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四十話 「ゾニーの悩み事」


 ゾニー考案の訓練を初めてしばらくたった。

 本物の剣と同じ重さサイズの模型を付けたまま生活するのも慣れてきたと思う。


「よいしょ」


 と、腰の方へ視線を向ける。

 この模型とも、この数日の間で仲良くなったと思う。

 ずっと肌に離さず付けているのだ。

 もう親友だ。

 ほら、こんな感じに。


「おはよう。モギー」


 これが毎朝のルーティンだ。

 返事が帰ってくる訳でもないが、サヤカの冷ややかな視線はいつも感じる。

 あ、モギーと言う名前は模型と言う名前を可愛く改変してみた。


「おはようございます。ご主人さま」


 ふわっと、長い白髪が揺れた。


「お、もうリビングに居るのか」

「今日はトニーと遊ぶ約束をしているので、早起きですよ」

「早起きは三文の徳とも本で言うしな」

「ですね」


 実はサヤカ、地下室に自分の部屋を作ったのだ。

 家の裏に地下室の入り口があるのだが。

 なんとサヤカ、地下からリビングへ登れる様に。

 リビングの床材を魔法でくり抜いたらしい。

 確かに許可は出したけど、行動力が凄いな。

 つまり、外に出なくともリビングの床と地下室が繋がったという訳だ。


 地下室と言う事で、寒かったり暗かったりするのだろうかと思ったが。

 実際は違うらしく。

 寒いのは魔石を工夫した暖房器具があり。

 暗いのは照明のサヤカ自作の魔石が役に立っているらしい。

 うちの子、すごいな。


「久しぶりのヨシヨシ」


 と、サヤカの頭を撫でてやる。

 嬉しそうにウヘヘと言ったので、今後も問題なく継続していこう。


「……ん?サヤカ」

「……ぁ、いや。なんか久しぶりだなって」


 ふと、どこか噛みしめる様にサヤカが俯いた。

 魔物の進軍からもう結構経ってるけど。

 そうだよな。

 あの出来事も、結構衝撃的だったからな。

 久しぶりのヨシヨシが、なんだか嬉しかったのかな。


「涙拭けよ。トニーが心配する」

「はい。分かっていますよ」


 そうサヤカは微笑んで家を出た。



――――。



 昼になった。

 筋肉痛ぶりにゾニーと会う。

 古畑跡で、俺は模型を腰に携えながら。

 家の方から歩いてくるその人影に、ある思いを抱いていた。


 ……。


 さて、ちょっとした気になる事を話そうと思う。

 いや別にさ、俺の勘違いとかならいいんだけどさ。


「………」


 明らかに。ゾニーがやつれている……。

 げっそりしてる。

 なんか視線がどこ向いてるかわかんないし。

 痩せてね?

 大丈夫かこいつ。


 寝てないとかのやつれ具合じゃない。

 こいつ、なにも食ってないんじゃね?


「失恋か」

「えっ、何言ってるんですか」

「いや、お前の様子が失恋した男みたいだ」

「僕は一度も恋愛をしたことないんですよ」

「そうだったのかぁ、出会いが無かったのかぁ」

「うるさいです」


 食い気味の言葉に。

 ペチッと、冷たいツッコミをされる。

 あちゃ、出会いが無かったのか。

 いや別に馬鹿にしているとかじゃないけど。


 ……そう言えば、出会った時、要は大魔法図書館だが。

 その時に比べて今のゾニーは。

 色々質素だ。

 あの時、物凄く着飾っており。

 どこか自信に溢れていたゾニーが。

 何故か最近落ち着いており。質素な服で無口な感じになっている。


 これはきっと、何かがあったな?


 いやまぁそうだよな。

 あんな出来事があって、変わらない人間が居ないのかもしれない。

 いい意味でも悪い意味でも、何かしらの影響は全員に与えているはずだ。

 じゃあゾニーは、何なのだろうか。


「ゾニー」


 一度、話そうとは思ってた。

 だけど、どこか緊張して話せなかった。

 でも今なら。


「何か、悩み事があるのか?」

「………」

「お前の兄弟として、知りたいんだが」


 ゾニー・ジャック。

 俺とお前は、あまり関わりがなかった。

 だけど、俺は知りたいんだ。

 兄だから。

 家族だから。


「……一応、ありますよ」


 静寂の後、ゾニーは平然な顔で言った。


「それはなんだ?」

「いやですね。最近良く背後に気配を感じるんですよ」

「……ん?お、おう」

「なんか不愉快なので、それが悩み事です」


 ん……待ってくれ。

 それってつまり。


「ストーカー?」

「分かりません。正直僕がどうこうするつもりもないです。でも、ずっと付けられるのは不愉快です」


 確かに気持ちはわかる。

 ん。うーん。ストーカーか。

 確かにゾニーはイケメンと言われればイケメンだ。

 でもそれでトラブルとか……。

 想像してみよう。


『Q.ストーカーがゾニーに襲いかかった場合』


 これの場合は。


『A.翌日、ストーカーの死体が見つかる』


 そうだな、それしか考えられない。

 曲がりなりにも現役の騎士だ。

 隊長と言う座も持っているし、だから襲われても大丈夫か。


『Q.ストーカーがゾニー嫌がらせをしてきた場合』


 これの場合は。


『A.翌日、ストーカーの死体が見つかる』


 ……あれ、これどんなアクシデントが起こっても。

 結果が変わらないんじゃねーか?

