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第63話 ころちゃん視点 宰相の息子は王女に危険を知らせる手紙を蛙の使い魔に託しました

俺は長居しすぎたことに気付いた。

慌てて、部屋に戻ろうとした。


「シロちゃん! シロちゃん」

俺はコリーが探しているのに気付いた。

良かった、衣装棚の扉を閉めて置いて。俺はほっとした。


「シロちゃん、隠れても無駄よ」

コリーがベッドの下を見ている間に俺はベッドの上に飛び降りたのだ。


ドンっ

ト少し音が鳴った。

失敗した。俺はひやりとしたが、誤魔化すために、慌てて、コリー目がけて駆けだしたのだ。


「えっ」

コリーは慌てて俺がベッドの上にいるのを見て、驚いた。

「わんわん」

俺はそのコリーの胸に飛び込んでいた。

「もう、ころちゃんったらどこにいたのよ」

俺を抱きしめたコリーは半分泣きそうになっていた。

俺はその目からこぼれ落ちそうな涙を舐めてやったのだ。

「良かった。いてくれて。また、いなくなっていたらどうしようと思ったんだから」

コリーはそう言うと俺を思いっきり抱きしめてくれたのだ。


俺はカーラに少し悪いと思いつつ、ここは我慢して、コリーの好きにさせていたのだ。


コリーがお昼をくれて、去って行くと、俺は慌てて食事を駆け込むと、部屋を抜け出したのだ。

あんまり時間がない。


俺はゆっくりと邸内の天井裏を誰かが話していないか探りながら歩いたのだ。


「くっそう、親父達、絶対にカーラに何かする気だ」

俺は大きな呟きを聞いた。

天井裏の隙間から見るとそれはこの息子のベンヤミンの部屋だった。


ベンヤミンはベッドに横たわって天井を見ていた。

俺は目が合いそうになって慌てて顔を引っ込めた。


「どうしよう?」

もう一度そうっと除くとぼけっとしたカエル顔で上を見ていた。

その様は本当に間抜けな顔だった。

でも、さっきの宰相の言葉は信じていないようだった。

少しは頭も回るみたいだった。


「そうだ」

そう叫ぶといきなりベンヤミンは起き出したのだ。

そして、机の前の椅子にしわると便せんを出して何か書き出したのだ。

今度は俺でも何を書いているか見えた。

『我が愛しの姫君へ』

な、何をこいつは書いているのだ?

俺には最初は意味がわからなかった。

いや、恋文は判るが、このカエル男が俺の愛しのカーラに手紙を書いているのが理解できなかった。というか、許せなかった。


『子供の頃、王宮で見たあなたはとても可愛かった。

俺は以来あなたの事が忘れられません。

そんなあなたを思い描いてあなたの絵を何十枚も描きました」

それはおやれも知っている。こいつの部屋はカーラの絵だらけだ。いやらしい絵を描いていないからまだ許しているが、そんな絵を描いていたら、いくら温厚な俺でもこいつを斬り殺していた。


『しかし、俺からの婚姻の申し込みを断られたと父からは言われてとても悲しく思いました』

断られるのは当然だろう!

俺は軽蔑した視線をベンヤミンに向けた。


『でも、妹や侍女達が俺の顔を見て陰でガマガエルと呼んでいるのを知っているので、当然のことだと思います。俺のこの顔は気持ち悪いですよね』


えっ、俺はその文面を見て、目を見開いた。そうか、このガマガエルも自分の顔のことは理解しているんだ。まあ、前世の行いが悪かったからこんな顔に生まれたのだと思うが、少しはガマガエルに同情した。

でもこいつは手紙で何がしたいんだろう?

俺にはよく判らなかった。


『私があなたと結婚できれば父や妹からあなたのことを守れると思ったのです』

ガマガエルは見当違いのことを書いていた。

カーラがこんな家に嫁入りしたら、貴様云々よりも鬼姑と鬼小姑にいびり殺されるだろうが!


『母や妹は性格もきついですが、妹はサウス帝国の皇子に嫁入りするみたいですから、この屋敷からはいなくなりますし、母一人ならは私でもなんとか出来ると思ったのです』

お前では到底あの鬼姑には勝てないぞと俺は思いつつ、このガマガエルが少しは男意気があるのに感心した。


『まあ、私の思いはあなたには通じませんでしたが……』

当たり前だ! カーラが貴様なんかガマガエルの事を見る訳ないだろう!

俺は心の中で叫んでいた。


『まあ私の思いは置いておいて、ここからが本題です』

遅いわ!

俺は盛大に突っ込んでいた。


『父やノース帝国の動きが怪しいです』

えっ、こいつ、実の父を売るのか?

俺は驚いた。


『もっと具体的に書くと父達はノース帝国と組んで陛下を亡き者にしようとしています。あなたの事も出来たら殺したいようです』

このガマガエルがここまで書くとは思ってもいなかった。


『あなたが無事なら私の妻にして守ろうと思いましたが、父は下手したらあなたを兵士達の慰み者にする気かも知れません。特にサウス帝国の王子があなたに気があるようだと妹が憤っていましたから、妹が何か画策するのは確実です』

おのれ、宰相らめ。絶対にそんなことはさせん。後で絶対に酷い目に遭わせてやるわ!

俺は心に決めたのだ。


『そうなったら私ではおそらく助けられないです。だから、この手紙を受け取ったらすぐに逃げてください。

手紙を送ることしか出来ないこんな私をお許しください。

昔の友より』


そう書くとベンヤミンは封をしたのだ。

でも、この手紙をどうするつもりだ?

執事に渡してもそのまま宰相の手に渡るのは確実だった。


「ガマ君」

ベンヤミンが叫んだのだ。


「ゲロ」

そこにはガマガエルが現れたのだ。

こいつ使い魔をガマガエルにしているのか?

俺は開いた口が塞がらなかった。

そうか、昔、カーラが驚いたガマガエルって使い魔のことだったんだ。

でも、ガマガエルを使い魔になんてしているからカーラが嫌がるのだ。

こいつは根本的な事が理解できていない。


それにガマガエルがカーラの前に出てもカーラが悲鳴を上げる未来しか見えないんだが……


「これを昔会ったカーラ王女に届けてほしい」

「ゲロ」

そう鳴くとガマガエルはベンヤミンの手紙を口に咥えたのだ。


「頼んだぞ。ガマ君」

ガマガエルは頷くと、ベンヤミンの机から飛び降りて、ピョコピョコ飛び出したのだ。

でも、そのスピードはとてもゆっくりだった。

こんなゆっくりしたスピードで動いていたら果たして王宮に着けるのか?

着いても何日もかかりそうだ。

ガマガエルが王宮に着いた時はもう事が終わっているのではないか?

俺はベンヤミンがやろうとしたことは褒めたかったが、その運搬の方法にあきれかえってしまった。



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