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第65話 ころちゃん視点 傭兵小屋には王宮の地下牢に捕まっているはずの傭兵達が何故かいました

翌朝、俺はコリーの胸の中から起き出した。

今日も空は晴れていた。太陽の光が窓のカーテンの隙間から降り注いでいた。

その光が無邪気に寝ているコリーの顔を照らしていた。


俺はこの宰相の館に二回も隠して俺を中に入れてくれたコリーに感謝の気持ちで一杯だった。

その感謝の意味を込めて、俺はペロペロコリーを舐めてやったのだ。

「えっ、ころちゃん、おはよう」

カーラは眠そうに目をこすりながら俺を抱きしめてくれた。


カーラは起き出して身支度を調えると食堂にご飯を食べに行った。


宰相の反逆まであと1週間くらいだ。

今日こそはノース帝国の兵士達が来る時間を正確に掴まないと!

そのためには今日は足を伸ばして前に俺がいた傭兵達の小屋まで行ってみよう。

俺は気を引き締めた。


そうだ。感傷に浸っている暇はないのだ。


「しろちゃん。今日は静かにしているのよ」

コリーは戻ってきて俺に食事を与えてくれながら、話してくれた。

衣装棚の扉は開かないように紐で止めてくれたんだけど。

まあ、それはいざとなったらどうでもなる。


「わん!」

俺はコリーに元気に返事したのだ。

心にも無い返事を!


「じゃあ、行ってくるわ」

笑顔でコリーは出ていった。

「わんわん!」

一応周りにはバレないように俺は小さく吠えたのだ。

そう、今まで面倒見てくれてありがとうとお礼を吠えたのだ。


そしてコリーの足音が遠ざかると、俺は飛び上がって、扉の取っ手を二つ結んでいる紐に手をかけたのだ。そして、噛み付いたのだ。

歯を引っかけると思いっきり引いたのだ。

ビリと紐が切れた。


そして、扉を開ける。


俺は絶対に登っては行けないとコリーから言われていた衣装棚の扉を駆け上った。


そして、天井の隙間から天井裏に飛び乗ったのだ。

そのまま天井裏屋根裏を歩いて、配管のところまで行くと今度は一階に降りた。子犬の体だからギリギリ通れるのだ。それでも二三回引っかかった。俺は苦労してなんとか、一階に降りた。そして、外に出られないか探ってみたのだ。

配管はそのまま地下に繋がっているんだけど、俺は地上に出たいのだ。

出られないのなら、一階の天井裏から開いている部屋に飛び降りて外に出た方が良かったか、と俺は少し後悔した。俺が成人の犬ならば木の壁を突き破ることも出来たかもしれないが、子犬の体では難しい。


俺は丹念に壁を調べると、一カ所、木が嵌めてある所を見つけたのだ。

手でトントンと叩いてみるとスポンと外れた。

何でこんな事になっているのか判らなかったが、この隙間なら俺一匹くらい簡単に出られる。


俺は周りを注意深く見回した。

見る限り誰もいない。

すぐ傍に植栽があるのを確認して、俺は注意してゆっくりと外に降り立った。

そして、植栽まで一気に走る。そこで息を潜めて辺りを確認すると、気付いた者はいないみたいだ。

朝まだ早いからかあまり人もいなかった。


俺は植栽続きに見つからないように走って林の中に入ったのだ。

そして、道なき道を突き切って傭兵小屋に向かったのだ。


子犬の体では結構大変だったが、十分くらいで傭兵小屋に着いた。


傭兵小屋は外から見ても誰がいるかは判らなかった。


窓も全て閉まっていた。


どうしたものかと思って隠れて見ていると、傭兵小屋の扉が開いたのだ。

丁度良かったと俺は出てきた男を見て驚いた。


なんと、出てきた男は俺をこの小屋で飼ってくんれていたベイルだったのだ。

俺は目を見開いていた。

何故ベイルがここにいる?

本来ベイルは王宮の地下牢にいたはずだ。

俺は見間違いかどうか、もう一度よく目を凝らして見た。

でも、無精ひげが伸びた点を除けば確かにベイルだった。


どうして地下牢にいるはずのベイルがここにいるんだろう?

俺が不審に思って見ていると


「ああああ、久しぶりの柔らかい寝床は最高だったな」

なんとそこには伸びをしたブルーノまで出てきたのだ。


こいつらあの王宮の地下牢を脱走してきたのか?

でも、王宮の地下牢を脱走など出来るのか?

こんな事なら王宮の地下牢も見ておけば良かった。

俺は後悔したのだ。


「そうだな。本当にここしばらくは硬くて冷たい石の上で寝さされていたからな」

ベイルもため息をついて文句を言っていた。


「本当ですぜ。昨日は柔らかいのベッドの上で久しぶりにゆっくり出来ました」

そう言いながらもう一人出てきた。この男は俺も長屋で一緒に寝たことのあるベイルの手下だった。


「でも、俺としたらどのみち柔らかい布団で寝られるなら久しぶりに女を抱いて寝たかったぜ」

ブルーノがそう残念そうに話すと、

「まあ、そう言うな。宰相閣下もわざわざ事を起こす前に、俺達全員を助けてくれたんだ。そこは感謝しておけ」

ベイルがブルーノを慰めた。

「ふんっ、それだけ俺達の事を頼りにしているということだろう」

そう言うとブルーノは大きなあくびをした。

「しかし、王宮の地下牢の番人まで寝返っているんじゃ、王国もどうしようもないな」

ブルーノの言葉に

「それだけ宰相閣下の力が強いと言うことさ」

ベイルが言うと

「そうにちげえねえ」

皆頷いて笑い出したのだ。


こいつら三人がいると言うことは捕まえた十人全員が逃げ出したということだろう。

せっかく王宮には宰相の反逆に注意しろと書き置きを置いてきたのに、王国の連中は何をしているのだ?

俺は破落戸どもを逃がした王国の連中の油断に怒りを覚えた。

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