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三十五話「必殺を必殺としない」



 あの日から大体二週間くらいたった。


 あの後、各自復帰をしたり帰ったりで色々あり。

 騎士ゾニー・ジャック改め。

 王都・近衛騎士団、第十五部隊:隊長 ゾニー・ジャック。となった。


 エマ姉さんはベイカー家の本家がある。

 南部に位置するイエーツ国。正式名称イエーツ大帝国へ帰った。

 元々、第十五部隊はヘルクの部隊だったが。ヘルクと一緒にその戦友は戦いの地に散ったらしい。

 ……ヘルクの墓を、今度聞こうと思う。

 ついでに。新設であるので、新・十五部隊と呼称しようと思う。


「と言っても。当分はこの街にいるんだけどね」

「まてゾニー。流れ的に王都に帰るとかじゃないのか?」


 と、街から家への帰り道で。

 久しぶりに会ったゾニーから聞いた話だった。


「王様の命令でね。ある程度情を掛けてくれてるみたい。

 あの方は優しいからね。今日からの任務は、再度危険が訪れる可能性があるこの街の警備だ」

「大体どのくらいこの街に居るんだ?」

「うーん。わかんない。完全に脅威が去ってからかな」


 脅威。あぁ、そうか。

 あの死神の目的は街の破壊。

 結局その目的は果たされなかったけど、だからもう一度来る可能性があるのか。

 その時はその時だな。


「カール兄さんは、父さんが息を引き取ったあの家に住むんだって」


 あの家。

 ジャック邸だ。

 街の中にある。俺が引きこもっていたあの家。

 最近は当主不在ではあったが、使用人は家に残っていた様だ。

 そこにカール兄さんが住むと言う事は。


「カール兄さんが、ジャック家当主か」

「そうなるね。意外と歓迎されてたから、不安はないと思うよ」

「別に不安なわけじゃない」

「言いたいことはわかるよ。今の兄さんの精神状態は少し心配だ」

「…………」

「だから。僕達でカバーしようよ」

「あぁ、そうだな」


 カール兄さんは、今の所安定している。

 だけど、長年の重圧による疲れが今表に出ている状態だ。

 心配。だ。

 ちゃんと笑ってくれれば良いんだけど。


「そう言えば、ケイティは今日でこの街を出るらしいじゃん」

「そうだぞ。その為のごちそうを今買ってきたんだ」

「いいね」

「だから、今日で最後なんだよ」

「そうだね~」

「第六回!!ケイティ先生の魔法訓練!!」

「……なにそれ」

「ケイティの持ちネタ」

「メスゴリラだけだと思ってたよ」

「ビンタされるぞ」



――――。



「って事で!!」


 と、両手を組んでケイティは叫ぶ。

 ここは草原だ。

 家からも街からも随分離れた、人気がない場所だ。


「第六回!!ケイティ先生のー!!」

「「魔法訓練ー!!!」」

「………」


 サヤカと俺で、ノリノリと片腕を大きくあげる。

 それを俺の横で見ながら、目を丸くしているゾニー。


「おい。どうしたゾニー、お前も叫べ」

「いや、現状に追いつけなくて」

「大丈夫だ。俺も最初は『ん!?!?!?!?』しか言えなかったから」

「第六回目にして完全に染まってる兄さんが僕は怖いよ」


 そう。第六回。

 サヤカのワガママ、と言うか、ケイティがやりたいと言う事で。

 2日に一回はこの訓練をしていたのだ。

 その結果かわからないが。

 俺はあの掛け声を返すだけで友達が出来て肌がツルツルになり。

 どこか誇らしい気持ちになる。

 なんでか知らないがな。


「兄さん。最近肌荒れひどくない?」

「うるさいぞゾニー」

「えぇ。なんかごめん」


 さて、今日が最後の魔法訓練と言うわけで。


「今まで学習した全部を、ここで見せてもらうよ!!」

「はい!!」


 と、意気揚々とサヤカは返事をする。

 実は俺も、ここ何回かこの魔法訓練を見れていなかったから。

 現在のサヤカの実力を知らなかったりする。

 神級魔法使いが教えたサヤカの実力。

 気になるな。


「………」


