結局、フェルディナントは何度もころちゃんが満足するまで、自分のフルーツパフェをころちゃんに与える羽目になってしまった。
「ころちゃん。もういい加減に自分の分を食べなさい」
私がそう注意しても、ころちゃんは聞く耳を持っていなかった。
そんな時だ。
ノックの音がして、オーナーが顔を出したのだ。
「どうしたのだ?」
フェルディナントが眉をひそめた。
「実は大使がいらつしゃってまして」
オーナーが戸惑って声をかけてきた。
「判った。すぐに行く」
そう答えるとフェルデイナントは私達を見た。
「申し訳ありませんが、本国から火急の連絡でも来たようです。少し席を外させて頂きますね」
そう断るとフェルディナントは部屋の外に出て行った。
部屋の中には私とアレイダが残ってしまった。
私はさすがにまずいと冷や汗が出た。アレイダは元々自分勝手で、フェルディナントとの仲を私が邪魔していると勝手に思い込んでいるのだ。私の方にも言い分はあったが、絶対にアレイダが聞かないことだけは確信を持てた。
「カーラ様。以前、フェルディナント様は私の婚約者候補であって、お近づきになられないでとお願いして、先日はご納得頂けたと思いましたけれど、これはどういうことですの?」
さっそくアレイダが睨んできた。
「まあ、アレイダ嬢は何をおっしゃいますの? 王女の私としては帝国の王子殿下から甘味処にお誘い頂けたらこちらからはお断りは出来ませんわ。アレイダ嬢がフェルディナント様の婚約者だとおっしゃるのならば、アレイダ嬢の方からはっきりとフェルディナント様には釘を刺して頂かないと」
私はアレイダの嫌みに反論した。
「何をおっしゃいますの。地位はカーラ様の方が上なのですから、普通はカーラ様の方からやんわりとお断りしていただかないといけませんわ。私など恐れ多くてそんなことは申せませんわ」
そう言ってアレイダは愛想笑いをしてくれた。
「まあ、私は既にやんわりとはお断りいたしましたわ」
私は嘘は言っていない。やんわりとお断わりはしたのだ。
「それでも、フェルディナント様が何度もお誘い下されるから仕方なしに今日はお付き合いいたしましたの。先程も私が帰りますと申し上げたのに、強引にフェルディナント様に押しとどめられましたよね」
「そこは常識のある淑女の方ならば強引にお帰りになるのが筋ではありません事?」
アレイダはしつこかった。
本当に面倒くさい。まあ、父やサーヤは私とフエルディナントにくっついてほしいみたいだけれど、私はどちらつかずのフェルディナントには興味がないのだ。出来たらアレイダの方にもっとフェルディナントの手綱をしっかりと握っておいてほしかった。
「うーーーーわんわん!」
私に変わってころちゃんがアレイダに反論してくれた。
「まあ、犬は主人に似ると申しますけれど、私に吠えるところといい、フェルディナント様に食べさせてもらう事といい本当に図々しい犬ね」
ぎろりとアレイダはころちゃんを睨み付けてくれたけれど、ころちゃんは全く動じずにアレイダに吠え続けてくれた。
お互いににらみ合ってくれるんだけど……子犬のレベルに合わせるアレイダもどうだとは思うけれど……
私は白い目をアレイダに向けた。
「どういうことだ。アーレンツ、貴様また父上にどうしようもないことを吹き込んだな!」
そんな時だ。外からフェルディナントの大きな怒声が響いたのだ。
思わず私はころちゃんと目を合わせた。
アレイダもぎょっとしていた。
フェルディナントの怒声を聞くのは私は初めてだった。
そこへ扉が開いてフェルディナントが入ってきた。
「どうかなさいましたの? フェルディナント様。フェルディナント様の大きな声がここまで聞こえておりましたけれど」
心配そうにアレイダが尋ねていた。
「いやあ申し訳ない。少し国元で問題が起こりまして、早急に対応を練らねばならなくなったのです。今回のお詫びは必ずいたしますから、カーラ様とアレイダ嬢には大変申し訳ありませんが、ここで失礼させて頂きますね。」
フェルディナントはとても急いでいるようだった。
「さようでございますか。至急とあらば致し方ありませんわ」
残念そうにアレイダは頷いていた。
「そういうことでしたら仕方がありませんわ」
私はあっさりと頷いたのだ。
アレイダとフェルディナントと3人で食べるのは本当に疲れたのだ。
「カーラ様。馬車は残しておきますので、その馬車をお使いください。せっかくなので、ゆっくりとパフェをお楽しみください。必ずこの借りはお返しいたしますので」
フェルディナントはとても気にしてくれたが、
「まあ、そんなにお気にめさらずに」
私としてはこれっきりにしてほしかった。
慌てて部屋を出て行くフェルディナントを見送ると、
「では私も失礼いたしますわ」
あっさりとアレイダも帰ってくれたのだ。
残されたアレイダと二人きりにはなりたくないと思った私はほっとした。
「ころちゃん。せっかくだからこのパフェ、最後まで頂いてしまいましょう」
「わんわん」
ころちゃんは大喜びで尻尾を振ってくれた。
私ところちゃんは心行くまでフルーツパフェを堪能したのだ。ころちゃんはフェルディナントの残したパフェまで食べていたのだけれど、さすがに食べ過ぎだと私は注意したのだった。