「凄い! 白い騎士様が勝ったわ!」
私は小躍りして喜びたかった。
「マドックがやられるなんて、馬鹿な!」
でも、私の前には動揺して思わず倒された護衛隊長の名を呟いた敵の宰相がいた。ここは刺激しない方が良いだろう。
「まさか、マドック様がやられるなんて」
宰相の兵士達もマドックが倒されて動揺していた。
私が大人しくしていようと思った時だ。
「カーラ!」
紐で後ろ手に縛られた私を見て白い騎士様が驚いた声を出した。
「カーラ様!」
その後ろのフェルディナントも同じく声を出したが、私はフェルディナントなんて見ていなかった。
白い騎士様が私の名前を呼んでくれたのだ。
まさか、白い騎士様が私の名前を読んでくれるなんて思ってもいなかったのだ。白い騎士様は私に伝言を残して助けてくれようとした。名前を知っているのは当然と言えた。でも、その口からはっきりと呼ばれるなんて思ってもいなかったのだ。
「騎士様!」
私は自分の立場も忘れて感激のあまり思わず声を出していた。
「宰相、ヘルブラント・レーネン! 貴様はこの国モルガン王国の宰相でありながら、反逆を企むなど、言語道断。ここに成敗してやる」
騎士様はそう言うと剣を構えてくれたのだ。
それはとても凜々しかった。
「ふんっ、何をほざく、流浪の騎士よ。私はこの国で一番力があるのだ。力のある者が王にならずしてどうするというのだ」
それを聞いて宰相が言い返した。
「ふんっ、反逆者の言うことはいつも同じだな」
「なんとでも言うが良い。私の行動はノース帝国の皇帝陛下の許可を得ているのだ。事が成った暁にはなんとでもなるわ。それよりもその方、流浪の騎士であろう。その方さえ良ければ我が配下にならぬか? 王国に幾らもらっているか判らぬが、今ならば、この国の騎士団長にしてやるぞ」
宰相は白い騎士様の勧誘を始めたのだ。
私は青くなった。白い騎士様が宰相の手のものになったら到底勝ち目はない。
「ふん、私はカーラ王女の白い騎士だ。貴様の勧誘など幾ら金を積まれてものらん!」
白い騎士様は宰相の勧誘を断ってくれた。
「白い騎士様!」
私はその言葉がとても嬉しかった。
「ふんっ、カーラ王女の騎士か。ではこれでどうだ?」
宰相はいきなり私の縄を引くと、私を後ろから抱き寄せると私の首筋に剣を突きつけてくれたのだ。
「白い騎士とやら。降伏せよ。しなければ王女の命がないぞ」
宰相は言い放ってくれた。
「卑怯な何をするのだ」
白い騎士様は動揺した。
「な、何をするんだ。レーネン、卑怯だぞ」
後ろからフェルディナントも文句を言ってきた。
「これはこれはフェルディナント様ではありませんか。我が方に味方するとおっしゃって頂いたはずですが、これはどういう事ですかな」
宰相が嫌みを言ってくれた。
「何を言う。私は反逆など認めたことはない。それを証拠にこうしてカーラ王女を守るために駆けつけたのだ」
フェルディナントは私を見てくれた。
「ふんっ、物はいいようですな。まあ、どちらでも良いのですが、全員、王女の命が大切ならば剣を捨ててもらいましょうか」
「何をしている。貴様こそ剣を捨てろ。騎士団が帰って来れば貴様に勝ち目はないぞ」
「帰ってくる前に王女が死にますが」
レーネンは笑ってくれた。
「私のことなど構わずに、宰相を殺してください」
私は叫んでいた。この国のために殉じる事など物心が付いた時から覚悟はしていた。
宰相の野望を打ち砕くためならば本望だった。
「ふん、生意気な王女だな」
宰相は私の首筋に剣を突きつけてくれた。
私は首元にチクリと感じて熱くなった。
血が少し流れたみたいだった。
「貴様、なんと言うことをするのだ」
フェルディナントが動揺して叫んだ。
「さあ、剣を捨ててもらいましょうか」
宰相がヒステリックに叫んでくれた。
「私のことなどどうでも良いのです。さっさと私ごと宰相を殺してください」
私も叫んでいた。
「煩い! いい加減に静かにしろ!」
宰相が叫んでいた。
「判った、剣を捨てよう」
白い騎士がそう言うとこちらに歩き出したのだ。
「騎士殿!」
フェルディナントは驚いて白い騎士を見た。
「やむを得ん。カーラ様の命の方が大切だ」
その間も白い騎士はぐんぐん近付いてきた。
そして、白い騎士が剣を前に捨てようと手を前に投げだした時だ。
その剣を思いっきり上に投げ捨てたのだ。
「えっ?」
思わず周りの皆は騎士の投げた剣を見たのだ。
剣は大きく空に向かって投げられていた。
そして、顔を上げた宰相の視界に太陽が入ったのだ。
「うっ」
宰相が声を上げた。
私も剣を見ていたので、思わず視界が真っ白になった。
しかし、その前に私は白い騎士様が目の前から消えたのがみえた。
瞬時のことに何が起こったか判らなかったが、
「ギャーーーー」
後ろから宰相の叫び声がして、宰相の手と剣が私から離れるのが判った。
思わず、バランスを崩した私は倒れそうになった時にがっしりとした腕に抱き留められるのを感じた。
この感覚はこの前白い騎士様に助けられた時と同じだった。
白い騎士様に抱き留められていたのだ。