 と言うか、この二週間くらいで大きく変わるものなのだろうか。

 魔法の威力とか、魔力の使い方とかを学んでいたのだろうか。

 どんな結果になるか、楽しみではあるな。


「始め!」


 その合図で、サヤカは杖を構えた。


「――世界のマナよ、無垢な聖水を生み出し、絶対零度の力を与え給え」


 ふわっと。サヤカの服が揺れる。

 音を立てて、青い光を発しながら。

 サヤカの杖の先に、大きい水の雫が宙に生み出される。

 ぽくぽくと音を立てながら、それは白い湯気の様な物を漂わせながら浮遊していた。

 早速俺の知らない魔法だ。

 すると、すかさず。


「――世界のマナよ、業火な炎を立て、赫怒の発色を零度に注ぎ給え。

 ――その際生まれるエネルギーを大気に流し、空を、紅い物に変え給え!!」


 ぐるると、赤いドロドロとした物が。先程生成した浮遊体の上の発生する。

 そして、最後まで詠唱を言い終わると共に。


「――【上級連鎖魔法】エクスプロージョン」


 ――刹那、巨大な重低音と共にそれらは融合し。

 巨大なエネルギーの塊は、漏れ出しそうなその勢いに張り千切れそうな音を出す。

 例えるなら、水が入った風船が割れそうな感覚だ。


「すごいっ!」

「あの子にこんな魔法が使えるとは!?」


 ケイティも大興奮。

 ゾニーはその勢いに今はない剣に手を伸ばそうとしたくらいだ。


「はああ!!」


 すると、サヤカはその魔法を天空に打ち上げた。

 音もなく、残像も無く空へ打ち上げられたそれは。

 ――無音のまま、空を赤黒く染める程の大爆発を見せた。

 無音で起こったその有様に、思わず耳がおかしくなったのでは無いかと勘違いをした。


「……すっげ」

「ふぅ……」


 だけどどうやらそうではなく。

 その魔法が、無音だっただけだった。

 それほど高く打ち上げられたのか、それとも元々そうゆう魔法なのかは知らないけど。


「高火力で魔力効率もいい。神級とまでは行かないけど、神級の一個手前の超魔法だよ」

「すげぇなサヤカ!必殺技ってところか?」


 と、俺はサヤカに近づく。

 だが。サヤカは無言のまま頭を横に振った。


「ケイティさん。評価は?」

「上出来だね。土地も吹っ飛ばせる&当たらなくても戦況は変えることは可能」

「なるほど……」

「でも、戦うならもう一つくらいほしいかな」

「わかっています。まだありますよ」


 と、サヤカはもう一度杖を構えた。


「ご主人さま。離れていてください」

「あ、うん」

「すぅー」


 ゆっくりと息を吸い。サヤカは息を吐いた。


「必殺を必殺としない」

「え?」

「それが私の師匠の教え」


 とは、横に立ってきたケイティの言葉だ。


「必殺を打って。はいお終いじゃ、もう勝てないよ」

「…………」

「相手は魔法の対策もするし、防御も勿論する。

 その一つの必殺に全てかけるのは正直賢くない。

 だから必殺技を必殺としず、ただの一撃とする。

 表現が正しいか分からないけど、要は全部を必殺技級の威力にするってこと。

 何を必殺とするかは、その相手の出方によるけど。

 その場の必殺、その場の最適解を見つけるのが大切。

 一撃一撃の重みを理解して、その特性を理解する。

 一番大事なのは威力じゃない、その攻撃についてくる副効果なんだよ」


 要は、その場にあった必殺。

 相手を観察し弱点を見極める訓練をしていたと言うわけか。

 ……色々考えた結果、行きつく先は脳筋という事か。


「……つまり、この数週間で教えてたのは?」

「一撃必殺ではなく、その状況にあった必殺級の技を色々教えてた」

「お前、頭いいな」


 まあゴリラだもんな。脳筋になるよな。


「これでも神級だよ?舐めてもらっちゃぁ困るね」

「ゴリラなのになあッぶん」

「私語を慎みましょうね男性諸君」


 ギロっと、俺を殴った女はゾニーに視線を向けけた。

 するとゾニーも何か心当たりがあったのかビクッと震え。

 ブンブンと何度も頭を横に降っていた。

 裏切り者!!