 なんか、心配しても無駄じゃね?

 い、いや。

 兄として考えて置かなければ。

 弟の危機を、予知しなきゃいけないんだ。



『Q.ストーカーがゾニーに恋している場合』



「ぶっはボベッ!?」

「兄さん――!?」


 突然のピンクの想像に、思わず吹き出してしまった。


「い、いやぁ。大丈夫だ」

「大丈夫なの?何かの病気だったら……?」

「そ、そうとも言うかもしれないな」

「?」


 地面に腕をついている俺に、ゾニーは手を伸ばしてくれた。

 ありがたいな。

 流石俺の弟だ。


 ………ん。

 そうだな。

 うん、決めた。


「決めた」

「……?」

「俺、お前の力になるよ」

「え。どうゆうことですか?」


 俺はゾニーの腕を振り払い。

 自分の親指を胸に差し、思いっきり叫んだ。


「そのストーカー、俺が見つけてやるよ」



――――。



 とは言った物の。


 別に俺はそうゆう探偵みたいな仕事はしたことがない。

 そうゆう、尾行とか物陰の隠れるとかもあまりないし。

 ……だが、言ってしまったから諦めるわけに行かない。


 という事で、俺は変装し。

 ゾニーの追尾をしていこうと思う。

 そのストーカーとやらがどんなやつなのかはわからないが。

 同じ様にゾニーを俺が追尾すれば、怪しい奴を見つけられると思ったからだ。

 もちろん変装はした。

 完璧だ。これなら行けるな。


「……ご主人さま、何してるんですか」

「あ、あれ?」


 変装してゾニーの追尾開始から三分。

 サヤカ、不審者発見。


「あ、いや。違うんだ」

「どうしてそんな明るい色の服を?赤の帽子に青のシャツって……目立ちすぎです」

「え?そうなのか」

「奇抜すぎて目に入りすぎます。そして、色の暴力で目が痛いです」


 色の暴力、初めて聞いたなそんなワード。

 そ、そんなに変装出来ていないのか?

 意外と隠れていると思うのだが。


「………」


 ……ふと周りを見てみたら、大衆の視線が痛かった。

 メモ、カラフルな服はダサイ。と。




「こうゆうのは目立たない服を着るんですよ」

「目立たない服とはどんな服だ?」


 一度家に帰り。

 サヤカに変装、いや、服のセンスを伝授してもらうことになった。

 俺の服のセンスがあまりよろしくないのは自覚があった。


「どうして、こう、なんていうか」

「ん?」

「ご主人さまって、変に気合い入れると空回りしますよね」

「……痛いとこ突くな」


 痛すぎてなんだか恥ずかしいな。

 確かに、空回りするのは否めない。

 俺の良くない部分だし、直したいと思っている。


「サヤカ先生。どうすれば空回りしなくなりますか?」

「先生って……えっと、ですね」


 おっ、サヤカさん。役に入り込んでくれるんですか?

 サヤカさんもユーモアがありますな。


「自然体になりましょう」

「自然体ですか先生」

「……無理やり変えようとするから不自然になるのです。

 もっと自然体で、街に歩いている人の服装などを真似て。

 奇抜なのではなく自分が普段着そうな服を着ましょう!!」

「なるほど先生!して、先生」

「はい。なんでしょかケニーくん」

「俺が普段着ている服って、どんなんでしたっけ」

「記憶喪失?」

「なわけ」


 そこから、数時間によるサヤカの授業が行われた。

 この服はダサイ、これと組み合わせるとカッコイイ。

 この色の服は目立たない。

 赤の帽子は根本的にダサイ。

 青色のシャツは需要なし、買うな。

 などなど。

 中々スパルタであり。俺が着ていなかった服をいくつか処分することになり。


 結果、俺の部屋のタンスが綺麗になった。


「って、違う――――!」

「びっっっくりした。どうしたんですかサヤカさん」

「ご主人さまはタンスの中を綺麗にしたかったのですか?」

「綺麗っていいよね」

「へ!ん!そ!う!ストーカーを見つけ出すんじゃないんですか!?」

「あ、忘れてた」


 優しいチョップをくらい。

 それを俺はしゃがんみ、頭で受け止めた。

 すると、ふと。

 サヤカの顔が目の前に来て。


「何してるんですか、全く」

「いやな、やっぱお前美人だな」

「もう一発行きますか?」

「それは御免こうむりたいね」

「えい」

「あいた」


 サヤカはもう一度優しいチョップを俺に振り下ろした。

 俺は背筋を伸ばし、立つと。

 手を伸ばして。


「………」

「よしよし」

「……っへへ」


 片腕に収まる頭だった。

 空のように白い髪だった。

 熱があった。

 意識があった。

 優しい、少年だった。


 可愛くって、優しくって、友達思いで、勇気があって。

 お前の様な完璧な人間が、沢山いればと思うと。

 世界が少しだけ、よくなる気がした。

 だけど。現実は甘くない。

 それは俺でも知っている。

 人生は、幸福より不幸が多い。

 不幸の下積みが、幸福を作っているまである。

 だからきっと、これからまだまだ最悪は訪れると思う。


 ―………―――……――。


 程々に疲れて。程々に泣いて。

 たまに、笑ってくれるだけでいいから。


 それだけで、俺は幸せだから。





 余命まで【222日】




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