私はフェルディナントを連れて王都案内する大役を終えてほっとした。
「いかがだったのですか、姫様?」
興味津々でサーヤが聞いてきたので、
「ちゃんと案内できたわよ」
私が頷くと、
「いや、それは当然そうだとは思いますが、お二人の間に何か進展はございました?」
「進展と言っても何もないわよ。大聖堂にフェルディナント様を案内して、フェルディナント様の故郷の料理のカリー店に連れて行ってもらって、周りのお店で二人で買い物しただけよ」
私はサーヤの問いに平然と答えていた。私としては何かあっては困るのだ。
「何かプレゼント、もらわれました?」
「プレゼントっていっても……そういえば、ころちゃんにブローチを買ってもらったわ」
「わん」
私が言うと、ころちゃんは自慢そうに首輪のブローチが見えるように胸を張ってくれたのだ。
「うーん、子犬のブローチですか」
残念そうにサーヤが言ってくれたんだけど……
「最後は中央公園の丘の上に夕焼けを見に連れて行ってもらったわ」
「それは王都のカップルのデートの定番コースではないですか!」
サーヤは前のめりに身を乗り出して聞いてくれた。
「で、何があったんですか?」
サーヤが興味津々で聞いてくれた。
「きれいな夕焼けを見て、感激したわ」
私はフェルディナントに言い寄られたことや、それに対してころちゃんが噛みついた件は黙っていようと思った。知られたら二度ところちゃんをデートに同席させてくれそうになかったし、そうなると私としては困るのだ。
「それから、フェルディナント様はどうされたのですか? 姫様の手を握られたとか、そういう事は無かったのですか?」
サーヤが更に熱心に聞いてきたが、
「うーん、どうかな?」
私はそうされたけれど、またサーヤがうるさくなるので黙っていることにしたのだ。
「そうですか? 思ったよりもフェルディナント様は奥ゆかしい方なのですね」
サーヤは少しがっかりしたようだった。
「まあ、でも、姫様との初デートですから、そんなものかもしれませんね」
サーヤは一人で納得してくれているんだけど……
「ちょっと、サーヤ。私はフエルディナント様に王都を案内しただけで、デートでは無いわ」
私はサーヤに反論した。
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか? 大国の皇子様が、小国とは言え未婚の年相応の王女であるカーラ様と二人だけでお出かけされたのです。これをデートと言わずして何というのですか?」
サーヤはそう言ってくれたけれど、私としては、デートしたい相手は白い騎士様だけで、フェルディナントはお友達として王都を案内しただけなのだ。
そこははっきりしておきたいんだけど……言い出すと
「また、姫様はそんな夢物語のような事を言い出されて! そもそも白い騎士様なんて言われますけれど、どこのどなたかも判らないでは無いですか!」
全くサーヤには相手にもされなかった。
でも、それはまだそれで良かったのだ。
「姫様とデートに誘われたのですから、またすぐにフェルディナント様からデートのお誘いがあるに違いないですわ」
サーヤがそう言っていたが、そんな事は無いと思うんだけど……
なにしろ、ころちゃんがフェルディナントのお尻に噛みついていたし、それでフェルディナントは私をデートに誘うのを懲りたはずだ。
私がそう思っていた時だ。
私は王宮の庭園をころちゃんを連れて散歩していた。
「わんわん」
ころちゃんが吠えてくれた。
何事だろうとそちらを見たら、フェルディナントがこちら向かって歩いてくるところだった。
フエルディナントが私を見つけてこちらに手を振ってきたので、私は逃げ隠れできなかった。
「これはこれはカーラ様、この前は王都観光に付き合ってくれてとても楽しかったです」
嬉しそうにフェルディナントは言ってくれた。
「喜んで頂けてたのなら、良かったですわ。お尻は大丈夫でした?」
私は愛想笑いを浮かべて、気になっていたことを聞いてみた。
「お尻? ああ、子犬に噛まれた奴ね。何も問題ないですよ。心配なら跡をお見せいたしましょうか?」
「えっ?」
まさかそのように返されると思わなかったのでね私は真っ赤になった。
「わんわん!」
今にも飛びかかりそうにころちゃんが吠えるので、私は慌ててころちゃんを抱き上げた。
「これ、ころちゃん、この前みたいなことはだめよ」
私がころちゃんに注意すると
「クウーーーー」
ころちゃんが少しおとなしくなる。少しは反省しているみたいだ。
もっとも雰囲気をぶっ壊してくれたので、私としては歓迎だったのだが、いつもいつも噛みつかれるとさすがの私も庇いきれない。ここは釘を刺しておかないと。
「それで、カーラ様。今度は女性に人気のスイーツの店が王都に出来て、出来たらその店にあなたも一緒に来てほしいのだが」
フェルディナントが私を誘ってきた。
フェルディナントにとってはこの前のころちゃんに噛みつかれたことは何でも無いみたいだった。
「えっ、美味しいスイーツのお店ですか?」
私も思わず食いついていた。私も美味しい物には目がないのだ。特に若い女の人に人気の店ということは絶対に美味しいはずだ。私は思わずつられていた。
「カーラ様!」
その時だ。私の後ろから目を釣り上げたアレイダが駆けてくるのが目に入ったのだ。