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番外編①

番外編「食堂主の悩み事」




 やぁ、みんなのヒーロー。ケニー・ジャックだぜ。

 みんなの赤い声援、いつも胸に届いているぜ!

 前回の俺の戦い、見てくれたか?

 ゴブリンの群れから村を救ってから随分たったな!!

 あの頃は懐かしいぜ!


 がっはは!!


 ………。

 冗談はさておきだな。

 俺がサザルへ飛び立つ前日。

 俺は、モーリー食堂に報告の為向かったのだった。



――――。



「長期休暇?」

「少し急用が出来てしまい。長めのお休みなどを貰えませんかね?」


 と、頭を下げた。


 状況を説明しよう。

 現在いるのは閉店後のモーリー食堂であり。

 目の前にはモーリーとロンドンが椅子に座っている。

 そんな二人に俺は無理な話をしていた。


「別に問題はないけど、そんないきなりどこへ行くんだい?」

「サザル王国です」

「サザルぅ!?」


 二人の驚いた声が食堂に響く。

 そりゃそうだよな。突然すぎるもん。

 サザル王国の距離とか考えたら、そりゃ驚くだろうな。


「……まぁ理由があるんだろう。別にうちの食堂の事は気にしなくて大丈夫さね」

「ありがとございます」


 許可は取れた。

 これで心置きなくグラネイシャを発てるな。


「――――」


 だがなんというか。

 流石に申し訳ないな。忙しいだろうに。


 モーリーは今、北の街の、魔物に壊された家とかの復興の手伝いをしている。


 その為、現在食堂は出張しており。

 中央広場で屋台として営業しているのが今の食堂だ。


 建物の中から外に変わっただけだが、それでも負担は外の方が多いだろう。

 家などが壊されお金もまともに持っていない人達の為に。

 殆ど無償でモーリーは食事を振舞っている。


「――――」


 優しい人だ。

 そんな大変な時期なのに、俺はこれで良いのだろうか。

 勿論、迷いはあった。

 でもやはり、このチャンスは逃すと後悔する気がする。


「少しの間、店を閉めるかね」

「え?」


 モーリーから聞かないような、

 少しがっかりしたようなそんな呟きだった。


 いつも明るいモーリーが、そう言ったのだ。

 その言葉を聞いて、俺はやはり胸が締め付けられた。

 やるせない気持ちだ。


 と言っても俺だって理由がある。

 もし今行かなかったら、俺は本当に来年死んでしまうかもしれないんだ。

 苦渋の決断だが。そうするしかない。


「まぁ、ネェちゃんは一旦休んでもいいと思うぜ」


 すると、暗い顔をしているモーリーの横で、

 少しへそを曲げたような表情でロンドンは言った。


「休めないさ。ただ、休憩をして、また店を開ける」


 まあ。モーリーならそうするな。


「俺だってずっとこの店に入れるわけじゃぁねぇ。

 来週からは別の仕事に呼ばれてんだ」

「呼ばれている?」

「あぁ、ケニーの旦那には話してなかったがぁ。

 元騎士なのに王様から直々に仕事を依頼されるらしい」


 王様から直々に?


 ……死神関連なのだろうか?

 そういえば死神候補の貴族は数が多かったから。

 死神の事情を知っている人間で、一番良かったのがロンドンなのだろうか?

 それとも、一度魔物と渡り合えているから?

 いや、それなら別に近衛騎士団なら渡り合っているだろうし。


 つうか、別に死神とは関係ない話かもしれないしな。

 直近の事に引っ張られ過ぎた。


「――――」


 俺がサザルへ行っている間。

 死神関連のミッションが始まるらしい。


 俺に誘いは来なかったが、身近の人物で言うとゾニーだ。

 ゾニーは俺がサザルへ行っている間、イーソン・ベイカーと言う少女の護衛があるらしい。

 ベイカー家。エマが嫁いだ先だ。

 あんまり知らなかったが、ベイカー家には分家が多いらしい。

 ゾニーと一緒にナタリーやエミリーも参加と聞かされた。


 やはり、王様は襲撃時、魔物と戦った奴らを選んでいるのだろうか?

 だとしたら、やはりロンドンもそれ関連だと考えても……。


「怪我だけはするなよ」

「俺が、怪我程度でぇ死ぬとでも?」


 ……ま、死ななそうだよな。

 片腕無くなっても襲い掛かってきそうな獰猛な性格だ。

 だが、心配なのはモーリーか。


「一旦、このお仕事から手を引いた方がいいんじゃないのか?」

「それは……そうかもしれないさ。でも、嫌だ」


 頑なにモーリーは引こうとしなかった。


「なぜ?」

「ここしかないんだよ。私が働ける場所は。

 それに、いまやらなきゃ。子供たちは……」

「…………」


 あぁ、そうだよな。

 家が無くなった人もいる。

 食堂を必要としている子供もいるのは俺も重々承知だ。

 だが、あんたが倒れちまったら。


「モーリーが倒れちゃったら。元も子もないと思うぞ」

「………」


 黙ってしまったか。

 胸が苦しいな。

 でも仕方がない。

 これしかないんだ。

 今はこうゆう状況だけど。

 きっと良くなる。


「少し考えさせて」


 モーリーはそう言い放った。

 まぁだが、俺は明日にはもう旅立つので。

 モーリーの答えは、聞けなかった。





 と、話しは以上だ。

 最近あまり食堂の事を書けてなかったから。

 残しておこうと思う。



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 9月〇日

 第五十一回目

 執筆者、ケニー・ジャック


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