俺様は敵を斬り倒した時、白い騎士として初めてフェルディナントと顔を合わせた。
「貴様が白い騎士か」
フェルディナントが声をかけてきた。
「遅いではないか。貴公には宰相の反乱の折は国王と王女を助けるように頼んでいたはずだ」
俺は大上段に構えて言ってやったのだ。
「な、そもそもどこの誰かもしれん白い騎士などの言うことをサウス帝国の王子である俺が簡単に聞けるとでも思っているのか? そもそもその方は何者なのだ。」
フェルディナントが言い返してきた。
「俺はカーラ殿下の白い騎士だ」
俺は新たな敵が走ってきたのを見てフェルディナントも見ずに伝えた。
「カーラ様の白い騎士など、カーラ様から聞いたことはないぞ」
「そういう事は後回しだ」
俺は斬りかかってきた敵を一刀両断にした。
「後で必ずきちんと話せよ」
「お互いに生きていたらな」
俺はそう言うと、次の敵を斬り裂いていた。
フェルディナントらも敵と相まみえる。
腕は折れと比べると遙かに劣るが、フェルディナントも少しは剣が使えるようだ。
そんな時だ。50人ほどの兵士達を率いて宰相の護衛隊長のマドックが現れた。
俺はマドックをやりたかったが、その前に兵士達が斬りかかってきてくれた。
それを躱しつつ、次々に斬り倒していく。
兵士達の腕は大したことはなかった。
「マドック、さっさと白い騎士を処分しろ。サウス帝国の騎士など大したことはないぞ」
なんと、宰相の声が聞こえたのだ。
そちらを見ると宰相はカーラを捕まえて連れていた。フェルディナントはこちらではなくてカーラの所に向かってくれたら良かったのに!
俺は失敗したと悟ったのだ。
「はっ、判りました」
マドックが剣を構えて俺の前に出てきた。
マドックが上段に剣を構えた。ゆっくりと俺に近付く。
俺は下段に構えたままだ。そのままゆっくりと前に歩いていく。
次の瞬間、
「やああああ!」
マドックが叫ぶと距離を一気に詰めて上段から剣を振り下ろしたのだ。
ガチン!
下段から振り上げた剣で俺は受けた。
次の瞬間、飛び退りざまにマドックが剣を横に薙ぎ払った。
それを剣で受けつつ、一気に俺は前進した。
ズバッ
次の瞬間、マドックのふところに俺は飛び込んで剣で下段から斬り上げていた。
「ギャッ」
マドックは叫び声を上げるとゆっくりと地面に倒れたのだった。
「凄い! 白い騎士様が勝ったわ!」
遠くでカーラの喜びの声が聞こえた。
宰相は驚いた顔をしていた。
宰相の兵士達もマドックが倒されて動揺しているようだ。
「カーラ!」
俺は紐で後ろ手に縛られたカーラを見て驚いた声を出した。
「カーラ様!」
後ろからフェルディナントも同じく声を出しくれた。
「騎士様!」
カーラがそう呼んでくれた。
「宰相、ヘルブラント・レーネン! 貴様はこの国モルガン王国の宰相でありながら、反逆を企むなど、言語道断。ここに成敗してやる」
俺はそう唱えると剣を構えた。
早くしなければなるまい。
「ふんっ、何をほざく、流浪の騎士よ。私はこの国で一番力があるのだ。力のある者が王にならずしてどうするというのだ」
「ふんっ、反逆者の言うことはいつも同じだな」
「なんとでも言うが良い。私の行動はノース帝国の皇帝陛下の許可を得ているのだ。事が成った暁にはなんとでもなるわ。それよりもその方、流浪の騎士であろう。その方さえ良ければ我が配下にならぬか? 王国に幾らもらっているか判らぬが、今ならば、この国の騎士団長にしてやるぞ」
宰相がふざけたことを言ってくれた。
「ふん、私はカーラ王女の白い騎士だ。貴様の勧誘など幾ら金を積まれてもならんな!」
俺は宰相の誘いを一顧だにせずに拒絶したのだ。
「白い騎士様!」
俺の拒絶の言葉にカーラが喜んでくれた。
ここまで頑張っていろいろやった甲斐があった。
「ふんっ、カーラ王女の騎士か。ではこれでどうだ?」
なんと、宰相はいきなりカーラの縄を引くと、カーラを後ろから抱き寄せるとカーラの首筋に剣を突きつけてくれたのだ。
「白い騎士とやら。降伏せよ。さもなくば王女の命がないぞ」
「卑怯な、何をするのだ」
俺は動揺した。
「な、何をするんだ。レーネン、卑怯だぞ」
後ろからフェルディナントも文句を言ってくれた。
「これはこれはフェルディナント様ではありませんか。我が方に味方するとおっしゃって頂いたはずですが、これはどういう事ですかな」
「何を言う。私は反逆など認めたことはない。それを証拠にこうしてカーラ王女を守るために駆けつけたのだ」
「ふんっ、物はいいようですな。まあ、どちらでも良いのですが、全員、王女の命が大切ならば剣を捨ててもらいましょうか」
「何をしている。貴様こそ剣を捨てろ。騎士団が帰って来れば貴様に勝ち目はないぞ」
「帰ってくる前に王女が死にますが」
レーネンは笑ってくれた。
「私のことなど構わずに、宰相を殺してください」
カーラが健気にも叫んでいた。
「ふん、生意気な王女だな」
宰相はカーラの首筋に剣を突きつけてくれたのだ。信じられなかった。俺の頭の線が一本切れた。
カーラの首筋から一筋の血潮が流れた。
絶対に許さない。
「さあ、剣を捨ててもらいましょうか」
宰相がヒステリックに叫んでくれた。
「私のことなどどうでも良いのです。さっさと私ごと宰相を殺してください」
カーラの叫びを俺は聞いていなかった。
「煩い! いい加減に静かにしろ!」
宰相が叫んでいた。
「判った、剣を捨てよう」
俺はそう言うと宰相目がけて歩きだした。
太陽の位置と宰相の位置を見る。
「騎士殿!」
フェルディナントの声を無視した。
「やむを得ん。カーラ様の命の方が大切だ」
そう言って俺は近付く。
そして、俺は前に剣を捨てようとして思いっきり上に投げたのだ。
「えっ?」
思わず周りの者達は俺の投げた剣を見たのだ。
剣は大きく空に向かって投げられていた。
そして、顔を上げた宰相の視界に太陽が入ったのだ。
「うっ」
宰相が声を上げた。
その瞬間を待っていたのだ。
俺は一瞬で宰相の前に出ると、腰の短剣を宰相の胸に突き刺したのだ。
「ギャーーーー」
同時に宰相の剣を握ると、宰相を突き倒してした。
宰相は吹っ飛んでいた。俺の手に剣を残して。
そのまま、倒れそうになったカーラを俺は抱き留めたのだった。
「騎士様」
俺はカーラに抱きつかれていたのだ。
「閣下!」
敵兵は慌てたが、総大将がやられたのだ。
残った兵士達は動揺した。
「「「ウォーーーーー」」」
丁度その時になってやっと騎士団が間に合ったのだ。
「陛下! ご無事ですか!」
大声を上げて騎士達が突入してきたのだ。
残った宰相の兵士達は一溜まりもなかった。全員逃げようとしたが、あっという間に殺されて、生き残った者は降伏したのだった。