俺はそのままコリーの部屋に帰って、ベッドの上に飛び降りたのだ。
「うーん」
音に驚いたのかコリーが寝ぼけ眼で目を開けたので、俺は慌ててコリーの胸の中に戻ったのだ。
「しろちゃん」
俺はカーラにぎゅっと抱きしめられたのだ。
カーラより遙かに大きな胸は俺が寝るには柔らかくて気持ちが良かった。
カーラに心の中で詫びつつ、俺はコリーの胸の中で寝たのだ。
翌朝、早くにコリーは起き出して食事に出て行った。
そして、朝食をなんとかくすねてきてくれたのだ。
「じゃあ、しろちゃん。静かにこの部屋で待っているのよ。どこにも行ったらだめだからね。お昼はちゃんともらってきてあげるから」
「わん!」
俺はコリーに抱きしめられて小さく吠えてやったのだ。
もっとも言うことを聞く気は全くなかったが……
コリーが部屋を出た途端に、俺は衣装棚の扉を開けて扉を駆け登ったのだ。2回目は1回目よりも上手くいった。
そして、早速二階のこの館の主の宰相の部屋に行ったのだ。
王宮に出仕しているだろうと思って宰相の部屋を隙間から覗くと、何故か宰相はいた。
何故王宮に出ていないのだ?
そう思いつつ、上から見ると一生懸命何かの書類に目を通して、サインしていた。
中身が見れれば良いのだが、さすがの俺も天井からでは書類まで読めなかった。
でも、一人で作業しているのをじつと見ていも情報は得られない。
そろそろ他を当たろうかといい加減に思い始めた時だ。
ノックがして男が入ってきた。見た感じ執事のようだった。
「旦那様。王宮に行って参りました」
「おお、どうだった?」
「宰相府の方々には旦那様が今日も風邪で休むとお話ししてきました」
「何か言っておったか?」
宰相が書類を離して執事を見た。
「旦那様がいないと仕事がはかどらないみたいで、皆様困っていらっしゃったようでした」
「まあ、儂がいないとどうしても決裁書類が溜まってしまうじゃろう」
目を細めて、宰相は笑った。
「よろしかったのですか? 今日も休まれて」
執事の言うにはもう三日間も休んでいるらしい。
「ふんっ、かまうものか。国王等は何か言ってきたか?」
「陛下等も旦那様がいらつしゃらないことには大変みたいで、まだこれないのかと毎日のように宰相府には問い合わせがあるようです。」
「まあ、しばらくは儂は風邪で休みじゃ。ふんっ。儂の息子とカーラ殿下の婚約の話を断ってきたくせによく言うわ。国王等にはそのことを後悔させてやる」
苦虫をかみつぶしたような表情を宰相はした。
「さようでございますな。坊ちゃまとの婚姻を断ったことを陛下等はとても後悔なされましょうな」
「まあ、気づいた時は、国王も屍に変わっておるがな」
そう言うと宰相は笑ってくれた。
やはり宰相は反逆する気満々みたいだ。
「ノース帝国の兵士達はいつ頃こちらにこれそうなのだ?」
「何人にもわけて変装してこの館に来るみたいで、もう一週間はかかるかと」
「そうか。全員揃った三日後に決起かの」
宰相は重要なことを漏らしてくれた。
一週間と三日で十日後だ。
俺は今更ながら時間が無いことに気づいた。
「旦那様はそれまで王宮には行かれないので?」
「そうじゃな。風邪をこじらせて重病になったとでも言っておけば、奴らも油断するじゃろう」
「そして、全快したと言って挨拶に行った時に陛下に斬りかかられるのですか」
「それも良いが、そこはじっくり考えないとのう」
宰相は顎を掴んで考えてくれた。
「カーラ王女はどうされるのですか?」
「その時の状況に寄るな。一応生け捕りにしろと命じてはいるが、兵士達のことだ。何が起こるかは判らん」
「兵士達におもちゃにされることもあり得ますな」
「まあ、その時は仕方なかろう」
二人がいやらしい笑みを浮かべた。
俺はこの二人は許せないと歯ぎしりしたのだ。
「誰だ?」
急に宰相が叫んでいた。
俺は自分の存在がばれたのかとぎくりとした。
しかし、次の瞬間、執事がいきなり扉を開けてくれたのだ。
そうしたらその扉から転がり出てきたのはガマガエルこと宰相の息子だった。
ドシンッ
と大きな音を立てて地面に激突していた。
「ベンヤミンか。どうしたのだ?」
「父上。カーラ王女は事が終わった暁には私に頂けるのでは無かったのですか」
ガマガエルが痛みも気にしないで怒っていた。
「基本はそうじゃと申しているではないか」
しかし、宰相は息子に笑っていた。
「しかし、今、兵士達のおもちゃにされるかもしれないとおっしゃられていましたが」
眉をつり上げてベンヤミンは父親に指摘していた。
「いや、状況によってはどうなるかは判らないと言っていただけだ。」
「さようでございますか? 陛下についても幽閉するだけだと聞いてような気がするのですが、今の話では弑逆すると聞こえましたが……」
ベンヤミンは顔に似合わず正義感が強いようだった。
「ベンヤミン。その方は黙ってみておれば良かろう。その方に悪いようにはせん。その方は儂の跡取りなのだからな」
そう言われたベンヤミンは顔を一瞬しかめたが、
「しかし、父上」
「ベンヤミン。もう良い。自分の部屋に行って静かにしておれ」
宰相は執事に合図した。
「ベンヤミン様。ここにいてはお父上の仕事の邪魔になります。自室に戻られてカーラ様の絵でも描かれればよろしかろう。さあ、お前達もベンヤミン様をお部屋にお連れしろ」
「坊ちゃま。お部屋に戻りましょう」
後ろから顔を出した騎士達がベンヤミンを促した。
「父上、カーラ王女の件、約束ですからね」
「ああ、判った判った」
鷹揚に宰相は頷いた。
この感じては聞いていないなと俺は思ったが、納得したようにベンヤミンは下がって行ったのだ。
ガマガエルは言うことは一人前だが、あんな言葉で引き下がるようでは大したことは無い。たとえ、宰相が反逆して成功しても次代はノース帝国の傀儡になるのは確実だと俺には思えた。