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82 孤軍奮闘



 トバーシアは大きく分ければ巨人に類する一族だ。

 本物の巨人は山をも超えるようなのもいるので、それに比べればちょっと大きいぐらいにしかならないけれど。

 枝葉を広げたように育っていく角。

 体の各所にある短い毛皮はほとんどが茶色で、ところどころに白玉のような斑点があったりする。

 凶悪な人相が多い連中のくせに、そんなところに可愛さがあったりするところがなんか憎らしい。


 三人のトバーシアが手に思い思いの武器を持って襲いかかってくる。

 ハンマーに斧、そして槍だ。

 大きな身長を使った上からの重量物攻撃、しかも長柄。

 自らの利点を活かした武器の選択だなと思う。


 だけど、トバーシアとの戦いはこれが初めてではない。

 斧と槍が刃のある武器で、刃喰が喜んでいる。

 まず突き込んできた槍を切り、ハンマーを避けると今度は斧を切る。

 刀なんてそこまで丈夫な武器ではないので、こんな重量級の武器との打ち合いなんて避けた方がいいのに、刃喰はそれを望んでいる。

 刃さえ付いていればどんな武器だろうが刃喰は食いとる能力があるようで、そのために滅多なことで刃が欠けたり曲がったりすることはないようだ。

 何度かの打ち合いで斧の部分に亀裂が入った。

 刃喰の特性もあるだろうけど、衝撃波を生む術理技の【虎牙】を撃ち合う度に仕込んでいたのが効いたようだ。

 最終的に三人の手足を切って立てなくしたところで勝負ありとなる。


「ちっ。ほら、一人だ」


 トバーシアの長は舌打ちしながら一人を解放する。

 こういうところの約束をしっかり守るところが、憎めきれない部分でもある。

 後五回。


「よし、次だ。休憩はなしだぞ」

「いいよ。どうぞ」

「へっ、その余裕がいつまでもつか」


 次に前に出てきたのは、五人だった。

 槍二人、斧一人、棍棒一人、剣一人。

 刃物ではない棍棒を外れだと思うあたり、刃喰に影響されているなと思いつつ片付ける。

 トバーシアの恐ろしさはその巨体だけではない。

 その大きな角は周囲の魔力を吸い込む機能を持っている。

 棍棒持ちの一人が魔力を使った戦いを得意としているようで、他の仲間たちに魔力を供給していた。

 身体強化だろうか?

 あの魔力、奪えるのかな?

 さっきのトバーシアよりも速度も力も強くなった連中の動きを掻い潜り、棍棒持ちのトバーシアの頭に乗る。

【王気】。

 うん、近いほど操りやすい。

 そして、魔力でも操れるんだなということがはっきりした。

 慣れているというのもあるんだろうけど、【念動】への変化もやりやすい。

 他のこともできるようにしたいけど、まだ、これをしたまま戦い続けるほど器用にはできない。

 棍棒持ちを【念動】で戦闘不能にしてから他の四人を相手にする。

 刃喰を十分に喜ばせてから手足を切って戦闘不能にした。

 これで二人。


「次ぃぃっ!」


 長が少し苛立った。

 それでも約束は守る。

 一度勝てば一人を解き放つ。

 それを五回繰り返した。

 残ったのは、一人だけ。

 キヨアキだ。

 作為があるわけではないだろうけど、そこでキヨアキが残るのはなんだかなと思う。


 トバーシアはまだたくさん残っている。

 次の戦いになる度に数が増えてきて、さっきの戦いだと三十人のトバーシアと戦った。

 残りは、五十人ぐらいか。

 長の狙いとしては、俺を殺して勢いをつけてから村を滅ぼしたかったのかもしれない。

 だけどいまでは総数でも負けている状態だ。

 そんな状態で、俺より強い大爺やミコト様のいる村と戦えるはずもない。

 トバーシアの長も、どれだけ自棄になってもそんな考えになるはずがない。

 全部来るのか?

 それとも?


「さあ、どうする?」


 長はすぐに判断を下さなかった。

 おかげで息を整える暇もできたほどだ。


「ぐぐぐ……」


 それでも長は迷っている。

 怒りのあまり全員で襲いかかってしまいたいが、それをしたところで後がない。

 だが……と考えているだろう。

 しかし、ここまで数を減らしたこのトバーシアの集落に未来があるのか?

 少なくとも、あの長にはなさそうだけれど。


「ええい、このまま……」

「おい」


 攻める決断を下そうとした長に声をかけたのは、なんとキヨアキだった。


「やめとけ。勝っても負けても行き詰まってる」

「うるさい! お前に言われることなど……」

「生きていればやれることはたくさんある。ここで選ぶのは我慢じゃないのか?」

「ぐ、ぬぬぬ……」

「いや、なにを言っているのさ!」


 キヨアキの説得に長が傾きかけている。

 しかしそれより、キヨアキがどうしてそんなことを言うのか?


「ここで勝たないと、解放されないんだけど?」

「俺は解放を望んでいない」

「は?」

「俺はここで、お前に勝つ方法を探す!」

「え? なに?」

「俺は、お前に負けない!」

「なんでそんな結論⁉︎」


 意味がわからない。

 キヨアキがなんでそんなことを言うのか……いや、俺に敵対心を持っているのはわかるんだけど、なんでここでそれを持ち出すのさ?


「わけがわからない!」

「お前に理解してもらうつもりはない!」

「は、はははは! なんだかわからんが、それならそれでいいさ!」


 長が笑い出す。

 迷いが振り切れた顔だ。


「今回は俺の負けだ。だが、俺は負けたが、もう一つはどうだかな?」

「なにが言いたい?」

「さあな!」


 言いたいことだけ言うと、長はキヨアキの体を掴んで肩に乗せる。


「撤退だ!」


 そしてそのまま走り去っていった。

 怪我をしたトバーシアはその後をよたよたと追いかけていく。

 誰も、追撃しなかった。


「あはははは! なるほどな!」


 ただ一人、ミコト様だけが理解したようで笑っていた。

 いや、俺は理解できてないんだけど?



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