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84 暴走の痕跡



 仲間たちをディアナでダンジョンに送り、スラーナと一緒に道を戻る。

 だけど、村には入らずにトバーシアが去った方角へと移動することにした。

 ヤガンが村になにをするのか気になるけど、村に戻ってもミコト様たちに怒られるだけだ。

 それに、俺がいなくてもあの村の守りは硬い。

 ヤガンも簡単には手を出せないはずだ。

 だからこそ、なにをするのか気になるのだけど、近くにいるわけにもいかないのでトバーシアの後を追いかけてみることにした。

 あるいはヤガンがトバーシアと接触するかもしれないし、キヨアキを確保できる好機があるかもしれない。

 キヨアキは望まないかもしれないけれど、強くなるのに無理して地上にいる必要はないと思う。


「あいつらの拠点があるの?」

「トバーシアは定住しないからうちの村みたいなのはないけど、休むための場所はあちこちにあるはず」

「キャンプ地とでも言うのかしら?」

「かもね」


 負傷した連中のことを考えずにしばらく走ったのだろう。

 あちこちに新しい血の跡が残っているので、追いかけるのは簡単だ。

 トバーシアが進んで来たのは、山の合間にある獣道だ。

 というか、作ったのはトバーシアだろう。

 踏み潰された植物の匂いが強い。


「あっ、まずい」


 向かう先から風が吹き、その臭いが鼻腔を撫でた。


「なに?」

「いつでも戦えるようにしといて」


 説明は後回しにして、木々に姿を隠すようにして進む。

 すぐにそれが見えた。

 怪我で動けなくなったトバーシアがそこで行き倒れていた。

 そしてそれに、痩せ細った猿のような小さな影がいくつも群がっている。


「……なにあれ?」


 ああいう光景はダンジョンにもないから、スラーナには新鮮な不気味さを提供してくれたようだ。


「腐肉喰いの連中だ。カバネマシラとか名前がついてるけど」

「腐肉喰い?」

「死体を食べるんだよ。肉食獣の食べ残しを狙うような連中だけど、弱っていれば自分で襲うこともある」


 怪我をして走るトバーシアは、狩れる弱者に見えたんだろうな。

 なんとか一人は倒せた。

 その代わり、カバネマシラの方も何匹か犠牲が出ているようだ。


 仲間への葬送なんか考えることもない。

 トバーシアの死体で満足できなかった連中が食ってしまうことだろう。


「どうするの?」

「話の通じる連中じゃないし、襲ってはこないと思うけど、弱気を見せるとしつこいから」

「つまり?」

「堂々と通り抜けるんだけど、目の前を邪魔してきたら一匹殺すから」

「全部とは戦わない?」

「やるだけ無駄だしね。ここでは、倒した数で強くなった感じがしないでしょ?」

「……そうよね。変な話」

「そう?」


 ダンジョンにいるモンスターの方が変な生き物だと思うんだけどね。


「いま地上にいる生物ってダンジョンから溢れたモンスターが変化した姿じゃないの? 私はそう思っていたんだけど」


 ダンジョンから溢れたモンスターが、地上から人類を追い払った。

 そしてモンスターが残り、現在の状況になったのなら、地上にいる人たちはダンジョンモンスターを祖先とする存在のはず。

 だけど、それらを倒してもあまり強くなった気はしない。


「そうだね。変な話だ」


 変な話だけど、その真相なんて考えてもわかるはずがない。

 まずはカバネマシラをやり過ごすことを考えよう。

 勝てないわけじゃないけれど、ただ面倒な相手だ。

 動揺だけはしないようにスラーナに告げて、前に出ようとした。


 その時、ズシリと地面が揺れた。

 草木が揺れてザッと一斉に鳴る。

 カバネマシラの動きが止まり、こちらを見た。


「最悪」

「なに?」

「走るよ」

「え?」

「質問はあと!」


 スラーナの手を握り、ひた走る。

 次の瞬間、背後で太い木々が踏み潰される音がした。

 生木の砕ける甲高い音が追いかけてくる。

 カバネマシラがその音に負けないぐらいの高い声をあげて逃げていく。

 その間を縫って、俺たちも走る。


「後ろになにかいる⁉︎」

「いるよ! でも見ない方がいい。視線に力がある」

「わかった!」


 見るなだけだと見てしまうかもしれないから、これだけははっきり言っておかないといけない。

 俺たちのそばで、木の上に逃げようとしたカバネマシラの一匹が、見てしまったらしく、石のように固まって落ちてきた。

 落下の途中だったそれの足を掴み、後ろに放り投げる。

 もちろん見ないように気をつけながら。


 どうか、その一匹を口に入れたところで足を止めてくれますように。


 ……うん、無理だったみたいだ。

 まだ追いかけてくる。

 その途中で、いきなり新たな声が飛び込んできた。


「こっち!」


 声だけだ。


「この声っ!」

「だね!」


 スラーナも気付いた。

 わかってるけど気のせいではない。

 その声に反射的に従って方向転換。


「ここっ!」


 声が聞こえてくるのは……穴?

 だけど考えている暇もない。

 声に従ってその穴の中に飛び込む。

 慣れたぬるりとした感触が俺たちを受け止める。


「やっぱりこっちに来た」

「そうなると思ってた」


 二人が思い思いに言う。

 だけどそれより、俺には二人の方が驚きだ。


「なんでここにいるのさ?」

「「タケルがいるから!」」


 その穴には、クトラとタレアがいた。

 本当に、なんで先回りできるの?

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