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第26話 フローラとのお出かけ

 夏休みも折り返し。

 今日は久々のオフのため、自室で読書……ではなく、フローラとお出かけする約束をしている。

 この間行ったパン屋さんの他にも、どうやらフローラのオススメのお店が何軒かあるらしく、今日は色々と案内して貰う約束をしているのだ。


 最初はフローラも、公爵令嬢である私に紹介できるような所ではないと思っていたらしいが、美味しそうにパンを食べる私を見て気が変わったのだそうだ。


 その理由はどうなの? と思わなくもないが、まぁ分かってくれたのなら結果オーライってやつだ。

 というわけで、極力地味目な服装に着替えて、私はフローラとの待ち合わせ場所へ出かけるのであった。



 数日ぶりにやってきた繁華街は、今日も大賑わい。

 夏の強い日差しにも負けない賑わいは、ただこの場に溶け込んでいるだけで何だか楽しい気分にさせられる。

 しかも今日は、クロード様もいないし完全なる自由!

 だから思う存分、フローラと楽しんでやろうじゃないか。

 そう思い、私は今日の待ち合わせ場所であるこの間のパン屋さんへと向かうと、店先にフローラの姿が見える。


「あっ! メアリー様ぁ!」


 フローラも私に気付くと、それはもう嬉しそうに大きく手を振ってくれる。

 服装は前回のお使いの時とは違い、今日はしっかりとお洒落をしているフローラ。

 トレードマークであるピンクの髪を三つ編みでツインテールに束ね、白のワンピースを着ているその姿は正真正銘のヒロインだった。


「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」

「いえ! まだ集合時間前ですし、私が楽しみ過ぎて早く来ちゃっただけですから!」


 そう言ってはにかむフローラは、同性の私ですら一発で胸を射抜かれるほど可愛かった。

 もう何ていうか、他の攻略キャラ達のことなんて置いておいて、このまま私のことを攻略してくれないかしら。

 えっと、この国って同性婚は許されているんだっけ……?


「メアリー様?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてただけ」

「そうですか! では、行きましょう!」


 下らないことは一先ず置いておいて、とりあえず今日だけはフローラを独り占めだ。

 これから案内して貰う場所も楽しみだし、今日は全力で楽しもう!


 そう決め込んでフローラに案内されていると、割とパン屋さんから近くの場所で立ち止まる。


「ここです!」

「ここ?」


 最初に連れてこられたのは、何やら奇抜な建物だった。

 外壁は白やピンクに塗られており、動物のプレートなどが点々と飾られている。

 そして、でかでかと掲げられた看板には『モフモフカフェ』とだけ書かれていた。


 ――モフモフ? 何これ?


 主張が強い割に、何も伝わってこない……。

 ここが何なのかよく分からないまま、私はフローラに続いて店内へと足を踏み入れる。


 キャンキャンキャン!


 店の扉を開けると同時に、聞こえてくるのは犬の鳴き声。

 中には十匹近くの小型犬が放し飼い状態で、そんな小型犬を愛でながらカフェを楽しむお客さん達の姿――。


 なるほど、ここは要するに犬カフェってことか。

 犬と言っても、前世の世界の犬とはちょっと違う。

 まるで毛糸の塊のようなまん丸のワンちゃんから、真っ黒で額のところにも目がある三つ目のワンちゃんなど、こういうところは何だかもの凄くファンタジーを感じる。

 みんな小型だけれど、多種多様なワンちゃん達の無邪気な姿に、私の心は一気に弾む。


「まぁ! カワイイ!」

「ですよね!」


 感激する私に、フローラも嬉しそうに応えてくれる。

 どうやらフローラもワンちゃんが大好きなようで、もう完全に顔がふやけてしまっている。


 フローラが毛糸の塊のようなワンちゃんを抱きかかえて席に座ったため、私は三つ目のワンちゃんを抱きかかえて座る。

 この子が一番ファンタジー感満載だけれど、抱いてみると凄く大人しくていい子だった。

 人間にも慣れているのだろう、全く抵抗することもなく、すっぽりと腕の中に納まってくれる。


「メアリー様、嬉しそうですね」

「あら、分かる?」

「ええ、表情がふやけてしまっているので」


 そう言って、楽しそうに微笑むフローラ。

 どうやら私も、顔がふやけてしまっていたようだ。

 でも仕方ない、可愛すぎるこの子達が悪いのだ。


 注文したカフェラテも、犬のラテアートが描かれていて犬満載。

 ここはもう、犬好きにとっての楽園なのかもしれない。


「まさか、こんな場所があるなんて思わなかったわ。紹介してくれてありがとう」

「いえいえ、ここは絶対にメアリー様もお好きだろうと思っていたので、今日ご紹介できてよかったです」


 その言葉どおり、嬉しそうに微笑むフローラ。

 ああもう、本当にこの子は天使なのではないだろうか?

 私もこのぐらい可愛く生まれていれば、きっと今頃はクロード様もキースも私にベタ惚れで……うん、私は今の私のままで良かったかもしれない。

 世の中、適材適所なのだ。うん。


「メアリー様、見てください! この子、しっぽが二本ありますよ!」

「まぁ、それは珍しいわね」


 ここはもう、全てが幸せ空間。

 それからたっぷり二時間ほど、私達は気が済むまでワンちゃん達と戯れるのであった。

 今度お父様にお願いして、うちでもワンちゃんを飼いたいと思います。


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