「土の聖霊よ、我を護りし力となれ――オリハルコンゴーレム!」
会場の期待を背負ったクロード様が、魔法を詠唱する。
これまでにない巨大な魔法陣が舞台上に浮かび上がると、その中から大きな地鳴りと共に金属の鎧が浮かび上がってくる。
全長10メートル以上はありそうな、巨大なゴーレム。
その全身は白銀色の鎧で覆われており、ガラスのようにキレイに光り輝いている。
詠唱にもあったとおり、それがオリハルコンで出来ているのが一目で分かる。
オリハルコンと言えば、この世に存在する鉱物の中でも最強クラスを誇る物理耐久力を持つ。
オマケに魔法耐性も高いことで知られており、クロード様を護るように出現したそのゴーレムは、まさしく王とその従者のようだった。
土属性魔法には、他の属性と異なる特性がある。
それは、今クロード様の生み出したゴーレムのように、無から有形物を生成できる点だ。
錬金術などもこれに含まれるが、土魔法は物質を変化させることができ、火属性魔法と並びこの国の様々なシーンで有効活用されている。
戦闘においても非常に有用で、クロード様の生み出したゴーレムを代表に攻守共に優れた有形物の生成が可能であり、何が飛び出してくるか予測も難しいことから戦において最も警戒すべき属性魔法とも言える。
「見せてやれ」
会場全体がゴーレムに驚く中、クロード様は一言だけゴーレムへ命令する。
するとゴーレムは、クロード様の命令に応じて手にした大剣を横に一閃する。
ただ剣を振るっただけと言えばそれまで。
しかし、元々巨大な身体から振るわれる大剣は、轟音とともに嵐のような爆風を巻き起こす。
魔法で保護されていても、その衝撃で席まで振動が伝わってくる。
それは、ただゴーレムが大きいからというだけでない。
その速度が手練れの人間並みに速い事も相まっており、身体は巨大でも身のこなしは腕利きの騎士そのものだった。
「「うおおおおおおお!!」」
そのあまりの迫力に、会場からは歓声が上がる。
先ほどのゲールの魔法と比較しても、決して引けを取らない高位魔法。
本当に、フローラもゲールも、そしてクロード様も、同級生だとは思えないほどの実力を持っている。
まだ上級生の発表は行われていなくても、毎年来賓客として眺めていた私には分かる。
三人とも、学年など関係なく学園を代表できる実力を持っていると。
――しかし、それは他の学年も同じ。
去年の魔法実技祭で、その才能をみなへ知らしめた存在。
三年生主席のクラーク先輩、そして二年生になったキースだっているのだ。
二人も先ほどの三人同様、今すぐにでも軍の即戦力になれる程の魔法を、去年の魔法実技祭でお披露目してくれたことを覚えている。
それ故、今回の魔法実技祭は誰が優勝するのか全く予想も付かない白熱を見せていた。
「どうも、ありがとう!」
最後はオリハルコンゴーレムに持ち上げられながら、クロード様は笑顔を浮かべながら会場に集まったみんなへ手を振る。
まだ一年生の発表だというのに、まるでクロード様のために人が集まっているかのように再び歓声が上がる。
他の実行委員の子達も、クロード様に向けて大きく手を振っており、その光景は前世で言うところのアイドルのようだった。
それもそのはず、さっきの魔法にあのルックスなのだ。
そんなクロード様の姿に、私だって気が付けば釘付けになっていた。
元婚約者だからとか、そういう話は全て抜きにして、私はただそんなクロード様が誇らしく思えたから。
私に言ってくれたとおり、クロード様はこれ以上ないものを見せてくれた。
そのことが嬉しくて、自分のことではないけれど誇らしく思えたのだ。
そんな思いを抱きつつ、私は舞台に立つクロード様を見上げながら優勝して欲しいと願うのであった――。