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第82話 白い騎士が宰相の護衛隊長を斬り捨てました

「申し上げます。国王の執務室に向かった傭兵部隊は殲滅されました」

兵士の報告は私には信じられなかった。宰相の兵士達に突入されて、もうとっくにお父様は殺されたと諦めていたのだ。


「何だと!」

「どうしたというのだ? そんなに多くの兵士は残っていなかったはずだ。傭兵部隊は腕に覚えのある者を高額で雇ったのだぞ。そう簡単に殲滅などされるはずがなかろう」

伝令の報告に宰相もマドックも慌てた。

「サウス帝国の騎士が30名、王国に味方したようです」

「何だとフェルディナントが裏切ったと言うのか」

宰相も護衛隊長も目を見開いていた。

私はほっとした。フェルディナントがこちらに付いてくれたのだ。これでまだなんとかやれる。


「マドック、どういう事だ? サウス帝国がこちらに付くのは確実だとその方が申しておったではないか」

宰相がマドックを睨み付けた。

「大使からは皇帝陛下の承認を得たと聞いていたのですが……状況の変化があったようですね」

「フェルディナントが裏切ったか?」

唇を噛んで宰相は悔しがった


「王女。フェルディナントに女の武器でも使われましたか」

憎々しげに宰相は私を見てくれた。

「さあ、何の話でしょう。反逆など起こす非常識にフェルディナント様はついて行けなかったのでしょう」

私は嫌みを言ってやったのだ。


「ふん、そのような強がりいつまで続きますかな。敵は高々30人だ。全軍で押し包んで斬り殺すのだ。行け、マドック」

「はっ、直ちに」

50人ほどの兵士達を率いてマドックはお父様の執務室に向かってくれた。

30人では中々苦しいのではないか。でも、フェルディナント様の騎士達は一騎当千かもしれない。宰相の兵士も300くらいなのだ。騎士団長が帰ってきたら逆転できる。

私は希望が持ててほっとした。


「ふんっ、高々30騎では大したことも出来まい。こちらは500の兵力があるのだ」

宰相は多めに言ってくれたようだが、そこまでの兵力はないはずだ。そうお父様達には聞いていた。


「申し上げます!」

そこにまた、伝令が飛び込んできた。

「国王を殺したか?」

宰相が聞く。

「それが、一人の白い衣装を着た騎士がやたら強く、我が軍は苦戦しております」


白い騎士ってひょつとして白い騎士様?

まさか、私の危機にまた助けに来て頂けたのだろうか?

私はその白い騎士という言葉に、こんな時なのに心が躍った。


「何だと! 白い騎士だと。訳がわからんな。前の襲撃の時に王女を助けた騎士か?

ええい、ここにいてはらちがあかんわ。私もそそちらに向かう。王女も来い」

「キャッ」

私は宰相に引きずられて連れて行かれようとした。

「姫様に乱暴は許しません!」

サーヤが宰相の前に立ち上って止めようとしたが、

「ええい、退け」

「キャッ」

宰相に蹴飛ばされてサーヤは地面に転けていた。


「サーヤ!」

「さっさと来い!」

私がサーヤの所に駆け寄ろうとしたが、宰相の力強い力に強引に引きずられて、私は部屋の外に連れ出された。


「姫様!」

「ええい、静かにしろ!」

「キャーーーー」

サーヤが殴られた音がした。


「乱暴は止めて!」

私が叫ぶが、

「煩い。侍女のことよりも自分のことを心配したらどうだ?」

宰相がそう言うと私をどんどん先に引きずって行った。


そして、連れて行かれたその先で兵士達に囲まれたフェルディナント達を見たのだ。でも、私はフェルディナント達は目にも入らなかった。その前で剣を構えて縦横無尽に動きまくっている一人の白い騎士しか見えなかったのだ。


「白い騎士様!」

私は思わず声を出した。

その姿は私を破落戸どもから助けてくれた凜々しい白い騎士様だった。



サウス帝国の騎士達は20人くらいしか見えなかった。

中庭で20人が100人くらいに囲まれているのだ。

その向こうはお父様の執務室で、執務室の前にも騎士達が剣を構えて守っていた。


「ほおおおお、やはりあの男が王女を攫うのを邪魔してくれた白い騎士か」

宰相は忌々しそうに呟いた。


「マドック、さっさと白い騎士を処分しろ。サウス帝国の騎士など大したことはないぞ」

宰相が叫んでくれた。


「はっ、判りました」

マドックが剣を構えて白い騎士の前に出る。

「王女よ。マドックはこの王国最強の剣士だ。幾ら白い騎士が強くても勝てはしまい」

宰相は余裕を持って話してくれた。

「そんな訳はありません。白い騎士様はこの大陸最強なのです」

私は宰相に言い放ったのだ。

「はははは、面白いことをいうな。そのような強い者ならばとっくにもっと有名になっておるわ」

宰相はそう言うと笑ってくれた。


マドックが上段に剣を構えた。ゆっくりと白い騎士様に近付く。

白い騎士様は下段に構えたままだ。そのままゆっくりと前に歩いてくる。


二人の間にピンとした空気が立ちこめた。一本の糸が張り巡らされたみたいだった。

次の瞬間、

「やああああ!」

マドックが叫ぶと距離を一気に詰めて上段から剣を振り下ろしたのだ。


ガチン!


下段から振り上げた剣で白い騎士様が受けた。


そのまま、二人は止まってしまったが、次の瞬間、飛び退りざまにマドックが剣を横に薙ぎ払った。

それを剣で受けつつ、一気に白い騎士様が前進する。

ズバッ

次の瞬間、マドックのふところに白い騎士様が飛び込んで、剣で下段から斬り上げていた。

「ギャッ」

マドックは叫び声を上げるとゆっくりと地面に倒れたのだった。



































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