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第38話 丘の上で夕日の中言い寄ってきたフェルディナントにころちゃんが噛みついてくれました

丘への道は石畳の上り坂だった。私には坂道は結構大変だった。

フェルディナントはゆっくりと歩いてくれたが、私は靴がハイヒールだったので、登りにくかった。


「きゃっ」

思わず躓いてフェルデイナントにしがみついてしまった。


「も、申し訳ありません」

私が謝るも、

「大丈夫ですよ。カーラ様。何なら私が手を繋ぎましょう」

そう言ってフェルディナントが手を差し出してくれた。


「えっ、でも……」

「この坂はあなたには結構大変そうです。ただ、私もここまで来たら絶対にカーラ様に見ていただきたいので、もう少しだけ私に付き合ってもらえませんか?」

そう言われると断れなかった。


差し出されたフェルディナントの手は思ったよりも厚くがっしりしていて、剣だこがあって堅かった。思ったよりも鍛えているのが判って私はドキドキした。そういえば異性に手を繋いでもらうのは初めてかもしれない。白い騎士様には抱き留められて私が抱きついただけで、手を繋いではいなかった。なんか白い騎士様に悪いような気がした。


でも、今更手を離してくれとは言えなかった。私はフェルディナントに引っ張られて、なんとか丘を登ったのだ。


丘の上に登ると、そこにはあちこちにカップルがいた。

そして、彼らを暮れゆく太陽が赤く照らしていた。

そこからは王都が一望できて、町並みが赤く染まり出す所だった。


「きれい!」

私はその景色に感激した。


網の目のようにきっちりと碁盤状に張り巡らされた道があり、その先には丘の上に立つ王宮がはっきりと見えた。そして、地上の道を多くの人々がせわしく歩いている。先程みて歩いた小間物屋の商店もはっきりとここからは見えた。


「カーラ様。あそこが大聖堂です」

「本当だ、ここからはあの大きな大聖堂も小さく見えますね」

「人があんなに小さく見えますよ」

「あっ本当だ」

「あの左手にあるのがお昼を食べて頂いたカリー専門店です」

「あ、こんなに離れているんですね」

「結構歩きましたからね」

フエルディナントは町並みを私に一生懸命説明してくれた。


「もうじき、太陽が赤く染まるんです。そうしたら全体が真っ赤になりますからね。私がこの国にきて一番きれいだと思える景色なんです。一度その景色をあなたにお見せしたくて」

フエルディナントの説明している間に太陽が赤く輝きだした。


「あわあ、きれい!」

私はその美しさに思わず感激した。

真っ赤に染まる町並みがとても美しかった。

こんな景色を白い騎士様と一緒に見れればどれだけ良いんだろう!

 とフェルディナントには悪いが思わず思ってしまった。


白い騎士様が私をエスコートしてここまで連れてきてくれて、そして、二人して、肩を並べてこの景色を見るのだ。

そして、私の伸ばした手に白い騎士様の手が重ねられてってあれ、手が重ねられている?

自然とフエルディナントの手が重ねられているんだけど、偶然だろうか? ちらっとフェルディナントを伺い見ると、熱心に夕焼けを見ていた。

わざとじゃないんだろう。私は指摘した方が良いかどうか悩んだ。


「カーラ様」

「はい」

私はフェルディナントに声をかけられて思わず少し緊張した。

「私はこの景色を初めて見た時に、あなたと見たいと思ったのです」

そう言って熱い視線で私を見てくれるんだけど……

「本当に、こんなきれいな景色を見せて頂いてありがとうございます」

 私はなんとか手を引っ込めようとしたが、フェルディナントの手から逃れられなかった。


 失敗した。こんなのだったらころちゃんを連れてきたら良かった。ころちゃんがいればフエルディナントに吠えてくれて、なんとかなったのに。ころちゃんはフェルディナントに言われて丘の麓にリードで繋いで置いてきてしまった。


 お父様からはフェルディナントの機嫌をとって、関心を自分に向けるようにと言われいたけれど、私には白い騎士様がいるのだ。でも、フェルディナントをむげにも出来ない。ここでフェルディナントに嫌われたら決定的に我が王家の立場が悪くなる。でも、フェルディナントに手を重ねられているのは嫌だ。どうしよう?


そう思った時だ。


「わんわん!」

突然犬の鳴き声がして

ガブっ

という音とともに

「ギャッ」

フエルディナントが叫んで、私の手を離してくれた。


「痛い、離ら!」

フエルディナントはころちゃんにお尻に噛みつかれていた。


「ころちゃん、だめでしょ。離しなさい」

「痛い、痛いから」

フェルディナントが手を伸ばして必死にころちゃんを離そうとする。


私が必死にころちゃんをフェルディナントから離したら


「うーーーー。わんわんわんわん」

ころちゃんが怒って吠えてくれた。


「痛たたた」

フエルディナントがお尻を押さえている。


「フェルデイナント様、大丈夫ですか?」

私が心配して聞くと

「大丈夫ですよ。噛まれたのは高々子犬ですから」

そう言ってフェルディナントは笑ってくれたが、目は怒っていた。


その後、私は平謝りにフェルディナントに謝ったのだ。


でも、後でころちゃんにはころちゃんの大好きなお肉を上げた。

「よくやってくれたわ、ころちゃん。あなたは私のヒーローよ!」

私はそう言ってころちゃんのほっぺたにキスしたのだった。


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