「カーラ様。フェルディナント様がいらっしゃいました」
カーラの侍女のサーヤの言葉に俺は目を見開いた。
宰相の護衛隊長のマドックは二度とフェルディナントがカーラのところを訪れる訳はないと言っていたはずだ。カーラの部屋の中で護衛していたレイの瞳が一瞬瞬くのが見えた。
何しに来たんだろう?
フェルディナントはまだカーラを諦めていないんだろうか?
サーヤは当然そう思っているらしく急いでカーラを着飾らせていた。
俺はカーラに抱きかかえられてフェルディナントの一挙手一投足を見逃さないようにしようと目を凝らした。
「これはカーラ様。水の妖精のようにお美しい」
いきなりフェルディナントはカーラを褒めだしたのだ。
「これをお美しいあなたに」
キザなフェルディナントは、一本の赤い薔薇を差し出したのだ。
昨日の今日だ。フェルディナントはどうやらまだカーラを諦めていないらしい。
「先日はアレイダ嬢が乱入してきて申し訳ありませんでした。どこから情報を得たのかは判りませんが、あそこまで強引に来られると本国との関係もあって無碍に出来ずに追い返せずに申し訳ありませんでした」
フェルディナントは先日のことを謝りに来たみたいだった。
それに対してはカーラも謝っていた。
「そう言って頂けると私もほつとします。でも、昨日はそれにプラスして、私からお呼びしたのに、私が大使に呼ばれて帰らなくてはならなくなってしまった。本当に失礼なことをして申し訳ありませんでした」
再度フェルディナントが頭を下げてきた。
そうだ。そこで大使の要件を聞いてくれ!
俺はカーラに念じたが、カーラは要件には触れてくれなかった。
「そう言って頂けるととても有り難い。本当になんと言って謝まろうかと悩んできたのだが、ほっとしました」
フェルディナントはカーラに微笑みかけてきた。
「昨日の借りは必ず返させていただきますから」
フェルディナントが申し出てくれたが、本当にフェルディナントはまだカーラを諦めていないみたいだった。
「でも、フェルディナント様もお忙しいでしょう。いろんな所に行くご用もおありでしょうから」
「いえ、私はカーラ様さえ宜しければ毎日でもお連れしますよ。私にとってカーラ様は何物にも代えがたい存在ですから」
フェルディナントがそう言い切った。これは信じてもいいんだろうか?
でも、両方にそう言っている可能性もある。
「でも、そのようなことをしてはアレイダ様がまた文句を言ってこられますわ」
カーラの突っ込みにナイス突っ込みだと俺は思った。
「何をおっしゃるやら。私はカーラ様さえ宜しいとおっしゃって頂ければ毎日のようにカーラ様をいろんなところにお連れしますよ。その方がカーラ様も安全ですし」
「安全ですか?」
俺とカーラはフェルディナントの言葉に目を見開いた。
「いえ、何でもありません」
フェルディナントは慌てて首を振ってくれた。
「わんわん!」
いや、ここはもっと聞け!
俺はカーラに叫んでいたのだ。
「また、私が襲われるとでも言われるのですか?」
カーラが心配そうに聞いてくれた。
「いえ、そうは言っておりませんが、私が一緒にいればカーラ様が襲われる心配はありませんから」
笑ってフェルディナントは誤魔化そうとした。
「誰かがそのような動きをしていると言うことですか」
よく尋ねた! 俺はカーラに拍手したくなった。
「いえ、あくまでも一度ああいうことがありましたから、大事を思って言ったまでです。不安にさせたのなら申し訳ありません。ただ、何かあれば必ず私を頼ってほしい。私は必ずカーラ様の味方になりますから」
フェルディナントは意味深な言葉を残して帰って行ってくれた。
考えるにフェルディナントの意味深な言葉を聞く限りは、宰相が近々何かしようとしているのは明確だった。そして、フェルディナントを見る限り、できるだけカーラに役立ちたいと思っているのは確かなようだった。
さて、どうしようか?
ここは、あまり悩んでいる時間はない。
俺は必死に考えた。
カーラが寝た後もカーラの胸の中で考えた。
宰相の計画の詳細を調べないといけない。それには宰相の館にもう一度忍び込む必要があった。
でも、その前に出来たら、フェルディナントを味方に付けないといけなかった。
それに国王達に宰相の動きを伝えておいた方が良いだろう。
でも、どうやってそれを伝えるかだ。
俺がわんわん吠えても絶対に伝わらない。
俺が白い騎士に戻って説明したらどうだろう? でも、俺が人間に戻るには3日間カーラ絶ちをしなければいけない。でも、そんな時間はないし、俺様が人間の姿に戻ったところで国王が俺の話を信じてくれる保証はなかった。
俺が助けたカーラなら信じてくれると思うが、そもそも白い騎士がころちゃんだと打ち明けないといけない。そんなことしたらカーラに軽蔑されるかもしれない。何しろ俺はカーラと一緒に風呂にまで入っているのだから……
下手したらそれが判った段階でアウトだ。二度とカーラは口をきいてくれないだろう。
どうしたものか?
俺は焦りだした。
そうだ。手紙を残すのはどうだろう。俺は良いことを思いついた。
俺が口にペンを咥えればなんとか手紙を書けるはずだ。そこに白い騎士からと書けば良いだろう。カーラを助けた騎士だ。信憑性は増すはずだ。
でも、そうすると白い騎士がころちゃんだと打ち明けないといけなくなる。
そうしたら、完全にカーラに嫌われること確実だ。
どうしたものだろう?
俺はカーラの寝顔を見た。
そうだ。白い騎士のペットがころちゃんということにしよう。
俺はとても良いことを思いついたのだ。
それが信じられるかどうかはまた別の問題だが、取りあえずそれが一番無難なように俺には思えたのだ。