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第56話 フェルディナントが昨日のことを謝りに来ましたが、意味深な言葉を残していきました

私はフェルディナントが誘ってくれた甘味処にアレイダが来たことでフェルディナントにとても不信感を持っていた。私のところから漏れることはないのだからフェルディナントのところから情報が漏れたに違いないのだ。フェルディナントがアレイダと私を天秤にかけているのはなんとなく判った。

お父様とかサーヤは私とフェルディナントがなんとかなるのを期待しているみたいだったが、私は二股かけられるのは嫌だった。それに私は白い騎士様がいるのだから。

どこにいると言われると私は何も言えなかったが……


「カーラ様。フェルディナント様がいらっしゃいました」

そんな翌日だ。サーヤが部屋に入ってきてフェルディナントの訪れを告げたのだ。

「えつ、何も先触れも何もなしに?」

私は思わず非難する口調でサーヤを見た。


「私もそう思いましたから、『昨日お伺いしておりましたでしょうか?』と嫌みを言いましたら、何でもすぐ傍に来たから寄ってみたと申されるのです。これは姫様、フェルディナント様はアレイダ様よりも姫様に気がある証拠でございますよ」

サーヤは嬉しそうに笑ってくれた。

「そんなのは判らないわよ」

私は首を振ってサーヤに反論したが、私とフェルディナントをくっつける気満々のサーヤは急いで私を着飾らせてくれたのだった。


仕方なしに、私はころちゃんを抱いてフェルディナントの待つ応接に向かった。


「これはカーラ様。水の妖精のようにお美しい」

さらりとフェルディナントは褒めて、さっと私に一本の赤い薔薇の花を差し出してしてくれた。

「これをお美しいあなたに」

「あ、あれりがとうございます」

私は少し驚いてその花を受け取った。

一本の赤い薔薇で運命の人だとでも言いたいのだろうか?

あなたは私とアレイダの二股かけていますよね!

思わずそう言いそうになった。

駄目だ駄目だ。ここは我慢だ。

私は微笑んで誤魔化した。


「先日はアレイダ嬢が乱入してきて申し訳ありませんでした。どこから情報を得たのかは判りませんが、あそこまで強引に来られると本国との関係もあって無碍に出来ずに追い返せずに申し訳ありませんでした」

フェルディナントは先日のことを謝りに来たみたいだった。


「いえ、アレイダ嬢が来たのは驚きましたが、あの場で無理矢理追い返すのも出来ないでしょう。仕方がありませんわ。本来は王女の私がきつく言わないといけないのかも知れませんが、中々注意も出来ずに申し訳ありません」

私もフェルディナントに謝ったのだ。

本来フェルディナントは大国の皇子で私はその皇子の遊学先の王女でアレイダは臣下の娘なのだ。本来ならば私が注意しなければいけない立場だ。

もっとも立場的には宰相の娘の方が強いのかもしれないが……


「そう言って頂けると私もほつとします。でも、昨日はそれにプラスして、私からお呼びしたのに、私が大使に呼ばれて帰らなくてはならなくなってしまった。本当に失礼なことをして申し訳ありませんでした」

再度フェルディナントが頭を下げてきた。

「大使様も重要なお話だったのでしょう。フェルディナント様も大国の皇子殿下でいらっしゃいますから仕方がございませんわ」

私が笑って言うと

「そう言って頂けるととても有り難い。本当になんと言って謝まろうかと悩んできたのだが、ほっとしました」

フェルディナントは私に微笑みかけてきた。

「昨日の借りは必ず返させていただきますから」

フェルディナントが申し出てくれたが、二度とアレイダとやり合うのは嫌だ。


「でも、フェルディナント様もお忙しいでしょう。いろんな所に行くご用もおありでしょうから」

特にアレイダ様のお世話もありますし……

私は言葉の外にそう言ってみたのだ。


「いえ、私はカーラ様さえ宜しければ明日にでもお連れしますよ。私にとってカーラ様は何物にも代えがたい存在ですから」

フェルディナントはにこりと微笑んでくれた。見目麗しい殿方の微笑みは私には毒だ。ついそのまま頷いてしまいそうになった。

私は思わず頷いてしまいそうになる自分に首を振って、

「でも、そのようなことをしてはアレイダ様がまた文句を言ってこられますわ」

仕方なしに、はっきりと言ってみたのだ。

「何をおっしゃるやら。私はカーラ様さえ宜しいとおっしゃって頂ければ毎日のようにカーラ様をいろんなところにお連れしますよ。その方がカーラ様も安全ですし」

「安全ですか?」

私はフェルディナントの言葉に思わず聞き返していた。


「いえ、何でもありません」

フェルディナントは慌てて首を振ってくれた。

「わんわん!」

しかし、ころちゃんがここぞとばかりに吠えてくれた。


「また、私が襲われるとでも言われるのですか?」

私が不安になって聞くと、

「いえ、そうは言っておりませんが、私が一緒にいればカーラ様が襲われる心配はありませんから」

笑ってフェルディナントは誤魔化そうとした。

「誰かがそのような動きをしていると言うことですか」

「いえ、あくまでも一度ああいうことがありましたから、大事を思って言ったまでです。不安にさせたのなら申し訳ありません」

フエルディナントは謝ってくれた。


「ただ、何かあれば必ず私を頼ってほしい。私は必ずカーラ様の味方になりますから」

フェルディナントは意味深な言葉を残してその日は帰って行ったのだった。







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