 と、そこでサヤカは色んな魔法を見せ、大体4回ほど魔法を使った段階で。


「よし。これくらい覚えれば、魔物に遭遇しても時間は稼げるね」

「あ、ありがとう……ございます」

「魔物の核を潰すのは一端の冒険者でも不可能だから。そこは実戦の経験値次第かな」

「…………」

「でも、サヤカくんの魔法は。十分なくらいの戦力になる」

「!!」


 サヤカの顔に花が咲いた。

 嬉しそうに、そう歯を噛みしめる。


「魔物の核を壊すコツは。簡単に言うなら、全身を真っ二つ切れば楽だよ」


 とはケイティの言だ。

 どこか誇らしそうに、自慢気にそう言う。


「おま。そこは力技じゃなくってさ」


 そうだぞ。流石にそこはちゃんと考えた方が。


「いや、意外と常識だよ兄さん」

「え?そうなのか?」


 俺が冗談っぽくそう言うと、意外にもゾニーが反応した。


「魔物の核は硬いし見つけられない。でも核以外は別に固くないんだ。

 騎士の剣なら普通に体を切れる。

 ケイティ達が駆けつけた時も魔物を真っ二つにしてから、

 次の段階で核を狙ってた」


 思えば確かにそんな感じだった気がする……。


「た、確かに。無駄に色々真っ二つにしてんなって思ってたわ」

「それに、真っ二つにすることで核を見つけやすくなる。

 核は赤い小さな球で、魔物の肌は黒色。

 だから極論、体を真っ二つにしたほうが核を壊しやすいんだ」


 脳筋二号、爆誕だ。

 まあただマジで脳筋がこの世界の摂理かもしれん。

 俺も心に脳筋を宿しておこうと思う。


「なるほど……現役の意見はちげぇな」

「……ま、まぁね」


 意外と大雑把な説明だが、理解は出来る。

 だが、魔物を真っ二つにするのも俺たちには難しいと思ってた。

 だけど今のサヤカなら。

 ……つうか。


「俺も剣をやってみるか」

「……え?」

「なに言ってるのお兄ちゃん」


 え、とゾニーは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし。

 同時にケイティはなんだか呆れたようにそう言う。


 ん、そんな変なことを言ったか?


「と言うか、最初から俺も強くなればいい話であって、

 魔物を切るくらいの剣技を身につければ」

「ご、ご主人さま?」

「どうしたサヤカ」

「いや……なんか、その」

「……?」

「……いえ。なんでもありません」

「お、おう。そうか」


 何だか歯切れが悪いな。


 いや、でもそう簡単に剣を教われるものなのだろうか?

 剣を習ってモノにするまでそれほどの期間がいる筈で、幼少期に少しだけ握ったことはあるがそれは大昔だ。大丈夫だろうか……。


「…………」


 あ、だめだだめ。こう後先考えて面倒くさいってなるのが俺のいつもの癖だ。

 こういうのは勢いが大事であって。


「ゾニー。俺に剣を教えてくれ」

「……いいけど。兄さんは」

「サヤカの手伝いもしたいし。あの死神がいつまた攻めてくるかも分からないんだ」

「……うん」

「一年以内で出来る最低限でいい。

 魔物相手に即死しないレベルになれれば、それで俺は満足だ」

「………」


 ゾニーはその場で考えた。

 多分、俺の寿命だとか、他の要因でだろう。

 一応だが兄妹全員に言ってある。『サヤカは知らないと』

 だからゾニーは言葉を詰まらせていた。


 それに、いずれ死ぬ相手を弟子にするのは。

 師匠側も複雑な気持ちになるのだろう。


「……」


 すると、先に言葉を発したのは。


「ご主人さまも戦ってくれるんですか!!」


 突然目の色を変えて、そう叫んだのはサヤカだった。

 その言葉に、ゾニーは選択を余儀なくされた。


「……分かった。協力するよ」


 と言う事で。俺はその日からゾニーに剣を教わることになった。

 でも最初から剣を持たせては上げられないらしい。

 明日から朝一でジョギング!筋トレコースが決定して。

 勢いでお願いしてよかったなと言う安堵と、地獄が始まる覚悟を同時に済ませた。



 せめて隣に立ちたいと、そう思った。











 そしてその日の夜。ケイティと別れた後。

 家に、手紙が届いた。


『三日後、王都にある下記に記載した喫茶店で話があります。

                     エマ・ J ・ベイカー』





 余命まで【残り238日】


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