言うようなキャラだったとは、知らなかったな。


「父さん、大丈夫。後ろで『ヒール』だけを唱えてるよ」

「……本当に大丈夫なのか?」

「子供を信じてくれよ、父さん」

「…………」

「父さん……」

「前線には行くなよ。後衛でヒーラーとしてなら」

「やった!」


 と、トニーはガッツポーズ。

 ヨアン……お前甘いな。

 いや、もしかしたら何か裏があるのかもしれない。


 ヨアン・レイモン。

 元騎士であり、騎士をやめてから鉄を加工する工場を起業し、成功した人物だ。

 だが、騎士と言っても、26歳の時の話らしい。

 でも騎士だったからか、どこか胸に熱い物を持っている。

 甘いだけじゃない。

 もしかしたら、俺の助言を実行しようとしているのかもしれないな。


「………」


 なんだか、気まずいな。

 ヨアンは俺の言葉を信じ子供を送り出そうとしているのに。

 それを言った俺が……。

 もう一度考えよう。

 サヤカとトニーが、100パーセント安全だと言えるのだろうか。

 言えないけど。

 二人なら、信用してもいいのかもしれない。


「わかったよサヤカ。行こう」

「はい!!」


 この先何が起こるかわからない。

 予想外の事態が起きるかもしれないし、意外とあっさり終わるのかもしれない。

 でも、覚悟はしておいたほうがいいな。



――――。




 広い草原に、崩れかかった灯台があった。

 そのふもと、一番高い丘の上には。

 何個も鉄板が並べられ、壁が作られていた。

 その鉄板の足場には魔法使いが立ち、壁の向こうには騎士が馬や地竜に乗りながら剣を抜く。



 ――第四防衛ライン。

 騎士、総勢250人。魔法使い、45人。

 街の魔法使い。及び俺たち。


 カール・ジャック。

 ゾニー・ジャック。

 ケニー・ジャック。

 サヤカ。

 トニー・レイモン。


 そのメンツが、いつでも魔物が攻めてきても大丈夫な様に構える。

 カールとゾニーは馬に乗り。

 魔法使いは詠唱を済ませ。

 サヤカは広範囲の魔法を使おうと集中をする。

 俺も魔法使いに混ざって、詠唱を始めた。


 ヨアンは避難所にしている自分の工場へ戻り。

 モーリーやロンドンも同じく工場へ向かった。

 まだ街が安全とは言えないため、避難誘導を頼んである。

 モールスとサーラは、モールスの仕事の関係上、馬車を管理しており。

 その馬車を使い、街の人間を徐々に逃しているらしい。


 全員が、各地で戦っている。

 汗を流し、血を流し、誰かを思う気持ちを忘れず戦っている。

 ここの騎士も、ここにいる魔法使いも。

 全員が、誰かを守りたいから立っている。


 戦い。戦場。ここを突破されてしまったら。

 ここまでの努力が、全部無駄になる。


「――来た」


 小さく、カール・ジャックがそう呟く。

 すると、数メートル先に。小さな黒い粒が走ってきているのが見えた。

 そして。察した。

 その走ってきている後ろに、魔物の軍勢がいること。

 その走ってきている人間は、サリー・ドードだと。


「……なんで一人なんだ」


 一人だった。

 サリーだけだった。

 サリーが馬を走らせて、魔物より早く走っていた。

 その後ろについてくる騎士は居ない。

 誰も居ない。

 誰も、居ないのだ。

 あの陽気なヘルクと言う男も。

 他の数十人の部隊も。


「サリー!!!」

「来るぞオ!!!」


 ドドドと地鳴りが鳴り響く。

 その音だけで全身が凍るように動かなくなった。

 その威圧感を目にした瞬間。

 同時に魔法使い達が詠唱を行い。

 騎士は前線へ馬を走らせ。

 刻一刻と、騎士の馬と、満身創痍のサリーが近づいて。


 カールの馬がサリーの馬と入れ違いになった時。


「――開戦だ」


 誰かが小さくそう言うと共に。

 轟音が鳴り響き、騎士が剣を振る音と共に叫び声が響き渡った。

 数メートル先で黒い血しぶきが舞った。

 そして、曇の空の下で。







 戦いの火蓋が切られたのだった。







 余命まで【残り286日】


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