「ねえころちゃん、どうしよう? 私には白い騎士様がいるのに、フェルディナント様と一緒にお出かけしたらまずいわよね」
カーラが聞いてくれた。
「わんわん」
そんなの当然だめだ。
俺は頷いたのだ。
「でも、一度、お約束したことを反故にするわけにはいかないわよね」
そんなことあるかと俺は首を振ったのだ。
「えっ、ころちゃんはこのお誘いを断った方が良いと思うの?」
「わんわん」
俺は頷いた。
「うーん、でも、ころちゃん。相手はサウス帝国の皇子様なのよ。断るとまずいわよね」
まだ言っている。俺は首を振ったのだ。
「えっ、ころちゃん、判って首を振っているの?」
俺は頷いた。
「やっぱり、白い騎士様を裏切るのは悪いわよね」
「わんわん」
当然俺は頷いたのだ。
「そうね。フェルディナント様から誘われたら断るようにするわ」
それを聞いて俺はほっとしたのだ。
しかしだ。国王に呼ばれたカーラが帰ってきたが、どうやら、フェルディナントと仲良くするように言われたらしい。確かに王家としてはカーラがサウス帝国の皇子と仲良くなってくれて婚姻してくれれば、サウス帝国の後ろ盾を得て宰相を牽制しやすくなる。そう、ベストな選択なのだ。
俺様は今は獣人王国を追放された身で、全然力になれない。というか、俺とカーラがくっつけば下手したら俺を敵視している兄の率いる獣人王国を敵に回すことになるのだ。
「はああああ」
カーラはベットの中で盛大にため息をついたてくれた。
これはひょっとしてフェルディナントを思ってため息をついているのか?
「クウーーーー」
ベッドの中でため息をつくカーラの顔を俺はペロペロ舐めたのだ。人間なら許されないかもしれないが可愛い子犬だから許されるのだ。絶対にフェルディナントにはカーラを渡さない。
「ころちゃん、どうしよう?」
カーラは悩みを俺に打ち明けてくれた。ほっとしたことにカーラはまだ心の中に俺のことを思ってくれているみたいだ。
「ウーーーー」
俺は俺のカーラに手を出そうとしているフェルディナントに怒りを示したのだ。
「わんわん」
フェルディナントなんてあっさり振るんだ!
俺はカーラに吠えたのだ。
「そうよね。まだ諦めるには早いわよね」
少しずれていたが、カーラは俺を諦めないと言ってくれた。
「ころちゃん。私は白い騎士様にまた会えるかしら?」
「わんわん」
今、カーラの目の前にいる!
俺がそう主張してもカーラには当然伝わらなかった。
「ありがとうころちゃん。でも、白い騎士様とお会いしても、白い騎士様は私の事なんてなんとも思っていないわよね」
「くうううう」
俺はそんなことはない、カーラに首ったけだと叫んだのだ。
「えっ、私にもまだ可能性があるの?」
「わん!」
ここぞとばかりに俺は吠えていた。
カーラはフエルディナントを連れて王都を案内しなければいけないのを悩んでいた。
「どうしよう?」
「わん」
俺は胸を張って任せておけと請け負ったのだ
出来たら断ってほしかったが、国王の命ならば、断る訳にも行くまい。ここは俺が乗り出してフェルディナントに諦めるように持って行くしかなかった。
「ころちゃんに任せるって、ひょっとしてころちゃんは私についてきてくれるの?」
カーラが聞いてきたので、
「わんわん」
俺は尻尾を振ってカーラに答えたのだ。
俺はフェルディナントの邪魔をする気満々だった。
さて、案内当日だ。
何故かカーラは俺様に首輪をしようとしてくれた。
「わんわん」
止めてくれと俺は吠えた。
首輪なんてしていたらいざというときに動けない。
「ころちゃん。私と一緒に行ってくれるんでしょう? そのためにはさすがに首輪をつけないといけないのよ。お願い!」
カーラはそう言って俺の顔にキスしてくれたのだ。
ええええ!
俺は真っ赤になった。
まさかカーラがキスしてくれるなんて!
俺は固まってしまって気付いた時にはカーラに首輪を嵌められていたのだ。
やられてしまった!
俺が不機嫌そうにしていたからか、カーラは待ち合わせ場所まで俺様を抱っこして歩いてくれたのだ。
「カーラ嬢」
なんとフエルディナントの野郎はカーラを見つけると嬉しそうに歩いてきくれた。
でも、俺様の姿を見た瞬間とても嫌そうな顔をしてくれたのだ。
「その犬も一緒なんですか?」
フェルディナントは少し驚いた表情をしたが、
「申し訳ありません。ころちゃんはやっと見つかったので、一時も離れたくなくて」
そう言ってカーラは俺を抱きしめてくれたのだ。
俺は天にも舞う気持ちだった。
「わん」
ふんっ見てみろ。カーラは俺様のものだ!
俺様はフェルデイナントに宣言したのだ。
「別に取り上げたりしませんよ。子犬を抱っこしているカーラ様もきれいですし」
フェルディナントの野郎は何でもないようにさらりとお世辞を言っていた。さすが女たらしなだけはある。
免疫のないカーラは顔を真っ赤にしていた。
「この犬は『ころちゃん』というのですか」
あろうことかフェルディナントの野郎は俺様の頭を撫でようとしてくれた。俺はフェルディナントのカーラに対する態度にむかついていたのと、男に撫でられる趣味はなかったので、ガブリと噛み付いてやったのだ。
「痛い!」
フェルデイナントの野郎は俺を引き離すと飛び上がってくれた。
「わんわん」
ざまあみろだ!
俺はしてやった気分だった。
「噛んじゃ、だめでしょう。ころちゃん」
カーラが注意してきたが、
「うー」
喜んでいた俺もこれはまずいと、少し反省したふりをした。
「大丈夫ですか? フェルディナント様」
「いや、こんなのは大丈夫ですよ。噛まれたと言ってもたかだか子犬ですからね。全然大丈夫です」
フェルディナントはやせ我慢してくれた。
「でも、何でしたら治療した方が。子犬とは言え噛まれたのならば医者に診てもらった方が良いのではないですか?」
カーラが心配して言うと
「いえ、歯形がついたくらいですから問題ないですよ。あ、でも、カーラ様が治療して頂けるのならば治りが早いかも」
喜んでフェルディナントは言ってくれた。そんな必要はない!俺様がそう思った時だ。
「でも、ここには治療の薬とかないですし、一端王宮に帰りましょうか」
「それには及びますまい。カーラ様が患部にキスして頂けたらそれだけで直りそうなんですけど」
「えっ、キスですか?」
カーラはフェルディナントの言葉に真っ赤になって固まってしまった。
「わんわん!」
このぼけなすは何を言ってくれるんだ。
俺はもう一度この男に噛み付こうとした。
「冗談ですよ。カーラ様。言ってみただけです」
「冗談なんですね」
「本気だって言ったらキスしてくれますか」
「えっ?」
「いや、本当に冗談ですから。それに、カーラ様の愛犬の歯形は私の勲章ですからね」
カーラの相手にこいつだけは許さん!
俺は心の底からそう思ったのだ。